Burn Away!
第2焦 第2話
〜Burn the Forest@〜


 街道に出る賊の正体。
 それは、お兄ちゃんの昔の仲間達でした。

 白いお姉さん、クライオさん。
 お供の2人の獣人さん。
 彼女達は、町の近くまで送ってくれます。

 この世界に来て間もないという彼ら。
 歩きながら、お兄ちゃんと色々と話をしました。

 右も左も分からなくて、生活にも困っていて。
 それで、仕方なく賊をしている事とか。
 どうやって元の世界に帰ろうか、とか……

「では、その……ショーカンマホウ?
 とかいうヤツが鍵なのだな?」

「そうらしいが、私も魔法には疎い。
 専門家に聞いてみない事には、何とも言えないな」

 並んで歩く、お兄ちゃんとクライオさん。
 2人は、どういう関係なんだろう。

 クライオさんと話をするお兄ちゃんは、私の知らない顔。
 私と話す時とは、違う顔をします。

 でも、嫌そうではないです。

 さっきのやり取りも、息ピッタリでした。
 どういう関係なんだろう。

「いやー、それにしても、流石ですよねぇ。
 ブラック・インフェルノ様」

「そ、そうですよ。
 見知らぬ土地に放り出されても、その適応力。
 既に帰る手がかりを、掴んでおられるとは」

 ゴマを擦る獣人さん達。
 ネコ獣人さんとヘビ獣人さん。
 お兄ちゃんに攻撃したのが気まずいみたい。

 待てって言ってるんだから、ちょっと待てば良かったのに。
 ちゃんと知ってる人だって、確認すれば良かったのに。

 お兄ちゃんも、獣人さん達がどういうつもりか分かる様子。
 彼らをチラッと見て、微妙な顔をして……
 また前を向いてしまいました。

 ……お兄ちゃん、まだちょっと怒ってるかも。

 獣人さん達、タジタジ。
 今度は私にゴマを擦ります。

「し、しっかしまぁ、隅に置けませんよね。
 こんな可愛らしいお友達を、作ったりなんかしちゃってぇ」

「やはり、イケメンというヤツは、違いますねぇ〜。
 お嬢さんもメロメロですか?」

「え? え、えっーと……
 めろめろ? って?」

 私は困った顔をして。
 お兄ちゃんはまた振り返って、微妙な顔。

 獣人さん達、タジタジ。

 そんな、話題が私の事になった時。
 クライオさんは振り返って言います。

「ああ、その子は良い。とても良いぞ。
 シャドウリッパー、貴様の動きを目で追っていた」

「ええ!? マジっすか!? ええぇ〜?
 参ったなぁ。速さには自信があったのに」

「つまり、それだけ彼女の素質が凄いのですな」

「あ、そっか。
 お嬢さん、只者じゃねぇっす」

 感心する獣人さん達。
 クライオさんも、まるで自分の事の様に得意げです。

「うむ。そうだろう。そうだろうとも。
 ……どうだ? 私の仲間にならないか?
 悪い様にはしない」

「仲間……って?」

「いきなり幹部は無理かも知れんが……
 例えば私の妹分として、重く取り立てようではないか」

 私が、クライオさんの仲間に?

 仲間になったら、私も連れて行って貰えるでしょうか。
 お兄ちゃん達の“元の世界”に。

 でも、お兄ちゃんは怒ります。

「クライオ! リリーを巻き込むな!」

「ふふん、決めるのは彼女自身だ。
 私は何も強制していない。
 分からない事があったら、何でも答えよう。
 どうだ、娘。聞きたい事は無いか?」

 えーっと、そう言われても……

 お兄ちゃんの過去。
 大体は魔法使いさんに聞きました。
 戦ったり、殺したり、危ない人達。

 でも、正しいか間違っているか。
 私に政治の事は分からないし……

 お兄ちゃんのお友達です。
 悪者みたいに言うのも、ちょっと気が引けます。

 でも、少なくとも、私には向いていないと思う。
 お兄ちゃんだって反対して……?

 でも……うーん?
 抵抗したとして、どうにかなるかしら?

 お兄ちゃんと私で、3人から逃げ切るのは難しい。
 言う事を聞くフリをして、離れた方が安全です。

 聞きたい事……えーっと。

「あ、あ、あのっ!」

「ふふん、落ち着け。落ち着くのだ。
 焦らなくとも答えてやるぞ。
 このクライオ・ディープホワイトの、類稀なる英知。
 可能な限り、何でも答えよう」

「あの、あの……
 クライオさんと、お兄ちゃんって…………ふ、夫婦?」

「ブッ!」
「ブハッ!」

 お兄ちゃんとクライオさんが吹き出しました。

「ぷっ! くくくくくく!」
「だっはははははは!」

 背後からは、獣人さん達の大爆笑。

 ……私、そんなに変な事を言ったでしょうか?

 クライオさん、見ると顔が真っ赤でした。
 照れてる? とても動揺した様子で言います。

「こ、こ、“恋人”を通り越して、“夫婦”と来るか?
 そういう世界なのか……なのか?

「知らん知らん!
 私だって初めて聞いた」

「私とブラック・インフェルノは、ただの腐れ縁。
 同郷の出身。それだけの事だ」

「これと夫婦だなんて……どうかしてる。
 何を言い出すんだ、リリー」

 2人して、口々に否定。
 揃って複雑な顔。

 腐れ……え? あれ?
 思ったより仲が悪い?

 獣人さん達は笑いを堪えて、冷やかし調子。

「や、でも、お似合いでっす♪」

「お前達……燃やすぞ」
「まったまたぁー♪」

「……あー、コホン。他に質問は?」

 話題を変えるクライオさん。
 それじゃあ、えーと……

「どうして“白雪”なの?」
「うぐっ!」

 今度は蒼くなりました。
 代わりに質問に答えるのは、
 お兄ちゃん。

「本名が白川雪子だから」

 シラカワユキコ? 変わった名前です。
 お兄ちゃんたちの世界では、普通なのかしら?

 そして、それを聞いたクライオさん。
 さっきよりも更に顔を赤くして、怒ります。

「そっ、その名は捨てたと言っただろう!!
 今の私の名は、クライオ・ディープホワイト。
 冷酷無比にして絶対無敵!
 人類淘汰機関の幹部であるぞ!」

「あー、いや、そういう事ではなく」

「貴様、忘れたのか? まさか若年性健忘症かっ!
 そんなんだから、ボケとツッコミなんて評価が下るのだ!」

「ちょ、おい! どっちがボケだと!?」

「いや、待てよ。待て待て、本当に忘れたのか?
 あああ! そうだ、そうだった!
 貴様、確か頭を打っただろう!
 見ていたぞ、覚えているぞ!」

「いつの話だ! 何年も前だろう!」

「ええい、無様な! 不憫なっ!
 フラフラ出歩かずに、大人しく療養して居れっ!」

「聞けってば! 誰も忘れてないし!」

「んなっ! 何だと! 騙したのか!
 ええい、忌々しい。
 毎度毎度、私をからかって、馬鹿にして……
 ……ハッ!? まさか?」

「今度は何を言い出す気だ」

「まさか貴様、好いた女を構いたくなるとか言うアレか!?」

「待て、誰が誰に恋していると」

「恋って言うな! 気恥ずかしいッ!
 大体、私と貴様は、その……
 いわゆるライバル的な、アレであって、だ……なのだ。
 だから、イキナリそんな事を言われても!
 困っちゃうってゆーか……ご、ごにょ、ごにょごにょ」

 クライオさん、モジモジとした仕草。

 あれは、わざと?
 それとも、純情なの?
 よく分かりません。

「だから、そんなワケあるかっ!」
「う゛あ゛ぉっ!」

 お兄ちゃん、クライオさんの頭にパンチしました。

 女の人を相手に、珍しい。
 それだけ気心の知れた、親しい仲なのでしょうか。

 クライオさんは涙目。

「ううぅ、乙女の顔に何と言う無礼をっ!」
「誰が乙女だ、三十路前」
「三十路前って言うなッ!」

 ……クライオさんって、本当に悪い人なのかなぁ?
 何だか、よく分からない人です。


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