Burn Away!
第2焦 第2話
〜Burn the ForestB〜
困った事になりました。
早くクライオさん達に、知らせてあげないと。
このままでは、騎士さん達に退治されてしまいます。
退治に行っても、そこに居なければ。
戦わなくて済むかも知れない。
お兄ちゃんだって、昔の仲間が相手です。
あまり戦いたくないだろうし……
だから、クライオさん達に知らせるのが。
逃がしてあげるのが、最善だろうと思われます。
急いで支度をして、部屋を出ようとする私。
ですが廊下に出た所で、騎士さんに邪魔をされました。
「お嬢さんは、ここに居てください」
兜をしていて顔が分かりませんが、声は女の人でした。
「どうして? 私は、お兄ちゃんが心配なの!」
「貴女が抜け出しては、お兄さんの立場が危うくなります」
「……た、立場って?」
「貴女のお兄さんは、賊の仲間と疑われています。
あなたを使って、賊と連絡を取るかも知れない」
「と、取らないかも、知れないでしょう!?」
「その確証が無い以上。
貴女をここから、出す訳にはいけません」
「私、子供だよ? 連絡とか言われても……
難しい事なんて分かりません」
「手紙か何か、持たせてあるかも知れないし。
第一、貴女は本当にエルフ族なのですか?
ホビット族の大人でないと、証明出来ますか?」
説明しておきますと。
私達の世界には、ホビット族という人種がいます。
大人になっても背丈は低いです。
エルフや人間の、子供ぐらいにしかなりません。
だから、えっと……ネンレイサショー?
年を誤魔化してるんじゃないかって、疑っているみたい。
「証明って、どうやって……
そんなの分からないよ」
「なら、このまま大人しくしていて下さい。
黒騎士殿が賊の仲間なら、彼も捕縛しなければなりません。
最悪、貴女を盾にしてでも」
「そんな……そんなのって、人質じゃないッ!」
「そうです。
我々の使命は市民の生活を守り、平和を保つ事。
その為ならばこそ、我々は手段を選びません」
手段を選ばない……
目的は正しい様でいて。
でも、何だか信用出来ません。
大体、賊が出たと情報が流れた時。
町はそんなに、騒ぎになっていなかった。
賊の腕が立つという話は聞きました。
でも、死人が出たなんて聞かなかったし……
それなのに領主直轄の騎士団が、わざわざ討伐に?
何か、裏があるんじゃないかしら。
やっぱり、この場は、戦いをやり過ごさせないと。
事実関係を調べた方が良さそうです。
ですが、知らせに行こうにも、この人が邪魔で……
……えーと。
「ああ、もう! 分かりましたっ!」
私は一度、部屋に引き返して、
「この、分からず屋っ!」
「んがっふ!!」
部屋にあった壷で、騎士さんの頭を強かに殴りました。
騎士さんは気絶。動かなくなりました。
何が分かったかって、話し合っても無駄という事。
殴って、ごめんなさい。
でも、兜してるから、大丈夫だよね?
一応、確かめてみます。
彼女の口の辺りに、耳を近づけて……
倒れた騎士さん、呼吸はしていました。
よ、よし。死んでない、死んでない。
戦った経験が少ないので、加減が分からなくて困ります。
私は宿を抜け出すと、走りました。
目指すは南、森の中。
街道を外れ、草原を突っ切って。
森へ向かって一直線。
早く知らせなきゃ。
クライオさん達に知らせなきゃ!
ですが、森の手前、小さな丘に差し掛かった頃。
火の手が上がっているのが見えました。
遅かった!
あの黒い炎は、多分、お兄ちゃんの……
どうしよう。
どうにかして止めさせたいけど、どうやったら?
私が途方に暮れていると、
「ぶはっ! 死ぬかと思った!」
森の中から駆け出して来たのは、クライオさんでした。
煤だらけです。
「だ、大丈夫?」
「ん? おお、貴様は確か、ブラックの連れの」
「居たぞ、こっちだー!」
「む。いかん」
マズイです。
森の中から騎士達が、追っ手が迫っています。
クライオさんは、私を小脇に抱えて走り出しました。
……って、えええええ!?
助けてあげたいのは山々です。
でも、仲間と思われるのも。
それはそれで困ってしまいます。
「撤退するぞ! 来い!
シャドウリッパー、ベノムハンター!」
クライオさんは走りながら、獣人さん達を呼びます。
ネコの方がシャドウ〜で、ヘビの方がベノム〜みたい。
その声を聞きつけて。
獣人さん達が森から飛び出して来ました。
あ、ちょっと怪我してる。
シャドウさんはオデコに傷。
ベノムさんは右肩から、血を流していました。
2人は焦った様子で言います。
「逃げるったって、どこ行くっすか!?」
「我々には、土地勘がありませんぞ!」
「問題無い。道案内を拾った」
道案内って、それ、私の事ですか?
聞き返したいのですが、酷く揺られて声を出せません。
「領主殺害容疑により、貴様らを拘束する!」
「神妙にしろ! 大人しく縛につけ!」
回り込まれた!?
逃げる先にも騎士。
5人。いえ、6人居ます。
で……今、領主殺害って言った?
立ち止まったクライオさんに、私は聞きます。
「クライオさん、領主様を殺したの?」
「知らん。そんな上等なヤツを襲った覚えは無い。
もし、そんな金持ちを襲って、大金をせしめていたのなら。
今頃は、豪華スイートだ。
わざわざ森で野宿すると思うか?」
すいーと?は、分かりませんでしたが……
領主さんから大金を取ったら、野宿はしないと思います。
じゃあ、やっぱり濡れ衣?
誰かがクライオさん達に、領主殺害の罪を着せようと。
「ちょ、おまっ……リリーを離せ!」
お兄ちゃん!
彼も代表の騎士と一緒に、追いついて来たみたいです。
それを見て、クライオさんは何故か楽しそう。
彼女は声高らかに、笑い出しました。
「ふははははは!
黒騎士よ! 貴様の大事な、お嬢ちゃんは預かったぁー。
返して欲しくば…………えーと?」
言い掛けて、クライオさんは私に、
「どこに逃げれば良い?
身を隠せそうな場所は?」
彼女は私に、小さな声で聞きました。
私、さっそく道案内に使われてます……
でも、確かに。
今は逃げるしか、逃がすしか無いのかも。
私も小声で答えます。
「えっと……北。北の山。
遺跡になってる、古い砦があるの。
そこなら隠れられると思う」
「ふむふむ。では、黒騎士よ!
娘を返して欲しくば、北の山まで追って来るが良い!」
「馬鹿め! この囲みから、逃げ切れると思うか!?
かかれッ!!」
代表の騎士が合図。
手下の騎士達が、剣を手に迫ります。
「ベノム、ちょっと持ってろ」
「わっ!」
「おおっと!」
クライオさんは、反転。
ヘビのベノムさんに私を投げ。
1人で騎士達に向かいます。
……丸腰で!?
「危ないっ! クライオさん!」
「ふふん、案ずるな。
ヤツが黒騎士なら、私はさしずめ白い魔女。
この私、クライオ・ディープホワイトの絶対零度!
骨身の芯まで、とくと味わうが良い!」
クライオさんが手をかざすと、急に突風。
冷たい雪混じりの、白い白い風が吹きました。
気温が下がります。
視界が白く染まります。
大地が霜に覆われます。
騎士達は見る見るうちに、氷の塊になってしまいました。
……雪嵐?
これは、何? 氷の魔法?
「おおぉー、寒い寒い。
乗ってるな、姐さん」
「ああ、怖い怖い。
俺なんて爬虫類だから、食らったらイチコロだぜ」
急に寒くなって、震える獣人さん達。
抱えられている私も、一緒にガクガクします。
と、クライオさんは踵を返し、
「行くぞ! これ以上は無意味!」
「へいっ!」
逃げ出す一行。
北へ。山中の遺跡、古い砦に向かって。
「リリーを離せっ!
リリーっ!!」
白く霞む向こうで、お兄ちゃんの声がします。
彼は無事でしょうか。
「お兄ちゃーん!!」
私の呼び掛ける声。
それも、届いたかどうか。
私の声は雪嵐に呑まれ、すぐに消えてしまいました。
これから先、どうなるんだろう。
お兄ちゃん……
|