〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase20〜
「派手にやりやがって、まー……」
と、ソファでニュースを見ていた俺は、
独り言を漏らした。
映像の中はアルテリア・カーパルス。
大暴れしているのは、
例のシリエジオの弟子。
AC【ノブリス・オブリージュ】は、
不幸にも敗北した。
が、そのリンクス、
ジェラルド・ジェンドリンは、
幸運にも生還。
多少の負傷はあるらしいが。
AMSから光は逆流しなかった様で……
まぁ、それは何よりだ。
実質、見捨てといて死なれたんじゃ、
寝覚めが悪い。
と、ニュースを見ている後ろで、
缶の蓋を開ける音がした。
振り返ると、
開かれた冷蔵庫のドアと、
その向こうに人影。
どうやらメガネ女、
冷蔵庫を漁っているらしい。
あー、そういえば、さっき、
シャワー借りるとか言ってたな。
ちょっと湯気が見えた。
風呂上りに、ビール。
定番だ。確かに定番なんだが。
野郎を待たせて風呂に入るっていう、
その根性もアレなんだが、
何より、それ、俺のビール!
「おい、勝手に飲むな」
「いいじゃない。
ケチケチしないの」
ったく。
ここ、俺の家だぞ。
何であいつが、
俺の家に居るかと言うと……
テロのせいで物資が思うように揃わず、
ちょいと手持ち無沙汰らしい。
世界がドタバタしちゃいるが、
俺達の状況は緩慢だった。
ようやく動き出した反動勢力……
平たく言うとテロ組織だが、
その声明によると、
名称は【ORCA旅団】、だそうだ。
各企業に通達された声明文は、
“To Nobles.
Welcome to the Earth.”
……ま、簡潔だな。
空で高みの見物を決め込んでいた連中を、
地上に引きずり落とそうって話。
まさに、ようこそ地球へ、だ。
で、そのテロ屋どもの狙いだが、
考えられるのはアルテリア施設。
先の同時攻撃で回収し損なった奴だな。
企業連は、奪われたアルテリア施設の、
奪還作戦を画策すると共に、
残るアルテリアの防備を固めている。
……が、それだけってワケにもいかない。
このORCA旅団って奴、
ただのテロリスにとは違う。
リンクスとネクストを多数保有、っていう、
戦力的な事もそうなんだが、
加えて、相当に頭が切れるらしい。
例えば……まず、
自律式の無人ノーマルなんかに、
近場の企業施設を攻撃させて、陽動。
そっちに目を向けておいて、
その隙にネクストが、
本命のアルテリアを回収、って事もある。
しかし、陽動と分かっていても、
企業側は放ってはおけない。
勿論、クレイドルも大事なんだが……
企業やクレイドルを維持する為の、
人員だとか資源だとか。
それだって、それなりに大事だ。
結果、企業側は振り回されている。
リンクスの出動が繰り返し、だ。
メガネ女もクーガーの、
つまりGA側、企業の人間だ。
雇い主がテロ屋の対策で忙しい中、
好き勝手に運用実験なんて、
しては居られない。
……で、待機だ。
メガネ女はスケジュールの調整中。
物資や人員の確保が上手く行ってない。
ブツが揃うまで、待機中。
揃ったら揃ったで、
防衛部隊の再編、装備開発とかに、
駆り出されたりする。
俺自身も、テロ殲滅はともかく、
企業施設の防衛、
緊急出撃に備えて、待機。
つっても、メガネ女、
まだ研究自体は、
完全に手放した様子でなく……
「で、何か思いついた?」
これだ。
作れんのなら、ネタ出しだ。
VOBにせよ、
対アサルト・セルの兵器案にせよ、
俺にもネタ出しを手伝えと。
弱小のクーガー、
テロ屋への警戒で浮き足立つ中、
コイツ1人だけマイペース。
暇を見ては端末で、
次の発明の構想を練っている。
熱心なこった。
しかし……簡単に言ってくれるぜ。
俺は技術屋じゃないんだが。
「まー、その……アレだ。
チェインガンみたいに回転しながら、
実弾ブレードを次々に叩き込む、とか」
「着想としてはアリね。
かなりの重量になりそうだけど」
「あと、は……うーん?
曲がるレーザー」
「技術的には不可能じゃないわ。
銃口より先に、何か電磁的な力を掛けて、
粒子を屈折させる機構を作るとか。
問題は、やっぱり重量かな。
大掛かりな装置になりそう」
「んー……あとな。
分裂ミサイル、を、
多段階で分裂……とか」
「二回も三回も分裂するって事?
凄い数になりそう。
相互でぶつからない様に、
精密な制御が必要よね。
MSACの人に聞いてみようかしら」
MSACは、アレだ。
クーガーと同じ、
GAグループの企業。
俺は最近まで、
ミサイル屋か何かだとさえ、
思っていたんだが……
本当は電算系の、
ハイテク企業なんだとか。
まぁ、リンクスってだけなら、
知らなくてもいい情報だ。
が、リンクスというのは、
新種の生き物じゃない。
一応は人間だ。生活もする。
よくよく見たら、
うちの家電……電子レンジとかも、
MSAC製だったりして、な。
メガ・コングロ……何とか。
企業は軍事のみならず、
色々手がけているらしい。
「他には? 何か無い?」
「そうだな……
あとは、何か出っ張りが」
「出っ張り? 何それ」
「例えば、だな……
ブレードを持って行った。
が、ザコ敵が速くて追い切れない。
収納して来たハンドガンを使いたい。
……が、後にAFが予見されていて、
ブレードをパージしたくない、
って時に、だ。
ちょっとブレード引っ掛けておいて、
ハンドガン撃って、また仕舞って、
ブレードを持ち直す……には、
どうしたモンか、だ。
乱戦中に、そこら辺に転がして、
ブレードがダメになってもなぁ?」
「それで出っ張りなんだ?
うーん……
補助アーム付きのホルスターでも作って、
そこに入れたらいいのかなぁ……
でも、よくそんな、
ほいほいネタが出るね?」
「ほいほいて……
結構大変なんだぜ?」
と、俺は肩をすくめて、
メガネ女を振り返る。
本当は適当言ってるだけなんだが、
そこら辺は黙っておく事にしよう。
だが、そんな事よりも。
俺は振り返った先の光景に驚愕した。
俺は思わず視線を反らし、
「……おい、上!」
「上?」
「上を着ろ、上を!」
「え? あっ、やだ! ごめん!」
……お前、何が、
やだ・ごめん、だよ。
で、下はジーパン、
上はタオル一枚、首から下げただけの格好で、
メガネ女がバタバタ走り去っていく。
で、下はジーパン、
上はシャツ一枚着ただけの格好になって、
メガネ女がバタバタと戻って来た。
……もうちょっと気を使え。
服装とか。
いや、そんな気を使う暇すら、
全部研究につぎ込んで来たからこそ、
今のコイツがあるんだろうか。
「やー、ごめんごめん。
自分の家に居る様な気がしちゃって」
まぁ今時、コロニー内の家なんて、
どこも作りは似たり寄ったりなんだろうが、
それにしても、だ。
「お前、家だといつも……
あんななのか?」
「やだ、想像しないでよ」
「してねぇよ! ……じゃなくて、
少しは警戒しろって話を、だな」
「あ、あー、うん……
でも、あんたって結構、
安心しちゃうって言うか」
「安心? リンクスだぜ?
言ってみりゃあ人間兵器。
耐Gやら何やらで強化されてて、
そこらの奴より危ねぇだろ」
「うん、でも、何かこう……
お父さんみたいで?」
親父て、それもどうなんだ!
そこまで年が離れてもないだろ……
「あ、それよりほら、
ニュース、ニュース」
俺が複雑そうな顔をしていると、
メガネ女は話題を変えて来た。
ニュースは相変らず、
ORCA旅団の話。
特に進展も無い。
何が“ほら”なんだ?
こいつなりに、何か、
照れたりしたんだろうか……?
よく分からん。
女という物は元来複雑だが、
こいつは中でも難解な部類だ。と思う。
「困っちゃうよねー……
早く片付かないかしら」
ぼやく様にメガネ女が言う。
メガネ女に聞いた所によると、
奴のVOBは、VOBの皮を被った、
“アルテリア・ブースター”らしい。
クレイドルと同じ原理。
コジマ的な燃料の噴射ではなく、
もっと電磁場的な力で飛ぶ……みたいな。
アルテリアのエネルギーは、
クレイドルの維持に注がれる。
しかし、その全基が万全なら、
相当の余剰が出る。
それを拝借して、飛ぶ。
あの長時間飛行、燃料の問題も、
それなら確かに解決する、が……
しかし、アルテリア施設が幾つか、
ORCA旅団に押さえられた。
残るアルテリアのエネルギーは、
クレイドル維持に集中だ。
落ちない様にって。
で、余剰が、あんまり無い。
要するにアルテリアを奪還しない事には、
俺達もまた足止め中。
宇宙へ行くドコロじゃない。
企業の都合もあって、
研究自体も進まんし……
つまり……結局、俺は、
あいつとカチ合うって事かよ。
こっちが気楽だと思ったら。
自分で選べとか言っておきながら。
俺は、遠からず、
あの坊やと相対する。
それは……運命なのか。