〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase17〜
『リンクス、調子はどう?』
との、メガネ女の問いに、
俺は冗談半分で答える。
「期待と不安で、
心臓がバックンバックン!
ってトコだな」
『あはは。心配しないで。
メンテナンスは完璧だから』
メンテは完璧、か。
まぁ、そうだろうさ。
そういう面では信頼してる。
俺が心配なのは、
また余計な機能が増やされてんじゃねぇか、
とか、そういう……
今回の依頼は戦闘テストだ。
前代未聞、VOBでチェイスバトル。
今、その準備中。
情勢はどうあれ、
宇宙進出する気満々のメガネ女。
VOBで衛星軌道まで突っ込んで行って、
アサルト・セルの包囲網に、
穴を開けろとのご要望、だ。
そして、それを実現する為に、
より戦闘向けのVOB。
つまり直線移動だけではなく、
旋回を可能にしたそれを開発中。
その動作ないし、
耐久試験を行うってのが、
今回の依頼になる。
クーガーはメガネ女に協力的。
宇宙進出の件も検討中って話だ。
しかし、クーガーの親会社、GAが、
宇宙開発に乗り出してるって話は、
聞いた事が無い。
クーガー、あわよくば、
親企業を出し抜くつもりか?
……まぁ、いい。
依頼人の事情に口を出さんのも、
傭兵の矜持っちゃ矜持だ。
『VOB、接続完了した。
いつでも行ける』
と、戦闘テストの相手役、
シリエジオの弟子が言う。
奴は件の反動勢力からの、
連絡を待っている状態。
連中は足並みを揃えるだとかで、
ちょい猶予があるらしい。
その間に、
この前、第8艦隊の依頼で助けてやった、
その借りを返そうって話だ。
……という話が、
その反動勢力にも流されている。
って事は、アレか?
下手すると、俺にまで、
お呼びが掛かったりするのか?
それもメンドクセェな。
まぁ、とにかく今は、
目の前の仕事だ。
機体は、いつも通り。
お互い中量級。
使い慣れた機体。
武装は……ほぼ同じだ。
被弾時のデータを取る為に、
ある程度、簡略化したいらしい。
右手には弾速重視のレールガン。
まぁ、高速戦闘だからな。
そして、左手にはブレード。
今回のVOB、
ブレードを当てに行けるだけの、
馬鹿げた旋回性能を実現している。らしい。
まぁ、お互い動いちまうと、
どうなるか分からんが……
とにかく、やってみよう。
それもテストだ。
バックウェポンにはレーダーと、
やはり弾速重視、
肩越しのスナイパー・キャノンだ。
それから、もう1つ。
『あー、分かってると思うが、
ちゃんと肩の方のも、
使ってやってくれよな?』
と、技術屋の爺さんから、
通信が入る。
奴は未だにフリーの技術屋だが、
一応GA側に繋ぎを作ってるらしい。
縛られたくないが、
逃げ道は作っておく、か。
抜け目の無ぇジジィだ。
で、その、ショルダーユニット。
爺さんの試作品。
こいつは浮遊機雷。
トリガー1つで、50ばかり、
小型浮遊機雷を後方に、
纏めてバラ撒く仕様になっている。
ま、1個ずつ仕掛けてたんじゃ、
まどろっこしいからな。
射出後、数秒間は爆発しない。
お互いがぶつからない様に、
自律飛行して距離を取る。
そんな仕掛けがあるからこそ、
纏めてバラ撒いても大丈夫、だそうだ。
しかし、小型と言っても、
派手に爆発する上に、
熱源探知の近接信管式。
1個でも触ると、
50個纏めて誘爆しやがるらしい。
これ、ノーマルとかだと、
即死レベルじゃないか?
何つーか、使うのはいいとして、
使われるのを考えると、不安だ。
……頑張って避けよう。
『それじゃあ、始めましょうか。
無茶しないでね』
『手加減するなよ?
お前の力を見せてやれ』
互いのオペレーター、
メガネ女とシリエジオが言う。
俺とシリエジオの弟子、
シミュレータ上での対戦結果は、
最近50回で、27勝23敗。
まぁ、およそ五分五分だな。
武装もほぼ同じ。
あとは、オペレーターが鍵だとか、
言えなくもない、か。
VOB、起動。
2機のACが飛行を開始する。
並んで飛んで、安定した所で、
左右、別方向へ。
距離を5万ばかり取ってから、
対戦を開始する。
……さて。
シリエジオの弟子、旋回。
メガネ女の新型VOB、
あいつは初めてだったな。
調子を確かめている様子だ。
こっちは慣れてる。
じゃあ、先手を取るか。
俺はメガネ女に通信。
「最大距離で仕掛けるぞ。
ターゲット確認。射程外。
相対速度計測。
発射カウントだ。
射程距離到達よりも、
チョイ早めに頼む」
『OK! チョイ早めね!
えっと……7、6、5……』
メガネ女、カウントを開始。
今、お互い接近している途中だ。
そして、かなり距離がある。
発射してから当たるまでに、
相手も弾丸に近付いて来る。
ちょいと射程外くらいで、撃つ。
届く頃には有効射程だ。
FCSの照準補正機能とか、
最大限に活かそうってんなら、
射程に入ってから撃つべきだろうが……
メガネ女は、その辺、
無頓着なのか?
機械は適切に使えー、
みたいな事は言って来ない。
まぁ、何でもいいか。
つべこべ言わねぇのは助かる。
『3、2……今!』
メガネ女の合図。
俺はトリガーを引く。
スナイパー・キャノン、発射。
……着弾確認。
2機はそのまま、
超音速ですれ違う。
コンマ数秒の邂逅。
再び開く距離。
『ぃよっし!
ナイス・ショット!
ナイス・ナビゲート!』
喜んでるのはメガネ女。
まるで自分が撃ったみてぇに。
シリエジオの弟子は、
機体を旋回、次に備えつつ、
ちょいと苦々しげに言う。
『油断した!
射程外から?
やはり、経験量が違う』
『落ち着け。
たかが1発だ。
適正は、お前の方が上なんだ。
勝てない相手じゃない。
……いい気になるなよ?
メガネの小娘。
クーガーのくせに、
ソルディオスみたいなモン、
2つもブラ下げやがって』
とか毒づいてるのは、
シリエジオの姐さん。
……ソルディオス?
大方、メガネ女の胸の話だろうが、
何つー話を。
『ねぇ、アレ、どういう意味?
ソルディオスって』
と、メガネ女。
自覚が無いのか?
ってか、そんな話、
俺に振るなよ。俺に。
「ああ、もう、後だ、後!
相手の心理戦に、
乗ってやるこた無ぇぞ!」
『おっと! さっすが、セレン・ヘイズ。
経験量が違うわね。
私も、あれぐらい年食ったら、
上手くやれる様になるかなぁ?』
お前が心理戦かよ。
メガネ女、嫌味っぽい口調で、
シリエジオを挑発する。
……頼むから姐さんに、
年の話をするんじゃねぇ。
後が怖いぜ、後が。
当のシリエジオは……通信途絶。
秘匿回線って奴か。
今頃は、怒り狂ってるか、
でなきゃ、弟子と作戦会議中…
…作戦会議?
と、なりゃあ、
何か仕掛けて来るな。
「次、本気で来るぞ!
気ぃ引き締めろ!」
『ラジャ!』
よしんばシリエジオが、
ブチ切れてたとして。
……いや、それはそれで怖いが。
しかし、弟子の方。
あいつはクールな奴だ。
乗せられて無謀をやる玉でもない。
苛烈なオペレーターの作戦立案に、
冷静沈着な実行役。
かなり怖い組み合わせだ。
だが、そんなモンを前にしても、
俺の精神状態は、
不思議と安定していた。
こりゃあ、アレか。
オペレーターの存在感みたいな。
経験浅くて、楽天的で、
こんな、よく分からんオペレーター。
だが、それでも居ねぇよりは、
よっぽど頼もしいモンだな。
自機、進路を反転。
再度攻撃に移る。
おかしな相方、才能のある後輩、
ジジイの発明品や、
怖い先輩に振り回されて、か。
こんな日々も、まぁ、
悪くは無ぇだろうか。
……だが、それも、
いつまで続くモンじゃねぇ。
事態は急変する。