Burn Away!
第1焦 第3話
〜Burn the DragonA〜


 城壁の中は……静かだ。

 城壁の上には、見張りが数人見える程度。
 城内は無人? 寝静まっている?
 奥の方にでも詰めているのだろうか。

「さて。義勇軍からの話は覚えておるな?
 応援に駆けつけるという話じゃが」

「あんまり、巻き込みたくないな」

「うむ。出来れば、わしらだけで片付けたい。
 しかし、敵を全て相手にしていたら、身が持たぬ」

「頭を叩く、か」
「いかにも。兵法の基本じゃな」

 こっちの世界にも、兵法と言う物は存在するらしい。

 まぁ、武器を持った人間が殺し合っているんだ。
 兵法ぐらい生まれるか。

「では、参ろう」

 なるべくバレない様に近づきたい。
 余計な戦闘は避けて、近付く。
 領主にも、リリーにも。

 領主の手下の鎧を着たまま、私達は奥へ進む。

 リリーを確保して、領主の首を落とす。
 私の目的はそれで終わりだ。

 だから残りはどうでもいい。

 領主軍なんてトップを潰せば、離散するだろう。
 しなくても、弱体化だ。
 後は義勇軍なり、市民なりに任せよう。

 体制が変わって、お尋ね者じゃなくなればいい。
 私もリリーも安心して暮らせる。
 それで十分だ。統治とかに興味は無い。


 それにしても。何か、おかしい。

 行けども行けども、兵士達と遭遇しない。
 城壁の上の奴らさえ、いつしか見当たらなくなった。

 本当に居ないのなら、居ないで好都合だが……
 これは罠ではなかろうか。

 いや、そうだとしても。

 どの道、奥まで行けば敵が居る。
 行ける所まで行こう。

 門を潜り、広い階段を上る。
 中庭の様な所に出た。

 その中庭の中程に、魔法使いの格好をした人影。
 待ち伏せか? しかし、単独だ。

 華奢な身体つきだが、どうやら男。

 月明かりに照らされた顔は、若い。
 20代半ばといった所か。

 彼は私達に歩み寄り、20歩ほど離れた所で足を止めた。

「お久しぶりですね、お師匠様。
 まぁ〜だまだ、ご健在な様で」

 若い魔法使いはラフな口調で、老魔法使いに言った。
 対し、老魔法使いは、苦々しそうに呟く。

「お主……そうか、お主が居ったか」
「誰だって?」

「わしの、昔の弟子じゃ。
 随分昔に、破門にしたのじゃが」

 説明し始める老魔法使い。
 その若者は話を遮る。

「ホント、酷いんですよぉ?
 僕が一番優秀だったのに」

「黙れ! 力に溺れた、悪しき魔道士よ!
 魔術は人を救う為の物じゃ!
 弱者を虐げ、痛めつける為の物ではない!」

 私は老人の口ぶりから察する。
 あの若者は、魔法で誰かを傷つけたのだろう。
 何しろ領主の手下だ。

 弟子の暴挙が許せないのか。
 老魔法使いの顔が憎悪に歪む。

 激昂する老魔法使いだが、若者は至って澄まし顔だ。

「あーあ、古い、古い♪ 流行りませんよぉ。
 老兵はただ去り行くのみ。
 貴方の時代は、終わったんですよ。ネ?」

「年寄りなれど、ただ年をとって死ぬだけと思うな。
 日々の弛まぬ鍛錬の成果、今ここで見せてやろう!」

 老人と若い魔法使いが、杖を振りかざす。
 杖の先から魔法の光を放つ。
 雷が爆ぜ、炎が宵闇を照らし出す。

 ……押されていないか?

 若い魔法使いの方が、身体的な活力に溢れている。
 それは魔法的にも同じ事なのだろうか。
 魔法力だか何だか。

 だが、加勢を察した老人は、私に叫ぶ。

「行けぃ! これは私怨じゃ! 助けは無用!
 自分の弟子の始末は、自分の手でつける!」

「しかし……」

 ふと、若い魔法使いと目が合った。
 彼はフッと笑って、私に言う。

「ああー、どうぞどうぞ。お通り下さい。
 僕もこの爺さんにしか、興味がありませんので」

 彼は老人との決着を付ける為に……
 ただそれだけの為に、ここに居るのか。
 老人が一度は見込んだなりに、律義な所があるのだろうか。

 いや。それとも、これも何かの罠か?
 彼の砕けた態度からは、本心が計り知れない。

 しかし……どうでもいい。

 罠なんて、突き破れば良いだけだ。
 早くリリーを助けたい。
 酷い目になんか、遭わされて居ないか……

 私は若い魔法使いに聞く。

「どこに行けばいい。
 リリーは……その、人質は」

「あっははは! 面白い人ですねぇ。
 それ、僕に聞くんですかぁ?
 お嬢さんは城の中。領主様と一緒に居ますよ」

「城の、どこだ?」

「さすがに、そこまではぁ♪
 言ったら首、ちょん切られますからネ?」

「……分かった。
 爺さん、死ぬなよ!」

 2人の魔法使いを後に、私は走った。


 領主はどこだ?
 城……中央の建物が、そうなのだろうか?

 石造りの建物なんて、構造が良く分からない。

 どこからが城壁で、塔か。
 どこが出城で本城なのか……
 複雑な建造物。

 そういえば、どこかで聞いたな。

 乱世の城なんかは、複雑な構造を持つ。
 すんなり奥まで行けない様に。
 通路が入り組んでいたりとか……
 この城も、その類だろうか。

 と、正面に1つ大きな扉。

 これはダメだ。
 鍵が掛かっていた。

 押しても引いても、剣で斬っても。
 まるでビクともしない。

 迂回する方が早いか?
 私は、建物の側面、狭い階段を駆け上がる。

 すると、

「居たぞ! 捕らえろ!」

 前から敵兵だ。
 同じ鎧、薄暗くて、よく敵だと分かるものだ。

 ……ああ、なるほど。

 あちらは早晩、我々が来ると踏んでいた。
 待ち構えていたのだ。

 先方が、先程の若い魔法使い。
 その後ろに雑兵、という布陣。

 その魔法使いよりも、奥に向かって来ている。
 それは敵だという判断だろう。

 最早、激突は避けられない。
 私は剣を抜き、階段を駆け上がる。

 ……ここは押し通る!



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