〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase18〜
『終わったか。
何と、呆気も無い』
ビルの上から見下ろしながら、
呟く様に言ったのは、
リンクス、ジェラルド・ジェンドリン。
AC名は【ノブリス・オブリージュ】。
オーメル側、ローゼンタール所属。
「いいや? まだ居るみたいだぜ。
お客さん、第4陣だ」
と、返したのは俺。
正面からは、敵増援。
ノーマルが10体前後。
今回は居住コロニーで戦闘。
依頼主はローゼンタール。
廃棄されたコロニー内に立て篭もっている、
中小規模のテロ屋を相手に、共同作業だ。
シリエジオの弟子は、
件の反動勢力、行動開始まで、
まだ間があると言った。
だから……まぁ、それまでに、
小遣い稼ぎってワケだ。
反動勢力の応対、主立った所は、
企業専属の連中に任せる。
直接的な苦労は無いだろう。
が、その間、企業紛争が停滞すると、
俺達みたいな独立傭兵は、
メシの種に困ったりする。
企業の依頼を受けて、
反動勢力と戦えばいいってか?
そいつは勘弁だ。
市民を守りながら戦うなんて、
正直言って面倒臭い。
そう、守る苦労も、
守り切れなかった時の後悔もまた、
面倒臭いモンだ。
それにしても……
今回の依頼、少し妙だと思う。
敵は概ね、自律式のノーマル。
人が乗ってるとは思えない。
集中攻撃を受けても、
大して慌てる様子も無く、
モロに食らってやがる。
増援にしたって、
何だって、こう、散発的に……
それなりの戦力があるなら、
一気に投入すればいいじゃねぇか。
時間でも稼いでいるつもりか?
ま、仕事は楽な方がいい。
願ったりと言えば、
願ったりなんだが……気になるな。
『パートナー、粗製とは嘘だろう。
カラード上位とまでは言わないが、
それでも悪くはない』
おっと? 余裕があるモンだから、
雑談も出来るってか。
手持ち無沙汰に、
口を動かし始めたジェラルド。
しかし“カラード上位と言わないが”
と来たモンだ。
……そりゃあ、つまり、
“俺ほどじゃないが”ってか?
向こうさんもカラード上位。
言う事が違うねぇ……
「腕前の方はともかくだが、
適正自体は高くない。
だから粗製って話だよ。
実際、レーダーサイトなんざ、
半分も見えちゃ居ないんだぜ?」
と、俺。
嘘じゃないぞ?
本当に凄い奴になると、
同時に360度、
一周見渡せてるとか……
まぁ、そこまでの話になると、
本当かどうか怪しいが。
『それでいて、あの挙動。
君に高い適正があったらと思うと、
少々、ゾッとするよ』
「どうだかね……」
言いながら、俺は、
中距離で撃ち合うノブリスを、
斜め後方から援護する。
長い間ノーマルに乗ってたから、な。
後方支援は慣れたモンだ。
ネクストと同行する場合、
ノーマルにはセオリーがある。
ネクストが出張るんだ。
相手も大体ネクストだろう。
ノーマルだけじゃ相手にならん。
ネクストが落ちれば、
同行しているノーマルもまた、
半自動的に落とされる。
だから、ノーマル乗りは、
必死こいてネクストを援護する。
ま、最近じゃあ、
アームズフォートが出張って来て、
そんな関係性も希薄になって来たが……
っと、ノブリス前進。
自機も前進だ。
敵、前方にノーマル6。
二列縦隊。
ノブリスが左1機目に照準。
レーザー砲を掃射して撃破。
自機、右の1機目を頂く。
その間にノブリス、
ブレードで左2機目を落としつつ、
そのままの勢いで敵中突破。
奴は敵照準を引き付けつつ、
右方向へ離脱した。
自機、続いて突入。
ターゲットはノブリスを狙い、
側面を晒した奴らだ、
ブレードで1撃。
ライフルで1連射。
すり抜けざまに2機落とす。
……1機残った?
しかし、自機が振り返るより早く、
ノブリスが反転。
ライフルでトドメを刺した。
『撃墜数を譲ったのか?
見せ場を残してくれなくても』
「ははっ! 悪いね。
俺のはタダのヘタクソだ」
『よく言うよ。
どこか企業に参画しないのか?
勿体無い』
「まぁ、昔、色々あってな……」
『企業の支援を捨てて、
独立傭兵を続ける……
それに値する理由でも?』
「理由。まぁ、色々あるが、
そうだな……」
敵ノーマル、
第5陣、接近。
俺はノブリスの援護をしつつ、
話を続ける。
「あれは、クレイドルの体制を始めて、
まだ何年も経たない頃の話だ。
地上に残された人々は、
クレイドルを見上げ、
不公平を嘆いていた。
そんな中に、
俺が惚れた女が居て、な。
そいつには、俺とは別の、
想っている男が居た。
その男は、企業の人間で……
クレイドルに住んでいた。
俺は、その女を、
振り向かせる事は出来なかった。
それでも……せめて、
力になりたかった。
企業の人間になっちまえば、
身内をクレイドルに乗せるのは簡単だ。
知人レベルじゃ、
居住許可は無理だとしても、
往復のチケットぐらい手に入るだろ?
せめて、一目だけでも、
その思い人って奴に、
会わせてやろうと思ってさ」
『それで、相手の男に恨みが?
そんな狭量な』
「ああ、いや、
問題はそいつじゃなくて……
まぁ、聞けよ。
とにかくだ。
俺は企業傘下の傭兵として、
ノーマル乗りとして協力した。
それで……十何番目だか、
クレイドルを打ち上げる時が来て、
護衛の任務に就いた。
企業は、テロを警戒していた。
クレイドルの体制に反発する、
地上の連中の中には、
武力で主張する野蛮人も居た訳だ」
『それはまた。
今も昔も、進歩が無い。
嘆かわしいな』
「まぁ、な。
俺はクレイドルを守る為に、
テロリストの奴らを始末した。
……殺しまくったさ。
生身の歩兵にまで、
マシンガンを乱射した。
阿鼻叫喚だ。
血で手を穢すなんざ、
どうでも良かった。
戦果を上げたかった。
企業に認められたかった。
惚れた女を、
クレイドルに送る為に。
だが……
テロリストどもを殺した。
その中に、な。
その女が居たんだ」
『……何だって?』
「テロ屋の中に居た、
惚れた女を殺した。
俺は、依頼も何も投げ出して、
泣いた。喚いた。ガキみたいに。
……実際、ガキとは言わないが、
青二才の類だったけどな。
で、暫くして、
自分を無理に落ち着かせて
女の死体を届けに行った。
死体っていうか、
もう、残骸っていうか……
そん時、その女の遺族、
母親に聞かされたぜ。
クレイドルの男を、
“想っていた”ってのは、
惚れていたんじゃない。
恨んでいたんだ。
自分を捨てた男を。
その男が参加している企業を。
クレイドルの体制を。
ついでに、書きかけては消したらしい、
幾つものメールが、
あの女の端末から見つかった。
俺は、悪いと思ったんだが、
母親に勧められて、
内容を読んでみて……
正直、呆然としたぜ。
俺は、あの女を、
振り向かせられなかったんじゃない。
あの女は、俺を、
巻き込みたくなかったんだ。
“愛している。
でも、だからこそ、
一緒には、なれない”
結局、女は死んで、
空っぽの俺だけが残った。
……バカな話だろ」
『すまない……もう、
何と言っていいか』
シケた声を出すジェラルド。
聞いたのがマズかったと思ったか。
「気にすんな。話したのは俺だ。
話す気が無かったら、
そもそも話してない」
『だが、同情を禁じえない。
その女性にも……君にも』
同情されても、なぁ?
何が変わるワケじゃなし。
まぁ、ともかく。
相方の戦意が落ちるのもアレなんで、
話題を変えようか。
「しかし、まぁ、何だ。
カッコイイよな、それ。
背中の奴」
ノブリス・オブリージュの専用装備。
肩越しの3連装レーザーキャノン。
が、左右に計2つ。
収納時の形態が翼みたいで、
“破壊天使砲”とか呼んでる奴も居た。
『あ、ああ。ありがとう。
君のもなかなか、キマってるよ』
真っ正直な感想をくれやがる。
自機を褒められたら、
素直に嬉しいってかい。
で、俺の?
背中のブツは、普通のキャノン。
肩のアレは武器じゃない。
となると……まぁ、
こっちだな。
改造型、レーザーブレード・ライフル。
無駄に長いから両手で扱う。
ってだけでも、相当に奇抜だ。
しかもライフルが、
粒子密度を落とした連射タイプと、
圧縮された超長射程。切り替え可能。
で、ブレードも、
近接短距離用の分厚いブレードと、
リーチの長い、槍形態に変形……
って、あの馬鹿メガネ。
どんだけ一纏めにすりゃ、
気が済むってんだ?
まぁ、カッコイイっちゃ、
カッコイイけどよ……
さて。
カッコイイ装備コンビ、
敵、第6陣を掃討。
すると第7陣が出現。
いよいよ、おかしいな。
相当な規模の戦力がありながら、
わざわざ小出しにして、
時間を稼いでいるようにしか思えない。
俺が相方に相談しようと思った矢先、
自機に通信が来た。
『唐突に、すまない。
少し話せるか?』
通信相手、声の主は、
どうやらシリエジオの弟子。
「どうした?
何か動きがあったか」
『すまない。
私は……彼らと行く』
待て。ちょっと待て。
何だって?
「彼ら……って、
例の反動勢力か?」
『……そうだ』
こちらに協力する、
スパイ役を買って出るハズだった、
シリエジオの弟子。
そいつが連中と行く。
スパイは返上って事か。
「今の体制と戦いたい、か」
『助言を無駄にする』
「助言?」
『戦わない戦い方、とか……』
「そんなのは構わねぇ。
お前さんの人生だ。
しかし、どうする。
協力の約束は。
せめて、その……いつだ。
作戦開始は」
『作戦開始は…………今』
と、視界の端。
遠くの方で微かに、
何かが光った。
緑色? コジマ粒子の光。
アサルトアーマー的な……
それが、2……3……4つ。
コジマミサイルやキャノンにしては、
間隔が短過ぎる。
……って事は。
あの野郎、持って行きやがったな!
メガネ女の試作品。
新兵器、コジマグレネード。
着弾地点にコジマ爆発を起こす代物だ。
フザけた連射速度で、
汚染物質を撒き散らす……
間違っても、
テロ屋に持たすモンじゃねぇ!
「ちょっと待て!
お前、今どこに……」
通信途絶。
野郎、切りやがった。
光った方角は?
奴はどこだ。
今、どこに居る!
「ジェラルド!
光った場所、分かるか?
西だ!」
『あの方角は……
まさか、カーパルス?』
アルテリア施設!
と、こっちにも敵増援。
さっきまでの規模じゃ無ぇ。
高ランクのリンクスとして厄介な、
ノブリス・オブリージュをここに釘付けにして、
その隙に、アルテリア施設を襲撃する、か。
連中にも頭が回る奴が居やがる。
厄介な……
と、相方が俺に脱出を勧める。
『多勢に無勢……か。
残弾も残り少ない。
脱出してくれ。
ここは任せて』
「あんたこそ脱出しろ、ジェラルド。
こっちはまだ余裕がある。
ここは俺がやる。
あんたはカーパルスを」
『しかし、このノブリス・オブリージュ。
友軍を見捨てて行く訳には』
「いいから行け!
“ノブリス・オブリージュ”だろ!
本分を果たせよ!
野良犬の俺なんかより、
クレイドルの非戦闘員を守れ!」
……そう、野良犬だ。
だから企業の理念だの、
テロの理想だの、
そんなモンは知った事か。
そんな面倒な事は相方に、
企業の偉い連中に任せる。
俺は、野良犬だ。
野良犬のケンカをやるだけだ。