Burn Away!
第2焦 第1話
〜Burn the BeastA〜


 それから……私達は宿を取りました。
 宿の食堂で、夕飯の時間。

 食堂は広くて、4人座れるテーブルが6つ。

 私達の他にも3グループぐらい。
 食事をしたり、談笑していました。

 ふと隣の席の、男性客2人の話が聞こえて来ます。

「おい、聞いたか?
 街道に出るっていう……」

「結構な懸賞金が掛かってるって、アレだろ?」

 どうやら彼らの話題は、街道に出る賊。
 例の獣人の事みたいです。

 それを聞いて、お兄ちゃんは私に言いました。

「懸賞金だって」
「ダメよ!」

 私は立ち上がって、テーブルを両手で叩きます。
 お兄ちゃんは驚いた顔で、

「ま、まだ何も言ってない……」

「どうせ、やっつけに行きたいとか言い出すんでしょう?
 そんなの絶対、ダメったらダメ!
 賞金なんか無くたって、お金に困ってないもの」

「でも、町の人達だって、迷惑しているんだろう?」

「そんなに戦いたいの?
 戦いが好き?」

「そうじゃないよ。
 ただ、そうしなきゃ……
 この力を、誰かの為に役に立てなくちゃ、って」

「それは、罪の意識から?
 昔、悪い事をしたから、それで?
 罪滅ぼしのつもりなの?」

 私がそう言うと、お兄ちゃん。
 更に驚いた顔をしました。

 お兄ちゃんは、昔の事を私に言っていない。
 魔法使いさんにしか話していません。

 でも、私は知っている。
 魔法使いさんが話したという事。

 お兄ちゃんは頭の良い人です。
 すぐそれに思い当たった様でした。

「爺さんめ、余計な事を」

「余計じゃないよ。
 もう、家族みたいな物なんだから。
 隠し事は無しだよ?」

「……聞いて、どう思った?」
「あんまり信じられない感じ」

「そう……」

 難しい顔をするお兄ちゃん。

 余計な心配をさせたくないー、とか。
 自分の事情に巻き込みたくないー、とか。
 頭で色々、考えているのでしょうが……

 それでも私達、もう家族みたいなものです。

 とっくに、少なからず巻き込まれている。
 巻き込んでもいます。
 今更、無関係な顔なんて出来ません。

 彼は溜め息混じり。
 ちょっと首を横に振ると、話を続けました。

「理由はどうあれ……力はあるんだ。
 余らせておくより、正しく使いたい」


「正しくなくたって、いいよ。
 危ない事をして欲しくない」

「危なくなんかないさ。
 私は強いんだし、いざとなったら逃げるし」

「それでもダメ!
 だって、お兄ちゃんに、もし何かあったら。
 そしたら私、独りになっちゃうよ……」

 思わず私は、言いながら涙が出てしまいました。

 普段はあまり、意識していない事ですが……
 お父さんが死んでからというもの。
 私にとって彼の存在は、とても大きくなっているみたい。

 もし居なくなってしまったら。
 死んでしまったらと思うと……

 そんな私に、お兄ちゃんは、

「……ごめん。確かに軽率だった。
 相手の力量だって、分からないのに」

「ううん。私の方こそ、ずるいよね。泣いたりして。
 お兄ちゃん、真剣なんだよね。
 でも、分かって欲しい。心配なの」

「分かった。気をつける。
 危ない事はしないよ。
 進んで戦ったりしない。
 でも、本当に必要な時は戦うよ?」

「必要な時って?」

「自分と君が危ない時。
 そういう時は、私にだって戦わせて欲しい」

「うん……分かった」


 それから食事を済ませて、部屋に戻って……

「ちょっと散歩して来る。
 先に寝ちゃってて」

 そう言うお兄ちゃんですが、その腰には剣。

 お兄ちゃんは炎の……魔法?が使える人でした。
 ただ護身目的だけなら、剣は必要ありません。

 ……やっぱり、行くつもりなんだ。

 お兄ちゃん、ああ見えて、とても頑固な所があります。
 言っても聞きません。

 正しくなくたって、別にいいのに。
 傍に居てくれたら、それでいいのに……

 でも、ここで彼を止めたって。
 やっぱりいつかは、戦いに行ってしまうでしょう。

 私は少し考えて、

「分かったわ。でも、気をつけてね。
 おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 私はベッドに潜り込みます。

 ドアが閉まる音。
 お兄ちゃんが出て行ったのを、確認して……

 3……4……5秒。

 私は飛び起きて、素早く身支度を整えます。

 上着を羽織って、腰のベルトに護身用のナイフ。
 薬草が幾つか入ったポーチ。
 魔法使いさんに貰った魔法の杖。

 そして、すぐに、お兄ちゃんの後姿を追いました。

 私が行っても、邪魔なだけかも知れません。
 ですが、邪魔ではないかも。

 少なくとも領主事件の時。
 私が居なかったら、お兄ちゃんは危ない所でした。

 私が居れば、何か出来るかもしれない。

 気付かれない様に。
 でも、見失わない様に。

 私はお兄ちゃんに続いて、静かに宿を抜け出します。


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