Burn Away!
第2焦 第3話
〜Burn the FrostA〜
「賊と思われていたのが、黒騎士殿の昔の仲間とは……
しかし、まずはリリーちゃん。無事で何よりじゃ」
私達の事情を聞くや、再会を喜ぶサウザントさん。
彼は私に言います。
「黒騎士殿は今、渦中の人。
領主殺害犯の仲間ではないかと、疑いを掛けられておる」
「知ってるわ。
でも、領主様を殺したのは騎士団なんでしょう?」
「うむ。わしもそう思って居る。
じゃが、証拠が無い。
まずは騎士団と賊に、繋がりがあろうかと思って、な。
探りを入れに来たのじゃが……」
サウザントさんは、クライオさんに振り返りました。
彼女は言います。
「我々は騎士団の連中とは、何の関わりも無い。
領主を殺しても居ない」
「どうやら、その様じゃ」
「だから言ったじゃないですか〜。
あのバイルシュミットは、焦ってるんだって」
今度は別の、若い男の人が言いました。
彼も魔法使いみたい。
お弟子さんでしょうか?
「だって、僕らを斥候に出したのも。
これ、潰し合わせようって魂胆でしょう?
戦わなくても、戻る前に裏切った事にして……とか。
バイルシュミットの事です。薄ら暗い計画の1つや2つ」
「かも知れぬな。
まぁ、貴族側の印象操作もあろう。
先入観は危険と思うが」
「あと、手温いとも思いますけどね。
僕なら黒騎士さんが引っ込みつかない様に。
例えば、お嬢さんを……こっ、いや、えーと?」
私を……えっ、私を殺す? 暗殺?
賊の仕業に見せかけて。
領主様みたいに、私を殺すという事?
お兄ちゃんが、賊を殺しやすい様に……
じゃあ、あの女騎士!
宿屋で見張りに残っていた人!
彼女は状況次第では、私を殺す為に残っていた?
今更ですが……何だか怖くなりました。
あの時、脱出しなかったら。
私、殺されていたかも知れないんだ。
不安げな表情を浮かべる私。
それを見てかサウザントさんは、お弟子さんに言います。
「お主は黙って居れ」
「だって、本当の事でしょう?」
「そうかも知れんが……
見よ。リリー嬢を不安がらせてしまったではないか」
「あらら、これは失礼。大丈夫ですよ、お嬢さん?
その時は僕も、このお節介爺と一緒に助けに来ます。
妹弟子を見殺しになんて、しませんって」
「……妹、弟子?」
私が首を傾げると、お弟子さんはサウザントさんを指差して、
「貴女もコレから、魔法を教わったんでしょう?
なら、そんな様な物です」
「師匠を爺とかコレだとか、指差して言うでない!
大体、お主は一度、破門にしたであろう。
一から指導のやり直し。
今やリリーちゃんの方が姉弟子ぞ!」
「あはぁー、そういう見方もありますか」
「まして、素質はともかく……
素行で言うならリリーちゃんの方が、幾らかマシじゃい!」
「おや、酷い。
暗にリリーちゃんがヘタクソだって言ってません?
そんなにカッカしてると、お嬢さんにも嫌われませんか?
おおーコワイコワイ♪」
怒るサウザントさん。
楽しそうな……えーと、兄弟子さん。
兄弟子さんで、もう、いいですよね?
私、姉とか言われても、全然ピンと来ませんし。
それに、私の魔法。確かにヘタクソだし。
……何か悔しいなー。
もっと練習しなきゃ。
まぁ、私の事はともかく、です。
サウザントさん達は、作戦会議を継続。
クライオさん達と、今度の事を話し合います。
「これから、どうしましょうかね?
騎士団が臭い以上、戻っても殺されかねないですし」
「ふむ。何か策が要るか」
「じゃあ、こういうのは?。
賊の皆さんが、やられて見せて、改心した事にする」
と、兄弟子さんの提案。
ベノムさんは頷きます。
「ああ、それは名案かも知れませんな。
我々はまだ誰も、殺してなど居りませんから……」
「いや、私は幾らか殺したと思うぞ?
森から逃走した折、騎士を5人ばかり氷付けにした。
アレで助かってたら、逆に怖い」
クライオさんの鋭い指摘。
やっぱりあの人達は、死んじゃったかな。
悪いのが騎士団長だとすると、仕方なく従って。
それで死んだりしたら、ちょっと可哀想かも。
「あ、いや、でも、アレは不可抗力でしょう。
こっちだって、命を狙われてたんで……
と、とにかく。非戦闘員に手は出していません。
罪も軽いでしょう。多分……」
「なるほど。なれば、刑罰も軽く済むか。
まったくも無罪放免とは行かぬかも知れんが」
と、サウザントさんも同意。
ですが、兄弟子さんに懸念。
「しかし、それにはまず、領主殺害の容疑を晴らさないと。
賊を働いただけならまだしも。
領主殺害となれば、断頭台は免れませんよ」
「ふむ……では、やはり。
騎士団による領主殺しの証拠を、掴まねばらんのか」
「ですが、あまり時間もありません。
一両日中には、騎士団の襲撃があるものかと」
と、今度は、サウザントさんの連れの、女の人……
あれ? どこかで聞いた声です。
前の領主の所に居た、私の見張りをしていた騎士さん?
……違うかな?
「となると、<少々、手詰まりか。
今一度、行方を眩まして、時間を稼ぐのがよかろうか」
「しかし良い逃げ場所が、そうどこにでも、あるかどうか。
いっそこの砦で抵抗して、騎士団を全滅させるとか……」
「騎士団の領主殺害。
それを証明出来なくては、我々の容疑も消えぬままだ。
騎士団を全滅させたらさせたで、証言する者が居なくなる。
それでは、後に遺恨が……」
「え、え、えーと……
先にちょっとだけ、いいっすか?」
みんなが頭を突き合わせる中。
不意にシャドウさんが立ち上がって。
恐る恐る手を上げました。
「何だ? 名案でもあるのか?」
「あ、いや……そうじゃなくて。
な、何か、すんません。
イキナリ殴っちって」
サウザントさんに、ヘコヘコ謝るシャドウさん。
と、気がついて、クライオさんも頭を下げます。
「ああ、そうだった。
部下が失礼をした様だ。
どうか許されよ」
「ああ、よいよい。
こう緊迫した状況下では、警戒するのも無理からぬ事じゃ」
と、サウザントさんが許して。
兄弟子さんと、女騎士?さんも頷きます。
「しかし、黒騎士殿も隅に置けんのう。
かような美しい想い人が居ってはのう。
他のオナゴには目もくれぬか?
ふむふむ……」
「お、おもッ!?
……だ、だ、だからッ!
私と奴は、そういう仲ではないっ!」
「んん? 何じゃ何じゃ。
派手な格好のくせに、奥手なお嬢さんじゃのう。
何なら、わしが代わりに進展させてやっても」
言いながら、サウザントさんは杖を振ります。
彼が光に包まれて、その姿が変わって……
と、クライオさんが2人に!
変身の魔法です。
魔法に馴染みの無い、クライオさんや獣人さん達は慌てます。
「ななななな何だ、何だそれはッ!」
「姐さんが2人に!?」
「爺さんはどこ行った!?」
「おう、そなたらの世界には、魔法が無いんじゃったな。
意のままに姿を変える、魔術の奥義・変身の魔法じゃ」
「変身……? ま、待て!
その格好で、一体何を……ハッ!」
何か思いついた様子の、クライオさん。
……えっと?
私はサウザントさんに聞きます。
「あの、サウザントさん?
クライオさんの格好で、お兄ちゃんに何するの?」
「ほっほ、そう心配せずとも、あまり無茶な事はせぬぞ。
ただ、こう生足をチラッと……とか」
サウザントさんが、生足を……
十分、無茶だと思う。
それを聞いていて、クライオさんは。
いや、聞いてなくもないけど、そうでなくて?
「やめんかッ! いや、そうではなくて!
貴様、何にでも姿を変えられるのか?
……誰にでも?」
「うむ。あまり大きな生き物は無理じゃが、な。
人間なら、おおよそ問題無い」
「それは……死んだ人間でも?」
そう言われて、今度はサウザントさんがハッとします。
クライオさんは得意げに、
「ふふん、察したか?
切れ者が居ると、説明が省けて良いな」
「白いお嬢さん。
そなたもなかなか、頭が切れると見える。
なるほど、一芝居打つか」
……えっと?
何だか分かりませんが、作戦が決まったみたい。
そんな時、何か聞こえて……
これ、角笛の音!?
山の下の方からです。
「うおおっ、何じゃコリャ!」
「一体、いつの間に!?
姐さん、大変ですぜ!」
異常を察して、砦の外壁まで見に行った獣人さん達。
慌てた声を上げて来ます。
私達も見に行くと、山裾に、物凄い数の火が見えました。
松明……?
50とか、100とか、とにかく沢山。
砦は完全に囲まれています。
逃げられない様に、気付かれない様に。
火を消して近付いていたんだ!
「チッ! 仕掛けをする暇も無いとは!」
「どうするのじゃ!
ここで仕掛けるか」
「目撃者が要る。奴らの身内以外の。
騎士団長が口を割っても、証言を聞く部外者が要る」
「じゃが、退路は断たれたぞ!」
「ならば、突破するまで!
私に続け! 全員、ふもとの町へ!」
クライオさんの号令。
私達は町へ向かって走り出しました。
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