〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase24〜
「進展あった?」
端末のキーに指を走らせながら、
メガネ女が俺に尋ねた。
「うんにゃ、全然」
リンクス用のヘルメットをソファに放りながら、
俺は欠伸混じりに言った。
一応、ここ、俺の家なんだが……
すっかり住み着いちまってるな。
先日のストレイド包囲戦。
カラードとORCAの大敗北。
主立った機体は海中に没し、
アルテリア・カーパルスは、
まんまと奴らの手中に落ちた。
今現在、カーパルスは自律兵器の海。
とても近付けん状態だ。
奪還計画は進んでいない。
幸い、リンクスの方は、
全員生きていた。
が、負傷の酷い奴も居るんで、
戦力状況としてはズタズタだな。
まぁ、全員死んでて、
一から育て直すのに比べりゃ、マシか。
全員生きている辺り、
ストレイドの奴、殺す気は無かったか?
むしろ死に場所でも求めている?
の、くせに、手は抜けない?
その真意は分からんが、
何にせよ、メンドクセェ野郎だぜ。
企業連はストレイドを相手に、
てんてこ舞い……って程でもない。
オールドキングを含めても、
たった2人だ。
監視のしようはある。
奴らの目標地点を割り出して、
そこにネクストやら何やらを派遣。
ドンパチやって……
相変らず損害は出続けているが、
向こうだって、損耗が激しくなれば、
拠点に戻って行く。
ただ、気になるのは、
奴らの補給線。
資本と資源。
蓄えがあったにせよ、限度がある。
金を積まれて売る相手でもない。
クレイドルは現体制の象徴だが、
同時に、非戦闘員の塊だ。
それに銃を向けたあいつらに、
一体、誰が支援している?
ORCAの革命すら良しとしなかった、
戦争屋が居るってトコだろうか。
ORCA旅団の計画については、
少しばかり明らかになった。
衛星軌道掃射砲【エーレンベルク】の存在。
クレイドルへの供給を断ち、
アルテリアの電力を砲に集中して、
アサルト・セルの包囲網を破る。
どうやら連中は、
メガネ女と遠からずな目的と、
荒っぽい手段を考えていたらしい。
企業の罪、アサルト・セル。
空を埋め尽くした自律兵器。
今一度、宇宙開発への道を開き、
人類に黄金の時代を、か。
連中の欲していたのは、
クレイドル体制の崩壊じゃなかった。
それはアルテリアの電力を得る為の、
手段の1つに過ぎない。
そういや、メルツェルと会っていた奴。
自分の保身と引き換えに、
クレイドルを明け渡すつもりだったか?
ま、口が裂けても言えんだろうが……
頭目が負傷して、
ORCA旅団は活動休止中。
メガネ女は相変らず、
新型VOBの構想を練っている。
クレイドルが2つ3つ壊滅して、
資源やら何やらの問題。
やっぱり人類は、
いずれ宇宙開発の必要に迫られる。
……んではないかと、
こいつは主張する。
で、アサルト・セルは確かに邪魔だ。
包囲網を破らなきゃならん。
が、クレイドルを落としたくは無い。
ORCAの方法には反対だ。
代替案として、VOBで飛んで行って、
アサルト・セルをやっつける……
まぁ、当初の構想通りなんだが、
問題は、誰がやるのか、だ。
俺はただのテストパイロット。
そういう約束だろう。
しかし、主立ったリンクスが負傷して、
俺にお鉢が回って来るんじゃねぇかー、とか、
心配でない事もない。
ま、どっちにしろ、
ストレイドの件が片付かん事には……な。
で、メガネ女はそんな風として。
俺はと言うと、
連日、企業のリンクス達に混じって、
ストレイドの攻略計画。
……メンドクセ。
さっさと戦って、
撃ち落とせば済む話だ。
しかし、トンデモナイ前例。
上位のリンクスが、
束になってボッコボコ。
お陰で、リンクス達は逃げ腰だ。
俺が仕方な〜く行くにしたって、
協働者が出て来ない。
俺だって1人で勝てるとは思わない。
で、結局行かない事になる。
何を考えた所で、
“じゃあ誰がやるんだ”で、躓く。
仕方ないから、とりあえず、
シミュレータで奴のデータと戦ってみたり、
有効なアセンブルを考えたり……
……メンドクセ。
で、抜け出して来て今に至る。
実行しねぇ・解決しねぇじゃ、
考えるだけ無駄だろ。
それだったら、
メガネ女とネタ出しやってる方が、
まだ建設的ってモンだ。
こいつも自分の開発が行き詰ってるのか、
声を掛ければ振り返って来た。
「新兵器? 拠点を制圧するなら、
スタンドオフ・ディスペンサーとか、どう?」
「旧時代の、アレだろ?
飛んで行って爆弾ばら撒く奴。
アルテリアまで潰したら、
色々マズイんでねーの?」
「あー、そっかー。
でもほら、逃げ難い旧コロニーに誘き出して、
纏めてドカドカーンみたいな」
「ちゃんと狙って撃つんなら、
サーモバリックの方がいいんじゃねぇか?
建物を盾にされても、丸ごと」
「でも、変なトコに隠れられたら、
ちゃんと狙えないワケだし……」
と、物騒な会話。
近年、公的なAC用装備には無いが、
旧時代には存在した兵器群。
サーモにせよ、スタンドオフにせよ、
企業も知らなかった訳じゃないだろう。
が、そういう武装が市場に無い。
非正規のパーツだったら、
あり得なくも無いんだろうが……
メガネ女の漁って来る企業データにも、
プライマル・アーマーへの有効性について、
過去に実験した事例がある。
にも関わらず、開発が滞っていた。
多分、協定か何かの都合で。
あるいは、実用性の問題で。
ぶっ潰したいのは相手の兵器であって、
相手の施設、付近の住民じゃない。
コロニーを守っている連中を、
コロニーごと潰したんじゃ、
後ろ指も差されるし、
再利用だって出来やしない。
しかし、形振り構ってられない状況。
今、案を出せば、通らない事もない様な?
俺としては、武器の多様性には賛成だ。
より良い組み合わせを探し、模索する。
より安全に勝てる装備を。
で、俺がアサルト・セルと戦う事になる頃、
俺が直接行かなくても、
倒せる方法が開発されりゃあ……
勿論、エーレンベルク以外で、だが。
「じゃ、アレは?
HESH弾みたいなの」
「粘着榴弾? 決め手になるかぁ?
装甲に届く前に、
プライマル・アーマーがあるだろう」
「だからさ、装甲じゃなくて、
プライマル・アーマーに粘着させるの。
普通の実弾みたいに弾かれない。どう?」
「まぁ、減衰はするんだろうが……っと」
不意に、俺の携帯端末の方に、
通信が入って来た。
相手は……
「リリウムか。どうした」
『緊急事態です。
お手をお借り出来ますか?』
「状況は」
『エーレンベルクが陥落しました。
砲口はクレイドルに向けられています』
「何でまた。足止めはどうした。
動向は監視してたんじゃねーのかよ」
『他の施設で交戦後、
カーパルスへ撤退すると思わせて、
迂回した模様です』
「っとに、もー……
後手後手じゃねぇか」
『申し訳ありません』
「お前に怒ってんじゃねぇ!
俺もすぐ行くから、
行ける奴、先に行かせとけ」
通信終了。
俺はソファのメットを拾い上げる。
と、メガネ女が声を掛けた。
「仕事?」
「おう」
「急ぐの?」
「おう」
「じゃあ、アレ。
使ってみよっか♪」
と、メガネ女は腰を上げ、
格納庫まで、ついて来る様子。
……地味に嫌ぁ〜な予感。
今度は何をさせる気だ、コイツ。
まぁ、大体想像はつくんだが……