Burn Away!
第2焦 第2話
〜Burn the ForestA〜


「とにかく、だ。
 誰か、魔法に詳しい協力者を見つけないと」

「ふむ。異論は無い。
 しかし具体的にどうする」

「この文化レベルだ。人を探すだけでも時間が掛かる。
 住人の協力を得るには、犯罪者になる訳にもいかない」

 と、お兄ちゃんの意見。
 それを聞いたクライオさんは、少し首を傾げ……

「ああ、なるほど? 当面、迷惑を掛けるな、と。
 賊なんてやめて、マトモな職を探せと言うのだな」

「平たく言えば、そんな所か」

「しかし、見つかると思うか?
 私はともかく、こいつらは顔が動物だぞ」

 と、獣人さん達を顎で指して言うクライオさん。
 表情は、不安げと言うより不満げです。

 それに対して、お兄ちゃん。

「それは問題無いだろう。
 こちらの世界では獣人と言って。
 そういう生き物が普通に居る。
 私の顔が利く町もあるから、紹介状を書いてもいい」

「顔が利く、か。不思議な物だな。
 あちらの世界では、恐怖の象徴である貴様。
 それが、こちらでは英雄。正義の味方の黒騎士とは」

「英雄なんて、そんな大したものじゃない。
 ただの、成り行きだ」

「まぁ、利用出来る物は利用させて貰おう。
 それにしても、蹴落し合うべきライバルの私。
 貴様は何故、こうも助力を。
 はッ! まさか貴様、やはりツンデレか!
 ツンデレなのかッ!!」

 ……つんでれ?
 何やら謎の言葉を、連呼するクライオさん。

 それを聞いて、お兄ちゃんは憤慨。
 またクライオさんにパンチ、パンチ。

「ぐぁっ! すぐ暴力を振るう!
 この乱暴者め!」

「お前がフザけるからだ、お前がッ!」

「女に手を上げるなどと!」
「だったら少しは、女らしく振舞ってろ!」

 口喧嘩を始める2人。

 それを見ていた獣人さん達。
 2人に生暖かい視線を送ります。

「やっぱり、お似合いだよなぁ……」

「ああ、まったく。
 ケンカするほど何とやら」

 やっぱり、そういう物ですよ。
 私にも、そう見えます。

 一見すると仲が悪い様で、きっと2人は仲良しです。
 素直になれないだけで、多分きっと……

 と、視線に気がついた、お兄ちゃんとクライオさん。

 お兄ちゃんは、手に火の玉を作りながら振り返ります。

「そこ! 燃やすぞ!」

「ヒィッ!?」 「じょ、冗談ですよ、冗談!」

「名案だ。燃やしてしまえ。
 ブラックは紹介状を書く手間が減る。
 私も私で、連れ歩く面倒が減る」

「そぉんなぁ〜!
 そりゃ無いっすよ、姐さんッ!」

「姐さんとか言うなッ!」


 えーと……それから。

 クライオさん達と分かれて、私達は宿に戻ります。
 もう日が昇り始めていました。

「参ったな……すっかり遅くなった。
 宿屋に、もう一晩お願いして、出発は明日にしようか」

「賛成。私、凄く眠い……」

 何だか、本当に眠いです。真っ直ぐ歩けません。
 こんなに夜更かししたのは、生まれて初めてでした。

 私はフラフラと倒れそうになって。
 お兄ちゃんはそれを、優しく抱き留めてくれます。

「大丈夫?」

「ごめん……何か、もう、立てない……」

 もう足に力が入りません。

「……仕方ないな」

 私を抱え上げるお兄ちゃん。
 横向きに抱き上げられて、宿屋まで運んで貰いました。

 何だか、これ、お姫様になったみたい。

 朝日を浴びて、お兄ちゃんの腕の中。
 暖かいです。私は凄く安心でした。

 でも、こういう生活も、いつかは終わってしまう。

 帰る方法が見つかったら。
 お兄ちゃんは、自分の世界に帰ってしまう。

 運ばれていく途中、私は聞きました。

「お兄ちゃん……」
「ん?」

「やっぱり、帰っちゃうの?」
「……まだ先の話さ」

「でも……」

「親父さんに、君の事を頼まれたんだ。
 帰る方法が見つかったって、急に独りにしないよ」

「うん……」

 でも、急にじゃなかったら?
 いつまで私達、一緒に居られるのかな……

 ずっと一緒に、暮らして居られたらいいのに。
 帰る方法なんて、見つからなければいいのに。

 そんな悪い事を考えながら。
 私は、深い眠りに落ちて行きました。


 それから……暫くして。

 私が目を覚ました時。
 そこは宿屋の中、ベッドの上でした。

 時間はもう、お昼ぐらい。
 日が高く昇っていました。

 外では何か、バタバタという足音。
 物々しい気配が近付いて来ます。

 やがて鎧を着た騎士さんが大勢。
 部屋に詰め掛けて来ました。

「黒騎士殿、居られるか?」
「何だ、あんた達は」

 お兄ちゃんはドアの所に立ちます。
 踏み入ろうとする、騎士さん達を阻みました。

「中に誰か匿っているのか?」

「中は女の子1人だ。
 レディの寝室に踏み入るのは、無粋じゃないか?」

「中を検めさせて頂いても?」

「リリー、どうする?」
「わ、私は……平気だけど」

 本当は寝巻き姿で、ちょっと恥ずかしかったのですが……

 何だか騎士さん達の勢いに、負けたみたいになって。
 私は立ち入りを承諾しました。

「では、失礼する」

 肩の上で手を振って、代表の騎士さんが指示。
 騎士さんが5人ぐらい、部屋の中に入って来ます。

 騎士さん達は部屋に入ると、何か探している?
 クローゼットを開けたり、ベッドの下を覗き込んだり。

 それでも、探している様な物は見つからなかったみたい。
 代表の騎士さんは、お兄ちゃんに頭を下げました。

「……失礼した。無礼をお許し頂きたい」

「許すかどうかは、事情を聞いてから決める。
 用件は? それと、そちらの素性だ」

「我々は新領主、コーレンベルクに仕える精鋭。
【暁の雲雀と明星の騎士団】である。
 本日昼過ぎ、我々は、街道南に潜む賊の一味を討伐する。
 ひいては黒騎士殿、協力を要請したい」

 コーレンベルクというのは、新しい領主さん。
 この前、追い払った、ディトマールの後任です。

 その領主さんが、賊の討伐を……

 領地を治め、平和を守る立場です。
 賊の討伐に乗り出すのもまた、当然の事でしょうか。

「協力? 精鋭だというなら、自分達で戦えば済むだろう。
 こちらにも都合なり、予定がある」

「そうしたいのは山々だが、明け方、街道での話だ。
 貴殿が賊の仲間と同行していた。
 そういう目撃情報が上がっている。
 ご自身でも賊と戦い、潔白を示されよ。
 我々とて、革命の英雄である貴殿を疑うのは本意ではない」

 どうやら、お兄ちゃん。賊の仲間だと疑われている様です。
 部屋の中を確かめたのも、ここに仲間が居ないかって……

 お兄ちゃんは私を振り返り一度見ると、すぐ決断しました。

「分かった。同行する。
 リリー、ここで待っていて」

 お兄ちゃんは剣を手に、騎士さん達と出掛けて行きます。

 ……どうしよう。
 お兄ちゃんとクライオさん達。
 戦わなければならないなんて。


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