Burn Away!
第2焦 第3話
〜Burn the Frost〜@
騎士団の襲撃を逃れ、燃え盛る森を離れ。
それから2日が過ぎました。
山間部の砦に逃げ込んだ、私とクライオさん。
今は野営の支度をしていました。
また日が暮れていきます。
山から吹き降ろす冷たい風。
白い月は一層、寒々しく輝いています。
……寒い。
使われなくなって久しい、古い砦。
壁もボロボロ。隙間だらけです。
あまり風除けの役には、立ってくれません。
私が寒さに震えていると、クライオさん。
隣に座って、肩を寄せてくれます。
温かい肌、いい匂い……
何だか、お母さんみたい?
彼女は、氷の魔法? チョーノーリョク?
それを使うクライオさんですが、温かいです。
体温や心の温かみとは、関係ないみたい。
私も魔法、もっと勉強しておけば良かった。
チョーノーリョクは違うかも知れませんけど。
私が物思いに耽っていると、彼女は言います。
「何か話をしよう。
退屈だ。テレビも無いなんて」
てれび?は分かりませんが、私も退屈。
でも、何を話そうかしら。
別世界から来た、クライオさんにも分かる話………
共通の話題で、出来そうなのは1つ。
どうしても、お兄ちゃん関係の話になります。
「あれって演技だよね?
お嬢ちゃんを返して欲しくばー、って」
「ふふん、頭が良い子だ。その通り。
慎重なブラックが、イキナリ森に火を放った。
騎士団連中には、あぶり出す為とか言っていたが……」
ブラック……ブラック・インフェルノ。
クライオさんはお兄ちゃんの事を、そう呼びます。
昔居た組織での名前。
私としては、お兄ちゃんの名前はフェルノです。
そっちで呼んで貰いたいかも。
ただ、クライオさん達は、まだ組織の一員。
お兄ちゃんが抜けようとしているのは、知られたくなく。
「ふふん。聞いているか?
心、ここに非ずと言った面持ちだが」
「えっ? あ、ああ、ごめんなさい。
あの時の事、思い出しちゃって」
「無理も無い。大変な逃避行だったな。
車が無い世界とは大変だ。徒歩で何km逃げたやら」
……誤魔化せた、かな。
「とにかく、本気で我々を殺しに来たのではない。
同時に、そうせねばならんとも想像がついた。
例えば貴様が人質に……責めているのではないぞ?
相手が卑劣漢であっただけの話で」
まだ何も言っていないのに、私を慰めるクライオさん。
私が顔に出してしまったでしょうか。
私が居なければ、こんな事にならなかったかも。
そんな事も、ふと思ったりしました。
でも居るんだから、居てしまったから仕方ないです。
何とかして、状況を修復するしかない。
「成り行きで殺し合うなど阿呆の所業。
しかして状況を把握する為に、時間と間合いが必要。
ブラックの奴とは無関係を装いつつ、逃げる。
その為の演技だ」
「クライオさんって、演技派なのね」
「その通ぉーり!
私は演じるという行為で、幼少より頭角を現していたッ!
例えば……そうそう、学校の学芸会でも……
ああ、学校って分かるか?
国家が運営する、ある種の教育機関で、な」
そんな話をしていると、人?の気配。
ヘビの獣人さん、ベノムさんが戻って来ました。
ベノムさんは騎士団を調べに、領主の館に潜入したハズ。
彼は担いでいた皮袋を下ろすと、一息。
それからクライオさんの前で膝をつきます。
「申し訳ありません。
思いの外、遅くなりました。
……ご無事で?」
「見ての通りだ。今の所、何も問題無い。
それより、首尾はどうだ。何か掴めたか?」
「領主の城で働く女中の1人を捕らえ、吐かせました。
新領主と騎士団の間に諍いがあった事は、確かな様です」
「ほう、諍いと」
「先日、和解を名目に。
騎士団は領主を誘ってウサギ狩りを開催。
その場で領主が賊に襲われ、命を落とした……
表向きは、そういう話になっているみたいですな」
「なるほど。
その狩りの場において、領主を暗殺した、といった所か」
「騎士団を怪しんで居るのは、誰しも同じ。
連中は、罪を着せるスケープゴートを求めており……
現れた余所者、つまり我々が。
その白羽の矢を立てられたのでしょう」
「騎士団の目的は」
「分かりません。
ただ、件の騎士団の長、バイルシュミットとやら。
侮りがたい切れ者だとか。
過去に重臣が何人か、変死している様です」
「変死……暗殺か」
「恐らくは」
「国家中枢からは疎まれ、同時に恐れられている、か。
さぞ持て余しているのだろう」
「他方、下層市民層からの信望は厚い様です。
悪徳官吏を糾弾して回る、などの振舞いが見られるとか」
「丸きりの悪党ではないのか。
あるいは、それも人気取りの為の根回しか」
「これは私の憶測になりますが……
民衆の支持を後ろ盾に、己の野心の為、地方独立。
そういった事も、視野に入れているのではないかと」
そうベノムさんが報告すると……
クライオさんは徐に立ち上がります。
腕を組んで少し歩きながら、考えを纏めます。
「民衆の支持、と。
しかし暗殺されたという領主、コーレンベルクとやら。
こちらも民からは慕われていたらしい。
ならば、民を愛する騎士団長バイルシュミット。
気が合ったのではあるまいか」
「あるいは……そう見える様に装っていた?」
「どちらが? 分からんな。
民を愛するのが、もし仮に表の顔とするならば。
裏では、どちらがどうであったのか。
騎士団と領主の間で、どういった諍いがあったのか。
興味が尽きん話だな」
「では、今一度潜入し、事実関係を……」
「いや。騎士団の襲撃まで、もう日が無かろう。
連中の出方次第で、また逃避行になるやもしれん。
貴様は今暫く、休息を取るが良い」
「ははっ……
あ、それとこれ、土産です」
ベノムさんは、運んで来た皮袋を広げます。
中身は食料でした。お肉とか……
「ほほう?」
「ご馳走ね」
「城内で捕らえた女中が、持たせてくれました。
彼女は陰謀とか、ゴシップの類に深く興味がある様で。
詳しい事が分かったら、知らせて欲しいと」
「おおっ、何すか?
いい匂いッすね!」
と、ネコの獣人さん、シャドウさんの声。
彼も偵察から戻ってきたみたい。
彼も、何か持ってる様子。
右肩に1つ、左の脇に2つぐらい。
でも、袋じゃないです。彼が持っているのは、
なんと人間でした。
フードを被った魔法使いみたいな人。
線が細い感じの、若い男の人。
あと1人は女の人かな。腰に剣を下げています。
クライオさんは、彼に聞きました。
「シャドウ。貴様、見回りをしていたのでは?
というか、誰だ、それは」
「へい。怪しい人影があったんで。
ボコって捕まえてきました。
それが、こいつらで……
ほら、起きろ! 爺さん!」
と、シャドウさん。
捕まえて来た1人を、ガクンガクンと揺すります。
お爺さん? 手荒いなー。何か可哀想。
「うっ……痛たたた!
年寄りは、もっと大事に扱わんかっ!」
目を覚ましたお爺さん。
彼はフードを下ろして、辺りを見回します。
彼は私と目が合いました……って、
「ああッ!!」
「おお? そなたは!」
お爺さんは、サウザントさんでした。
前に私達を助けてくれた、魔法使いのお爺さんです。
……その彼がどうして、こんな所に?
|