〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase19〜
『……恩に着る!』
ノブリス・オブリージュ、
オーバード・ブースト起動。
奴は敵中を突っ切って、
高速度で撤退する。
向かう先はカーパルス。
シリエジオが待ち受ける、
アルテリア施設だ
で、残ったのは俺と、
有象無象の敵ノーマル部隊、か。
しかし、その、
撤退したノブリスとはすれ違いに、
接近する機体あり。
……リンクスだと?
識別は敵。
接敵する前に、可能な限り、
敵を判別したいトコだが……
こっちはオペレーターが不在。
メガネ女は本社の研究所勤め。
まぁ、元々そっちが本業だ。
自分でやるっきゃ無ぇ。
俺は自機の望遠機能を最大に。
同時にデータ照合。
ターゲット確認。
薄ピンクの機体。
昔どこかで見たエンブレム。
……これ、よりにもよって、
シリエジオか!?
「ちょ、姐さん?
あんた引退したんじゃ」
『人手不足でな。
それに……お互いファンタズマを気取る程、
まだ年寄りでもないだろう?』
「姐さんは知らんが、
俺はすっかり老け込んじまったぜ?」
『よく言う。お前こそ、
まだ現役だろうが。
……聞こえているな?
ノブリス・オブリージュが戻るまでに、
防衛部隊を出来る限り破壊しておけ。
それだけ後が楽になるのだからな』
何だ? シリエジオは誰と話している。
弟子のあいつか?
戦いながらオペレーターかよ。
ナメてくれやがって。
全部、手下に任せる気か?
それともノブリスが辿り着く前に、
俺を片付ける自信があるんだ?
……考えてる場合じゃねぇな。
シリエジオはまだ射程圏外だが、
有象無象のノーマル部隊が、
雨霰と撃って来る。
ライフルにバズーカ、ミサイル。
まぁ、ノーマルの武装だ。
大火力とは言わないが、
それでも多数。
イチイチ食らってられっか。
クイックブースト噴射。
下りつつ、進路を左に捻る。
ミサイル群、回避。
そのまま左に応射。撃墜。
1機、2機……
右から被弾。応戦体勢。
クイックブースト、前。
右へ捻りつつ、右。左。前。
ブレード一閃。ブースト。
崩れる敵を盾にしつつ、
応射、応射。
……エネルギー残量、
ちょい厳しい。
ブーストで距離を詰め、
アサルトアーマー、起動。
コジマ粒子、消費は半分だけ。
自機は今、ジェネレーターが特殊仕様だ。
2つ併せた様な構造になっている。
人間の肺みたいな……
片肺でブッ放しても、
コジマ粒子はもう半分ある。
どっちも出力は落ちるが、
アサルトアーマーを使いつつ、
プライマル・アーマーは維持。
しかし、ホント多い。
敵ノーマル、残数30強。
捌き切れん。
シリエジオ、戦闘領域に到達。
雑魚も残ってる内に本番だ。
残弾も残り少ない。
……雑魚は後回しだ。
目標、シリエジオ。
残りは自律ノーマル。
逃げるんでも何でも、
後で、どうにでもなる。
接敵する。
目標、射程内。
シリエジオ、猛攻。
レールガンとレーザーの雨あられ。
ブランクがあろうと、
苛烈な性格はそのままだ。
こっちも、クイックと通常、オーバード。
各種ブーストを駆使して回避するが、
向こうにはノーマル部隊の弾幕もある。
避け切れん。
おまけに先の戦いもあって、
自機は装甲がヤバイ。
弾の方だって、そろそろ無いが、
被弾の多い近接戦闘する余裕なんざ……
決着を急ぐしか無ぇ。
自機、肩部装備、
リフレクト・オービット展開。
こいつは無線誘導兵装だ。
板状16枚の自立飛行物体が、
自機前方、距離300四方を取り囲む。
っと……こりゃあダメか?
頭が痛い。痛いなんてモンじゃねぇ。
機体制御もままならん。
低いAMS適正を限界ギリギリまで使った、
複数オービットの同時照準調整。
俺自身への負荷がキツイ。
だが、それでも……
オービットは動いている、か。
こうなりゃ根比べだ。
自分がくたばる前に倒す。
ターゲット確認。
オービット13号。
可変ブレードライフル、狙撃モード。
最大出力で照射。
オービットはレーザーを、
増幅しつつ拡散、互いに反射し合う。
囲いの中に多元的に叩き込む。
……シリエジオ、撃墜。
他の自律ノーマルどもは、
どうやらシリエジオからの操作だったらしい。
奴が落ちたら動かなくなった。
俺は自機を降り、
シリエジオのコクピットに上る。
姐さんに銃を突きつける。
シリエジオの姉御……
リンクス・霞スミカは、
面食らった様な顔をしていた。
「何だったんだ、今のは」
「敵を相手に、
種明かしは無しだぜ」
「……フ、なるほど。
しかし意外と、
腕を上げていた様だな。
逃げ回るばかりだと思っていた、
あのチキン野郎が」
「俺の腕じゃねぇだろ。
姐さんこそ、
腕が鈍ったんじゃねぇのか?
でなきゃ、メガネ女の変な装備に、
調子でも狂ったか」
『ああ、そうだな……
やはり、あの女、
片付けておいて正解だったか』
「……何だと?」
「急げばまだ、
息があるかも知れないが、なぁ?」
薄ら笑いを浮かべる、
シリエジオの姐御。
だが、笑いながらも、
姐さんの目は、
俺を真っ直ぐ見据えていた。
こちらの出方を伺っている?
そんな様にも見えた。
……俺は冷静に考える。
まず、あいつの居場所。
研究施設つっても、
一応は本社の施設だろ。
防衛部隊だの、護衛が居るハズだ。
急を要するのはカーパルス。
シリエジオの弟子、天災坊や。
俺の勝率は5割だが、
ジェラルドが一緒となりゃあ……
「罠、だな。
あの坊やが幾ら化け物でも、
俺とジェラルド、
同時に相手にするのはキツイ。
増援を遅らせるとか、
引き離そうって魂胆だろ?
そうでなくとも、
こっちの残弾は残り僅か。
それなりの部隊が待ち伏せてんなら、
研究所に行ってみた所で、
俺の方が始末される」
『仮に罠だとして、
どうするんだ、お前は。
強行突破。後ろを気にする前に、
前をまず何とかする、だったか?
死中に活路を見出したはいいが、
戻ってみたら、後方部隊は全滅。
どうだ、昔を思い出さないか?』
……クソッタレ。
嫌な事を思い出させる。
ああ、そうだ。
前にもあった。
突出した俺の部隊。
襲撃された味方本営。
……死んだのは、
俺のオペレーター。
姐さんは、俺の過去を知っている。
恐らく罠だろう。
優先すべきはカーパルスだ。
だが、それでも……
機体の端末を操作、
弟子との通信を再開するシリエジオを尻目に、
俺はコクピットに戻る。
オーバード・ブースト起動。
向かう先は、
メガネ女の研究所だ。
研究施設に到達。戦闘は無い。
遅かったか?
だが、様子がおかしい。
戦闘が無いというか、
戦闘の跡すら無い。
物資搬送用の機械は動いているし、
研究員の姿もある。
……どういう事だ?
ノーマルで襲撃したんじゃないのか?
じゃあ、姐さんがメガネ女を直接…
…確かめる。
自機を降りる。
守衛をブッ飛ばしつつ、
施設の中へ。
撃たれたりしてんじゃねぇだろうな。
ちゃんと助けは呼べてんのか?
知ってる顔が事切れてる所なんて、
正直、見たくも無い。
が、確かめない事には始まらない。
あのバカを探して、
俺は走り回る。
どこだ。どこに居るんだ。
見つからない。
過ぎていく時間。
焦燥感ばかり募る。
疲労。戦闘の疲労。
見つけられない疲労感。
息が上がる。
俺が膝に手をついて、
頭を下げた時、
「あれ?」
よく知っている、
間の抜けた声。
顔を上げると、
メガネ女が正面に居た。
「作戦は? もう終わったん?」
こいつ……全っ然、無事だ。
案の定、俺を撤退させる為の、
姐さんの嘘だったのか。
そう、嘘。丸っきり嘘だ。
力が抜ける。
「わ、ちょ、ちょっと……!?」
何にしても、
こいつが無事で良かった。
手の届かない所で、
また何かを失うなんざ……
俺は思わず、
メガネ女を抱き締めていた。