Burn Away!
第1焦 第3話
〜Burn the DragonB〜
狭い階段に、敵兵が集まって来る。
邪魔だ。ウジャウジャと……!
圧倒的な数的不利。
こうなったら手加減は出来ない。
殺してしまうしかない。
1人目が剣で斬りかかって来る。
私はそれを剣で受け止める。
階段が狭いお陰で、かかって来るのも1人ずつ。
防げない事は無いが……
慣れない鎧が重い。
動き難い。防ぐのがやっと。
これでは先に進めない。
私は兜を脱いで、敵の顔面に投げつける。
怯んだ隙に鎧の止め具を外す。
それと同時に、腰のベルトのボタンを押した。
転送機能を発動。
外部装甲、転送。
彼らが言う所の“黒騎士の鎧”が、私の身を包む。
「なっ、く、黒騎士だ!
黒騎士が出たぞーっ!」
記憶が完全に戻った私。
戦闘技能も元通り。
単調な戦い方には用が無い。
前面で回転させた剣で、相手の突きを反らす。
直ぐに半回転しつつ、喉を一突き。
剣が抜けない。
刺さった1人目を、担ぎ気味に押し上げる。
それを盾に突進する。
と、2人目の剣が、1人目に刺さって止まる。
私は抜けない剣を諦めた。
先に倒した1人目のそれを、自分の左手に奪う。
刺さった彼を、右の剣ごと引き下げる。
同時、ステップターン。前へ。
2人目は1人目の身体に、剣を引っ張られて前進。
私と入れ替わりになる。
私はそのまま2人目の首を、逆手の剣で側面から刺した。
2人の身体は絡まりつつ、階段を転げ落ちていく。
それを尻目に、次、3人目。
相手は急に距離を詰められて、剣を振り切れない。
私は左手で、彼の右手を外側へ弾く。
右手のガントレットで、その顎を殴り割る。
4人目、5人目、6人目。
簡単だ。身体が自然に動く。
体力、呼吸……まだ余裕。まだまだ行ける。
7人目を刺しながら盾を奪う。
8人目をそれで殴る。
9人目に盾を投げつけ……
「馬鹿な! 押されているぞ!」
「弓兵、前へ!」
14人目を盾に矢を防ぐ。
15人目に突きかかる。
16人、17人、18人目……
気が逸る。胸が高鳴る。
しかし冷静さは失わない。
猛る気持ちのままに。
それでも計算高く、効率良く。
「クソォ、まるで歯が立たん!」
「大砲だ! 大砲を出せ!」
43、44、45……
階段の上に大砲が見えた。
正気か? 味方ごと撃つつもりらしい。
だが、近代的な物じゃない。
点火から発射まで時間がある。
私は壁に、剣を一本刺した。
それを踏み台に跳躍。
砲撃を飛び越える。
そのまま壁を三角蹴りで、前へ。
途中を阻む、厚い守りをも飛び越えた。
砲兵に躍り掛かる。
「うわっ、飛んだ!」
「化け物か!?」
狭い階段を上り切り、少し開けた場所に出る。
敵が一斉に押し寄せて来る。
……邪魔だ。
大気に熱を与え、炎の塊を発生。
これを右側面に投げつけて牽制。
同時に剣で左側面に斬り込む。
姿勢を低く、矢を、槍を、剣を潜り抜け……
狙いは喉。一撃必殺。
75、76、77、8、9……
喉を突いて捻り斬る。
胴体を蹴り飛ばし、その向こうを阻害。
骨に当たって剣が痛んだ。
代わりを探す。
左の敵の手に長剣。
左の拳と一緒に炎を叩き込み、敵を焦がす。
取り落とす剣を、すぐ左手で受け取る。
同時に右手は頭上を旋回。
背面から右側面へ炎。攻撃、牽制。
101、102、103、4、5、6、7、8!
息が荒くなる。
目がかすむ。
心臓が早鐘を打つ。
……だが、まだだ。
リリーの無事、領主の首。
私はまだ、何1つ目的を果たしていない。
もっと早く!
もっと速く!
熱エネルギーを、運動エネルギーに変換。
大剣で重い鎧も斬り飛ばす。
剣も折れるが、次を取る。
無ければ素手だ。
剣を得るまで殴り飛ばす。
151、2、3、4、5。
157、8……60! 61!
邪魔だ。
邪魔だ!
邪魔だ!!
二つ目の階段を駆け上がる。と、裏口か?
狭い扉を蹴破り、私は建物の中へ。
風の様に走る。
弾丸の様に敵を蹴散らして走る。
奥へ、奥へ、奥へ!
誰かが名乗りを上げていた。
誰だ? 耳鳴りで何も聞こえない。
しかし達人だろうと関係無い。
死ねば死体になるだけだ。
剣を剣で、外へ外へと受け流す。
鋭い打ち込みも、突きも、払いも。
右から来れば右へ、左から来れば左へ。
返す刃で首を取る。
即決即断。即斬、即打、即焼。
勝負は一瞬。一瞬あれば充分。
邪魔者は殺す。
障害は取り除く。
屍の山を築く。
無意識にでも身体は動く。
思考は最小限に。
残る力を殺戮に注ぐ。
202、3・4・5。
206・7・89……11!
血しぶきで壁が染まる。
床が染まる。
赤い絨毯が赤黒く染まる。
245、246……
247……8……
……リリーは? リリーはどこだ。
領主はダメでも、リリーだけは。
敵兵は上から来る。
城の、上の階へ行く程に。
兵が多い。守りが厚い。
領主はそこか。その奥か。
ならば、リリーもそこだ。
一直線。中央突破。
どうせもう、頭はロクに回らない。
「リリ―――ーッ!!」
私は叫んでいた。
冷静に考えれば、正気じゃない。
乱れた呼吸が更に乱れるだけだ。
だが、リリーを早く見つけたい。
早く彼女に会いたい。
私を突き動かしている衝動。
今や本当に、ただそれだけだ。
「お兄ちゃー―――ん」
届いた?
微かに聞こえた。
間違いない。リリーの声だ。
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