Burn Away!
第2焦 第3話
〜Burn the FrostC〜
「うわああ!!
来たぞ! 賊だッ!」
「門を守れ!」
町に辿り着くと、そこはもう騎士団の占領下。
騎士達は門を硬く閉ざし、守りを固めています。
……が、
「おりゃあーっ!」
「どりゃあああ!」
ベノムさんがサーベルを投げて、門に刺します。
そしてシャドウさんが跳躍。
サーベルを踏み台にして、門を飛び越えます。
「うわっ! 上から……がふっ!?」
「ぎゃあっ!」
「わあーっ!」
門の向こうで、ドタバタドタバタ。
門のこちらでも、ドタバタドタバタ。
向こうに行ったシャドウさんが、門の向こうと戦って。
こちらに残ったクライオさん達は、後方で応戦。
背後から迫る騎士団を、門の前で食い止めます。
「円陣を組め!
リリーちゃんを危険に晒すな!」
「えぇい……まだか、シャドウ!」
と、少しして、
「お待たせしやしたッ!」
門が開かれます。
門の中には、血だらけで倒れた騎士達。
返り血だらけのシャドウさん。
シャドウさんも、怪我をしているみたい。
「だ、大丈夫? ネコさんッ!」
「へへ、こんなの何でもありませんぜ。
ってか俺は、ネコじゃなくて黒豹なん……
いやいやいや! そんな事より……早く!」
私達は町の中心、広場を目指しました。
サウザントさんと兄弟子さんは、雷と爆発の魔法で、
逃げながら騒ぎを大きくします。
寝ている町の人達を、叩き起こしながらの逃走。
騎士団長の口から、領主殺害を白状させて。
それを多くの人達に聞かせる為に。
でも……騎士団長に白状させる?
どうするんだろう。
広場に着くと、サウザントさんは再び杖を振りました。
頭の帽子を取って、叫びます。
「静まれ! 皆の者ッ!」
帽子を取るサウザントさん。
その顔は……領主様!?
「ああっ! りょ、領主様だ!」
「ご、ご存命でしたか!」
死んだハズの領主様が現れて、町の人達は大騒ぎ。
追って来た騎士団長は、蒼い顔をして驚きます。
「なっ……領主コーレンベルク!?
どうして生きている!」
「バイルシュミット、何をそう慌てている!
そして、お前は誰に剣を向けているのだ!
「だ、黙れ! これはマヤカシだ!」
「仮にマヤカシだとして、その行為、許されるのか!?
剣を捨てよ、バイルシュミット!
我が誇り高き【暁の雲雀と明星の騎士団】よ!」
「き、貴様は確かに、胸に矢を受けて死んだハズだ」
「もはやこれまでと、覚悟せよ。
我が命を狙った代償は大きいぞ?」
「だ、だっ……黙れ! 黙れ、黙れッ!
行き届かぬ統治、重い税!
悪政を敷く貴様を討って、何が悪いッ!!」
「ほほう、悪政とな?
何を根拠にその様な事を」
「ほざけっ!
貴様は大臣ホルバインに、賄賂を送っていただろう!
吸い上げた税を民の為でなく、己の保身に使っているのだ!
その証拠も、ここにあるッ!」
騎士団長は何か、羊皮紙の様な物を見せます。
難しい字が並んでいて、よく分かりませんが……
「おお、バイルシュミット様ッ!」
「領主なんかやっつけちゃえー!」
どうやら町の人達は、騎士団を支持するみたい。
クライオさんとベノムさんが、小声で話します。
「これは少々、予定外だな。
悪玉は領主の方だったのか」
「ですが、あれも真実とは限りませぬ。
無関係の我々に、罪を着せようとした事実。
あのバイルシュミットとて、相当に悪党かと」
「分かっている。
しかし、支持を受けているのはバイルシュミット。
ただ奴を倒しても、この場は収まらんぞ?」
「ですが、策を練るには、今少し時間が……」
と、頭を捻る兄弟子さん。
クライオさんはそれを聞くと、少し難しい顔をして、
「では、私とブラックで、少し時間を稼ごう。
あまり長くは持たぬので、早めに頼むぞ?」
クライオさんは、何か特徴的なステップ。
踵で音を鳴らしつつ、騎士団と私達の間に出ます。
お兄ちゃんは、それに気がついて……
という事は、あの歩き方は合図だったのかしら?
お兄ちゃんもまた、彼女に合わせて前に出ました。
見詰め合う、クライオさんとお兄ちゃん。
クライオさんは、また何かの合図。
身体の前でススッと手を動かして……
それから剣を構え、お兄ちゃんに向けます。
「黒騎士よ! 騎士団は間違っている!
貴様は騙されているのだ!
領主の命を狙うなど、許されるハズも無い!
目を覚ますのだ、我が友よッ!」
と、お兄ちゃんも小さく頷き、手を動かして合図。
それから剣を構え、クライオさんに向けます。
「白き魔女! わが友よ!
何故、私の大切な家族を連れ去った!
領主も騎士団も関係無い!
リリーを開放しろ!」
「どうあっても、貴様は私の物にならぬと言うのか!
ならば私が、この手で葬ってくれる!」
「独占欲を愛だと語るか!
昔のお前は、そんな奴ではなかったハズだ!
お前こそ目を覚ませ! 我が友、白き魔女!
クライオ・ディープホワイト!」
「問答無用!
我が深遠なる氷と雪で、貴様を永遠に閉ざしてやるッ!」
「ならば私は我が炎で、お前の業を焼き尽くす!」
叫ぶクライオさん。
答えるお兄ちゃん。
お兄ちゃんが先手です。
跳躍して、上段からの斬り込み。
クライオさんは、それを剣で受け流しつつ、反転。
勢い余って無防備になった、お兄ちゃんの背中。
彼女はそれを、氷の投げナイフで狙います。
お兄ちゃんはすぐに振り返って、自分の前に炎の壁。
ナイフをかき消し、まだ消えない炎の中を突っ切って前進。
彼は下段から、鋭く斬り込んで行きます。
クライオさんは、地面から大きな氷の剣を幾つも出します。
お兄ちゃんの進路を妨害。
そして氷の剣の間を、巧みに走るクライオさん。
バランスを崩したお兄ちゃんに、細身の剣で斬りかかります。
お兄ちゃんは身を反らし、斬撃を、突きを、続けて回避。
開いている左手で、クライオさんのお腹に掌底。
彼女は仰け反り、彼は追撃。
彼女は距離を取りながら、氷で。
彼は炎で防ぎながら、距離を詰め。
近寄っては、剣と剣。
離れては、氷と炎。
剣が激しくぶつかり合います。
炎が爆ぜ、氷が舞います。
これが、演技! 即興の……
……本当に、全部演技かしら?
身体は経験で、勝手に動くかも知れません。
でも、言葉は?
もしかしたら、繰り出された言葉。
その幾らかは本心だったのかも。
クライオさんは、やっぱりお兄ちゃんの事が好きで。
お兄ちゃんは、やっぱり私の事が……
えぇっ!? ち、違う違う!
そうじゃなくて、えっと、えっと……
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