Burn Away!
第2焦 第3話
Burn the FrostD〜


 激しく打ち合う、お兄ちゃんとクライオさん。
 2人の戦いは熾烈を極めます。

 騎士達は呆気に取られて、身動きが取れません。
 見ると町の人達も、2人の戦いに目を奪われていました。

「悪い領主に味方するなんざ、悪い魔女だ!
 黒騎士様ーっ!  早く、やっつけちまって下さい!」

「何言ってるのよ!
 あの魔女さん、黒騎士様が好きなだけでしょう?
 正義なんかより、愛だわ、愛っ!」

「悲恋よねぇ。愛した人に、他に好きな人がいるだなんて。
 魔女さん、頑張ってー!」

「俺は魔女のねーちゃんを応援するぞー!
 ねーちゃん、色っぺー!」

「こら、あんた! どこ見てんの、このスケベ!
 黒騎士様、素敵ーっ! 負けないでーっ!」

 町の人達の支持は、どっちつかず。
 お祭り間隔と言うか……何だかウヤムヤです。

 その間、サウザントさんと兄弟子さん。
 手で何か、合図を送り合います。

 首をチョン切るー、とか。
 ナイフでサックリー、とか。
 物騒なジェスチャーが続いています。

 ……大丈夫かなぁ。

 と、話が纏まったのでしょうか。
 兄弟子さんが近付いて来て、私の肩に手を置きました。

 彼は私に耳打ちします。

「さあ、今です。
 僕の杖を取って、高く掲げて……
 フィナーレ、行きますよ」

「……え? こ、こう?」

 私は兄弟子さんの杖の端を取って。
 彼と一緒に持ち上げます。

 すると突然、杖の先端から雷の魔法。
 放たれた雷は領主様……
 に化けている、サウザントさんに直撃!

 ……ええっ!?

「ぐっ……お、おのれ、小娘っ!
 味方と思わせて、油断させおったか!」

 え? え?
 小娘って、私?

「ぐふっ……だが、1人では死なぬわ!
 ほあああっ!」

 死ぬ? え、嘘、致命傷?

 領主様になったサウザントさん。
 杖を高く掲げ、バイルシュミットを雷で撃ちます。

「ぎゃあああッ!!」

「む、ぐう……
 もはや、これまで……ガクリ」

 倒れる騎士団長と、サウザントさん。

 え? え?
 嘘っ、死んじゃった!?

 それとも、演技?
 これも演技なの!?

「だ、団長ッ!?」

「大変だ! 団長が負傷した!
 息をしてない!」

 ドタバタする騎士達。

 軍医らしい人を連れて来られました。
 騎士団長の脈を取ったり、首を横に振ったり……

 どうやら騎士団長は、本当に死んだみたいです。

 って、じゃあ、サウザントさんも?
 私がオロオロしていると、兄弟子さんが囁きます。

「ほらほら、堂々として。
 僕の後に続いて、同じ様に話してください。
 なるべく、大きな声で……」

 やっぱり、演技? だよね?
 私は、不安は不安なのですが……

 サウザントさん、今は大丈夫だと思う事にして。
 彼の言葉に合わせます。

 一度、大きく息を吸い込んで、声を張り上げました。

「悪しき領主は、今一度、倒されました!
 ですが、名高き騎士団長、バイルシュミット。
 彼もまた、命を散らしてしまいました!」

「な、何だ、唐突に」
「何を始める気だ」

 うう、何だか怖いなぁ……
 騎士団にも、町の人達にも注目されます。

「こ、この戦い、もはや意味などありません!
 剣を捨ててください! 戦いを止めて!
 魔法使いサウザントの一番弟子。
 このリリー=アンソニー、皆の命を預かります!」

「何だ何だ?」
「誰だって?」

「サウザント?
 あの、高名な魔法使いの?」

「おい、どうする?」
「どうするったって、なぁ?」

 騎士団は、まだ方針を決め兼ねているみたい。
 と、兄弟子さん、また私に耳打ちします。

 いいのかな、そんなテンションで。
 勢いが大事? ふーん……

 他にどうしようも無い私は、彼の助言に従います。
 更に大きく息を吸い込み、更に声を張り上げました。

「口答えしなーいっ!!
 いいですか? 騎士団の皆さんっ!
 貴方達には今、代表が居ません」

「そ、それはまぁ、確かに」
「しかし、それなら副長が……」

「全員一致で、副長さんが継いで大丈夫?
 キチンと話し合わないと、後で揉めるんじゃないかしら?
 それに、分かってる? 騎士団長が死んだの」

「それは分かっている」

「だが、責務もある。
 並行して賊の件も片付けねば」

「死・ん・だ・の・よ!?
 お馬鹿さんみたいに戦うより、お弔いが必要でしょう?
 それでなくとも、こんな夜遅くに騒ぎを起こして。
 いつまでも続けてたら、町の人達に迷惑でしょう!」

「うっ……それは正論だ」

「だから、今日の所は解散!
 朝になったらお師匠様を呼んで来ます!
 調停して差し上げます!」

「おおーっ!
 お嬢ちゃんの言う事は、もっともだ!」

「お嬢ちゃん、小さいのに立派ねぇ!」

 町の人達の支持は、私について来ています。
 いい調子です。

 でも、騎士団は不満みたい。

「で、では、領主の死体。
 それだけでも、こちらで預からせてくれないか」

「そ、そうだ!
 黙って引き下がったのでは、我々の面子が立たん!」

「領主の死体は、然るべき方法で処理。
 そして、然るべき場所に収めなければなりません。

「そういうものなのか?」
「しかし、ただの死体だろ?」

「見たでしょう? 魔法を使ったの。
 死んだハズでしょう? なのに、出てきたの。
 また普通に葬ったら、また復活するかもよ?」

「そ、それは……怖いな」

「私では無理なので、お師匠様にお任せしたいの。
 それまで私が管理して……ダメかしら?
 また復活するかもよ?」

「うっ、いや、しかしだな……
 そ、そうだ! そいつらは賊じゃないか!」

「そうだ、そうだ!
 せめてそいつらだけでも、こちらで取調べを!」

 何が何でも、手柄が欲しいんですか。

 騎士団長が居なくなって、将来が不安なのは分かります。
 が、それにしたって、困った大人達です。

 でも、大丈夫!
 こっちには、頭のいい兄弟子さんが……

 って、あれ? 兄弟子さん?
 助言が止まってます。

 私が振り返ると、彼は小声で、

「す、すいません。
 賊の皆さんの事まで、対応を想定してませんで」

 ええーっ!!?

 ど、どうしよう?
 どうしたらいいの?

 このままでは、クライオさん達が捕まってしまいます。

 どうしよう、どうしよう。
 次の作戦を考えるまで、時間を稼いだらいいのかしら?

 何か、即興で……

 即興……?

 ……そうだ。
 お兄ちゃんとクライオさん。

 演技が出来ないなら、本当の事。
 本当に思っている事を、言ったらいいんだ!

「く、くっ……口答えするなぁーっ!!」

 思いの外、大きな声。
 騎士団の、町の人達の無数の目が、残らず開かれます。
 声を出した私でさえ驚きました。

「そっ、そもそも、お兄ちゃん。
 賊が出るって言うから、様子を見に行ったんです!
 賊の皆さんは、根はいい人達で、反省してて……
 話し合いで、解決出来そうだったんです!」

「そ、そうだったのか?」
「調査の奴は、一緒に歩いてたって……」

「そうやって貴方達が、思い込みで口を挟むから!
 お兄ちゃんを、賊の仲間だとか言い出して。
 それで、お兄ちゃんを勝手に連れて行くからっ!
 だから事件が、こんなに、ややこしくなったんです!」

「い、いや、だって、紛らわしかったって言うか」
「言ってくれたら良かった、のに?」

「話し合ったのに、敵になって戻って来て!
 怒るでしょう!?
 仕返しに、悪さしようって思うでしょう!?
 私は、さらわれて! 寒い思いをして!
 領主には利用されるし!
 賊の仲間だって疑われるし!」

「そ、それは申し訳ない事を……」
「う、うん、すまない……すいません」

 始めは取り繕うとする騎士達でしたが。
 だんだん居た堪れなくなって来た様子。
 ですが、関を切った私の言葉は、止まりませんでした。

「もう、こんなの嫌! 独りぼっちは嫌っ!
 お兄ちゃんを連れて行かないで!
 私のお兄ちゃんを連れて行かないでっ!!
 もう誰も、私のお兄ちゃんを連れて行かないでーっっ!!!」


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