Burn Away!
第2焦 第1話
〜Burn the Beast@〜
「リリーちゃん、小さいのに大変だねぇ」
「大丈夫。もう慣れたから」
「やあリリーちゃん。
頼んでおいたハーブは、入ってるかい?」
「あ。はーい」
領主事件から3ヶ月。
私、リリー=アンソニー。職業は行商。
“炎の黒騎士”ことフェルノと共に。
普段の仕事に戻っていました。
お兄ちゃんの顔が広まった事もあって。
そこそこ増えたお客さん。
私は頼まれ物を用意する為に、馬車の中に入ります。
「この前言ってた、ハーブのお客さんよ。
そこの束を……お兄ちゃん?」
呼び掛けると、ゆっくりとした動作。
フェルノお兄ちゃんは動きだします。
「……ああ、ごめん。今、行くよ」
それから少しして。
お兄ちゃんは荷物を持って、馬車から出て来ます。
「お待たせ」
「ありがと……って、違ぁーう! このツボじゃなくて!
そっちのハーブを取って、って、お願いしたの」
「え、あれ?
……あ、ああ、そうだそうだ」
もう……最近のお兄ちゃん、ずっとこんな調子です。
領主との戦いの、疲れが残っているのかも。
それとも、別の理由でしょうか。
「大丈夫? ちょっと休む?」
「何ともないよ。今、取って来る。
ハーブ……は、どこだっけ……?」
お兄ちゃん、記憶は戻ったみたいです。
でも以前より、ボーッとしている事が多くなりました。
いつもどこか、遠くを見ているみたいな……
お兄ちゃんは異世界から来た人。
そこで何か、凄く悪い事をしていた……らしいです。
その事について、私には聞かせたくないみたい。
詳しく話してくれません。
私は、サウザントさんを通して、それを聞きました。
お兄ちゃんを助けてくれた、魔法使いのお爺さん。
ですが、私もサウザントさんも、正直信じられません。
お兄ちゃんが悪い事をしていたなんて。
何か事情があったんじゃないかな。
仕方なく悪い事をした、何か事情が……
ハーブを探してゴソゴソしている、お兄ちゃんの後姿。
それを見ていると、ハーブのお客さんが話しかけてきました。
「いやあ、彼なんだって? 前の領主を倒した黒騎士様って。
噂の黒騎士も、リリーちゃんの前だと形無しだねぇ」
「えっと……そうなのかな?」
「リリーちゃんは、どうなんだい?
大人になったら黒騎士さんと結婚するとかーって」
「んんー、そう言われても……
どうかしら?」
「あはは、つれないなぁ。ケンカでもした?
仲良くしなきゃダメだよ?」
「そうじゃなくて、えっと……
お兄ちゃんの事は好きよ?
でも、そういうのとは違うと思う」
恋愛って、もっと大人になってから、する物。
私はそう思っていました。
それに、私にとってのお兄ちゃん。
そこに居てくれると、安心する。そんな人。
でも、ドキドキワクワクは、しないです。全然。
だから、恋愛対象っていうのとは違う……かな、って。
そう、恋人と言うよりは、家族です。家族。
「それに今は“黒騎士様”じゃなくて、“私のお兄ちゃん”です。
もう危ない事なんて、させないんだから」
「あっはは、そうかそうか。
何だかんだ言って、お兄ちゃんが大事なんだねぇ」
「そうね。大事なお兄ちゃんだわ。
時々ちょっと頼りないけど」
お客さんと笑っていると、お兄ちゃんが戻って来ました。
彼は苦笑いを浮かべて、荷物を差し出します。
「お待たせ……今度こそ」
「そう、これこれ。
ありがとう、今度こそ」
私も苦笑いを浮かべて、荷物を受け取ります。
これをお客さんに渡して、代金を頂いて……
「居た、居た!
おおーい、黒騎士の兄貴〜!」
不意に誰か、鎧を着た人が走って来ます。
黒騎士は、お兄ちゃんの事でしょうけど……アニキ?
「お前は……確か、あの教会にいた?」
「そそそそーです! 覚えていてくれましたか!
あの時はホント、兄貴のお陰で命拾いしやした!」
「もう悪さなんて、してないだろうな?」
「へっへへ、勿論ですぜ。
今、俺、町の自警団で働いてんです」
どうやら相手は、お兄ちゃんの知り合いです。
教会……というと、私が前の領主に攫われた時の事。
お兄ちゃん達は水攻めに遭って、そこで敵兵も助けたとか。
彼もその1人でしょうか。
「それで、何か用事か?
何だか慌てていた様だけど」
「おおっと、そうでした。
この辺りを荒らして回ってる、賊の集団が居るンですよ。
滅法腕が立つって評判で……」
「賊だって?」
「ま、兄貴なら、大丈夫とは思いますがね?
小さいお連れさんも、居らっしゃる事ですんで。
一応、気をつけてくだせぇ」
どうやら、この自警団の人。
みんなに注意を促す為に、町を回っているみたいです。
お兄ちゃんはそれを聞いて、少し考え込んで、
「賊の特徴は?」
「獣人です」
「……ジュージン?」
「兄貴は知りませんかい?
こう、半獣半人ってんですか。
トカゲ男とか、鳥人間とかって。
でー、街道に出るのは、ヘビ男と……黒いネコ?
そんな風な奴だとか」
「他に特徴は? 戦力とか。
全部で何人ぐらいなんだ?」
「いや、俺は直接、見たワケじゃないんで……詳しくは。
まぁ、武器は持ってるって話ですがね。
背も高いって言ってたかな。俺より頭1つぐらい?
とにかく、そういう連中らしいです」
「居そうな場所なんかは?」
「東と南の街道で、被害が出てますが……
最近じゃ、南の方が多いみたいです。
あっちにアジトでも、あるンですかねぇ」
「……分かった。気をつけるよ」
「へい、そうしてくだせぇ」
そう言って自警団の人は、また走って行きました。
「南の街道に出る、獣人か……」
「お兄ちゃん?
まさか、退治に行くだなんて言わないわよね?」
「ん? ……あー、いや。行かないよ。
それより、もう日が傾いてる。宿を探さなきゃ」
……怪しい。何だか誤魔化されたみたい。
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