〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase22〜


「わざわざ言いに行く事かぁ?
 今更だが、よ」

 現在地、クレイドル07。

 地上から飛行機で上がって、
 発着場から、今、
 エレベーターシャフトを移動中。

 呆れた顔の俺。
 隣には、ふて腐れた顔のメガネ女。


「応援の弾薬費とか、
 危険手当も出たんだぜ?

 結局誰も死ななかったんだし、
 いいじゃねぇか」


「でも……あんたはそうでも、
 私が嫌なのよ」

「ったく、メンドクセェな……」

 何か、企業の対応について、
 拘りがあるらしい。

 企業の対応……もしくは、
 俺の使われ方について、か?

 メガネ女の用件は、
 先日の依頼、情報の不備。

 ORCAのAF迎撃作戦で、
 市民の居住区域が、
 作戦領域内に入っていた事だ。

 その作戦領域の管轄企業、
 オーメルの返答は、

『避難勧告は出した』

『勧告に従わない市民が居たのは、
 甚だ遺憾である』

 だから俺は悪くない〜とかって、
 言い訳がましい事を言っているワケだ。

 だが、そんなズサンな管理体制、
 一般的に言えば、確かに、
 容認できた話じゃない。

 メガネ女はクーガー所属、
 GA側の証人として、
 オーメル幹部に一言二言、
 文句を言ってやりたいらしい。

 で、今、そのオーメル糾弾の為、
 GA幹部の誰だかと会見の予定。

 ORCAの対応で忙しい昨今だ。
 タイミングでも調整するんだろう。

 俺の仕事は、メガネ女の護衛。
 何事も起こらんとは思うが、念の為だ。

 リンクスってのは、
 少なからず身体強化されている。
 ネクストの高速移動、
 強力な負荷に耐えられる様にって、な。

 加えて、戦闘訓練。
 AMSで機体を操作するには、
 機体が動くイメージが必要になる。

 当然、銃を撃たされたりとか、
 ある程度の訓練は積んでいる。

 つまり、そこらの職業警備員よりも、
 頼りになるってワケだが、


「そんなに嫌なら、
 ついて来なくても良かったのに。
 ウィン・Dも来るっていうし。

 1人でクレイドルに来られない様な、
 半人前だとか思ってる?」


「……そんなんじゃねぇ」

 口を尖らせるメガネ女から、
 俺は目を反らした。

 本当に、念の為だ。
 シリエジオの一件もある。

 面倒なリンクスを潰す為に、
 先にオペレーターを殺る。
 それ自体、あり得なくは無い話だ。

 言っても付け上がるから言わないが、
 こいつが居なくなると、
 まぁ、その、ちょっと困る。


「しかし、偉いさん、
 よく会う気になってくれたな。

 一技術者。開発主任つっても、
 下請け企業のだろ?」


「どこにでも居るのよ。
 緊急時でも後先考えて工作して、
 美味しい思いをしようって奴」

 あくまで企業体。
 市民を守るのは利益の為、か。

 オーメルの弱みを握る事で、
 ORCAが片付いた後、
 向こうさんとの取り決めなんかを、
 有利に進めようって事だ。

「そいつはそいつで、
 薄ら寒い話だな……」


「こっちだって利用できる物は、
 何でも利用するだけよ。

 それと、何か、
“ついで”があるからって」


「少し遅いな」

 と、エレベーターを降りた所で、
 ウィン・Dが待っていた。

 ウィン・D・ファンション。

 先の作戦での、援護の一人。
 インテリオルのリンクスで…凄腕だ。
 GAの災厄とまで呼ばれた女。


「文句なら、お空に言ってくれ。
 ちょいと乱気流でな…

 あんたはどう思う?
 オーメルの対応」


「話にならないな。
 体裁も繕えないのでは、
 支配者としては不足だ」

「首を挿げ替えた所で、
 そうそう変わるモンかね」

「一朝一夕とは行かないだろうが、
 諦めては尚更、変わらない」

「お高い理想だ。
 否定はしないが、
 俺には真似出来ないぜ」

 俺が肩をすくめると、
 ウィン・Dは少し笑った。


「よく言うよ。
 一番に飛び出しておいて。

 貴方が逃げ出していれば、
 あの先のコロニーは、
 全滅だっただろう」


「たまたま、あっちの方に、
 知り合いが居て、な。
 その程度の話さ。

 ごく個人的な、
 利己的な動機だ。

 俺の精神構造は、
 あんたの程、ヒロイックには、
 出来ちゃあ居ない」


「他人事だと見捨てていては、
 自分の番になって後悔する。

 そして誰をも否定出来ないだろう。
 自分が見捨てたのだから。

 私は私の大切な物を守る。
 守れる体制を築き上げたい。

 つまり……私もまた、
 利己的な女に過ぎないさ」


 ま、利己的は利己的なんだろうが、
 その為に、他人の面倒まで見る、か。

 結局は、律儀なこった。

 話しながら移動。
 会見相手との待ち合わせ場所を目指す。

 クレイドルは独立して機能する、
 人類の生活圏だ。

 勿論、飛行に使うエネルギーは、
 地上から供給しちゃあ居る。

 しかし、クレイドルの中は、
 単に企業のオフィスや工場だけ、
 というワケでもない。

 居住区とか、店舗だとか……

 と、何かの食い物屋に、
 メガネ女が目を留める。

「あ、あれ、美味しそう」
「寄り道なら後にしろよ」

「何? 奢ってくれるの?」
「……ちょっとだぞ、ちょっと」
「やった!」

 無駄に無邪気なメガネ女。
 クレイドルは初めてか?

 っていうか、
 街らしい街に出たのが、
 初めてなんだろうか。

 大概、研究施設に篭り切り。
 買い物は全部、
 通販だったって言うし……

 そんなメガネ女と、
 保護者丸出しの俺。

 それを見て、
 クスクス笑うウィン・D。
 クスクス笑う通行人、多数。

 ……くそう。
 ちょっと恥ずかしいぞ。

 遊びに来たんじゃ、
 ねぇってばよ。


 商業区画を抜けて、
 GA管轄のオフィスへ。

 通路に入った所、
 曲がり角の向こうから、男が1人。
 俺と少し肩が当たった。

「おっと、悪い」
「いや、こちらこそ」

「……んん?」

 俺はその男に、
 どこか見覚えが……

「お前は――!」
「っ! 失礼する!」

 足早に去って行く男。
 俺は後を追う。

「えっ、何?
 遅れちゃうよ!」

「ウィン・D、あと頼む!」

 メガネ女が何か喋るが、
 聞き取る暇も無い。

 こっちは土地勘が無いんだ。
 一度見失ったら、
 捕まえるのは困難だ。

 逃げた男、メルツェル。
 グラサンしてたが間違いない。

 占領されたGAの拠点、
 ビッグボックスに居たんじゃないのか。

 GAのオフィスで何してやがった?
 何か悪い予感がする。

 俺は奴を追うが……
 ダメだ。見失った。

 昼飯時の雑踏、
 商業区に逃げ込まれた。

 こりゃあ、奴が会った相手を探して、
 締め上げた方が早いか?

 っと、通行人が街中の大型スクリーン、
 動画ニュースを見て、
 何か騒いでいる。

 映像には、シリエジオの弟子と、
 ORCA所属、オールドキングの機体。

 連中が、どこかの、
 クレイドルをぶっ壊…

 …待て待て待て待て!
 クレイドル03が落ちたぁ!?

「ちょっと、冗談でしょう!?」
「場所、かなり近くだって」
「こっちに向かってるのか!?」

 大勢殺して飽き足らず、
 その足で、こっちに来るってか。

 脱出は…まず間に合わない。
 住民を全部助けるなんてのは、
 更に無理だ。

 しかし、せめて、
 時間を稼がないと。

 俺はGAのオフィスに戻る。

 ウィン・Dとメガネ女は、
 既に準備をしていた。

 クレイドルの防衛戦力、
 自律ノーマルを数機借用。

 操作はAMS機器。
 通信設備と連結して、
 遠隔で行う。

 こいつはメガネ女の作。
 即席で作っちまった。

「結構、大掛かりだな」

「送る情報が多いから。
 ここ、お願いね」

 通信設備から作る暇は無い。

 メガネ女はウィン・Dと移動。
 他の通信設備の所まで行って、
 同じ装置を用意する。

 機体の方、出撃用意を待つ間、
 俺はノーマルの装備を確認する。

 背部ユニット、
 補助飛行機関と武装が、
 一体化してやがる。

 まぁ、クレイドル用なら、
 そんなモンだろうか。
 ネクストにあっても便利そうだが。

 全部同じ仕様。
 分かり易いのはいいとして、
 メガネ女から通信。

『動かせるのは12機よ』

「12機全部使うのか?
 1人何機だよ。
 負担がヤバイだろう」

『ごめん。でも、
 動作を同じにするから、
 負担は減らせると思う』

「そいつはそいつで、
 無駄が多く……」

 俺の問いに、
 男の声が割り込んで答える。

『各自、4機編隊だ。
 ウィン・D・ファンションが4機。
 もう4機は私が使おう』

「お前、メルツェルか?
 どこに居やがる。
 どういう風の吹き回しだ」


『今、そちらの施設に、
 向かっている所だ。

 1つ弁解しておきたい。
 この襲撃は、我々、
 ORCA旅団の計画では無い』


「……まぁ、そうかもな。
 どうでもいいが」

 と、俺は適当な返事。

 敵はシリエジオの弟子と、
 オールドキング。
 ORCA所属のリンクス達。

 しかし、作戦立案のメルツェルが、
 奴らの狙うクレイドルに居る。

 大体、前から、直接狙えば狙えたんだ。
 内紛と考えるのが自然だろうさ。

 だが、俺個人として、
 メルツェルが気に入らんってのも、
 確かではある。

 と、そのメルツェル。
 こっちが言う前に言って来た。

『銃を向けたのは済まなかった。
 こちらの事情だ』

 そう、それだ、それ。

 こいつは前に、
 俺の腹に風穴を……

 とか言ってる場合じゃねぇ!
 轟音。振動。悲鳴。

 コクピット端末に、
 クレイドルが落ちていく映像。

 クレイドル5機編隊の、
 1機がやられた。
 何百万だか何千万、人の命が……


『何をしているか、
 分かっているのか!?

 分かっていて、
 やっていると言うのか!』


『革命など、結局は、
 殺すしかないのさ』

 ウィン・Dが叫び、
 オールドキングが嘲笑う。

 オールドキング。
 元、反体制勢力リリアナのボス。
 ORCAの過激派。

 ノーマル乗り時代の俺とも、
  因縁が無くも無いが、
 ウィン・Dと奴の間に、
 俺が挟まる余地は無さそうだ。


『勝算はある。

 クレイドルの防衛戦力は、
 リンクスと比べれば惰弱だが……

 奴らは先の襲撃時にも、
 反撃を受けている筈だ。
 弾薬も消耗している。

 ノーマルの火力でも、
 太刀打ち出来るだろう』


 と、賢いメルツェルさんのご高説だ。
 勝ち目は無くもない。
 そんじゃあ、行きますか。


「ま、落とし切る前に、
 逃げられそうだがな。

 先行する。
 各編隊、遅れんなよ?」


 出撃準備完了。
 カタパルト、射出。

 守る仕事は嫌になるぜ。
 気が重くて、な。


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