Burn Away!
第2焦 第3話
〜Burn the FrostE〜
張り上げた声。
身体に残った痺れ。
“やり切った”という達成感。
“やってしまった”という後味の悪さ。
ああ……言っちゃった。
思った事を、思ったまま、全部言ってしまいました。
勢いが余って、少し涙も出ました。
私の大声に気圧されて、呆気に取られている騎士達。
町の人達も一様に、大口を開けていました。
大丈夫かしら? 方向修正できる?
私が振り返ると……
兄弟子さんは、私の前に出ます。
パチンパチンと手を鳴らしながら、騎士達を諌めます。
「女の子を泣かせるなんて、騎士の名折れじゃないですか?
申し訳ないですが皆さん、今日の所はお引取りを」
「そうだ。我々とて償いはする。
しかし、これ以上、この少女を泣かせるのであれば……
もう少しばかり罪を重ねる事も、全く厭わんぞ?」
クライオさんも、剣を掲げて凄みます。
騎士達は、タジタジ。
「し、しかし……証拠は?
信じてよいものか」
それでも食い下がる、1人の騎士。
責任感が強そうな顔。
彼が副長さんか何かでしょうか。
と、私の耳元に、兄弟子さんの助言が戻って来ます。
よし、もう大丈夫そう。
私は彼に合わせて、言います。
「じゃあ、3人とも……
みんなの前で、もう一度。
悪さをしないって約束して下さい」
私がそう言うと、クライオさん。
私の前で跪きました。
「承知した。我らは貴君に忠誠を誓う。
蛮行を戒め、民の為に戦う事を約束する。
……ほら、お前達も」
「へい、お嬢さんに従いやす」
「是非もありません」
「そ、そういう事なら……」
「後日、話を聞く事になると思うが、逃げるなよ?」
獣人さん達も同じ様に頭を下げると、それを渋々と承諾。
騎士達は引き下って行きました。
……それから。
私達は町の人達に見送られながら、町を離れます。
領主の死体……フリをしている。
雷の魔法に打たれたサウザントさん。
彼を担架に乗せて、森の外れまで運びます。
そして、人目が無いのを確認して。
私は彼に声を掛けました。
「サウザントさん?
生きてる? 大丈夫?」
「お、おお。ちょっと痺れたが……
お主の小賢しさも、役に立つ事があるな」
と、変身の術を解く、サウザントさん。
彼は兄弟子さんを指して、褒めました。
「僕の手柄じゃありませんよ。
今回は手抜かりだらけで、お恥ずかしい。
お師匠様も、とんだ大根役者で」
「大根言うな! ……しかし、そうじゃな。
リリーちゃんの機転が無ければ、危うかったかも知れん」
「あれは、えっと、機転とかじゃなくて。
ただ、言いたい事、みんな言ってやろうって思ったんです。
お兄ちゃん達みたいに、好きだとか嫌いとか……そういう」
私がそう言うと、みんな揃って同じ動作。
お兄ちゃんとクライオさんを振り返りました。
2人は……タジタジ。
赤い顔をして言い訳します。
「あ、アレは……演技だ、演技ッ!
リリーが大事なのはともかく。
こいつは別に友達って程でもないし!」
「そ、そ、そうだ、そうだっ!
私はコレを愛してなど居ない!」
「人を指差して、コレとか言うな!
生足露出狂女っ!」
「誰が露出狂だ、誰がッ!
この脚線美のアリガタミが、貴様には分からぬのか!?」
また口ゲンカです。
ケンカするほど仲がいい。
お兄ちゃんたちの世界にも、同じ様な言葉があるのだとか。
やっぱり2人とも、仲がいいみたい。
「しかし、まぁ……連れて行かないでー、ですか。
お嬢さんも、黒騎士のお兄さんにベタ惚れってトコですね」
「いや、まったく。
ブラックの旦那も、隅に置けませんや」
と、兄弟子さんとシャドウさん。
改めて言われると、照れ臭いです。
でも、確かに。
異性としてだとか、そういうのじゃないとは思う。
それでも……やっぱり、私は。
私はキチンと座り直すと、クライオさんに言いました。
「クライオさん」
「ん? 何だ、改まって…」
「命令です。
私のお兄ちゃんを、どこにも連れて行かないで下さい」
「え、ちょ……何?
命令とな?」
「だって、クライオさん、私に忠誠を誓ったでしょう?
天下のクライオ・ディープホワイト。
二言があってはいけません」
「ああ、いや、しかし……あれは演技で」
「命令ですっ! 連れて行かないで!
そうじゃないと私、困っちゃうんだから!」
論理も何もない、感情の垂れ流し。
私は、ただただ勢いで、言ってみました。
命令なんて言ったら、怒られるかも知れないけれど。
でも、今の私には、それが精いっぱい。
それぐらいしか、私に彼女を強制する力は無さそうで……
それに拒否されるなら、早い方がいいかなって。
最低でも、帰る方法が見つかるまで。
お兄ちゃんは私と一緒に居てくれます。
その間、私は、例えばクライオさんを言いくるめるとか。
クライオさん達を暗殺するとか(しないと思うけど)。
とにかく、何か対策を立てられます。
だから、勢いで言ってみました。
すると、クライオさん。
怒るでもなく大爆笑。
「……ふっ……あははははっ!
分かった、分かった!
私に二言は無いだろうさ」
「え、それじゃあ」
「元の世界に帰る事があっても、だ。
ブラックめは、ここに置いて行くとしよう」
「なッ、何を勝手に……!」
ビックリするお兄ちゃん。
ですがクライオさんこそ、彼を言いくるめます。
「いいじゃないか。当分の間、居てやれば。
貴様一人抜けたぐらいで、どうなる組織でもない」
「し、しかし……組織を離れるなら、離れるで。
私は、あちらの世界に、何か償うべきでは……」
「ほほう、貴様、その様な事を考えていたのか。
償うとは、組織脱退か?
いっそ反旗でも翻そうと?」
「その、何て言うか……」
「フッ、身の程知らずの馬鹿者め」
咎める様な言葉で、でも穏やかな表情で。
お兄ちゃんの肩に手を置くと、クライオさんは諭します。
「相手は人類淘汰機関。貴様1人で、どうなる。
ノコノコ出て行って殺されて。
それでは貴様が、罪の意識から楽になるだけの話だな。
そんな物を償いとは言わぬ」
「なら……どうすればいいと」
「全ての計画が終わって以降、復興でも手伝ったらどうか。
大体、その償いの為に、この少女を置いていくのか?
罪を償う為に罪を作るワケだ。
「いずれは離れる身だとしても、だ。
護身術を教えるなり、嫁に出すなり……
やっておくべき事は、色々あると思うが」
「……それは確かに、そうなんだけど」
「ほらほら、結論が出たじゃないか。
当面は、傍に居てやれ。
それでいいだろうが。んん?」
意地悪ぅい言い方でしたが、勝負あり。
クライオさんは、お兄ちゃんを言い負かしました。
頼もしいなぁ。
それに優しいし、温かいし……
クライオさんだって、ずっと居てくれたらいいのに。
……居てくれないかな?
「あ、あの。クライオさん達も、ずっと居てくれる?
それだと嬉しいなーなんて、思うんだけど」
「それは、命令で?」
「めっ、命令です!」
「ふっははは! 承知した!」
クライオさん、爆笑。
笑い上戸みたい?
獣人さん達がビックリです。
「ええっ!? マジすか、姐さん!」
「元の世界に帰るのは、諦めるので?」
「例えば、悪の組織では、死んだ事にして……
ここで新しい人生を送るのも、面白いかも知れんぞ?
「ほ、本気ですか」
「悪党と渡り合うのも、なかなかに小気味良い。
それに私も、この子が気に入った。
愛くるしい妹みたいで。
リリーにとっても、私はお姉さんみたいな物なのだろう?
……どうだ? 違うかな?」
「えっと、クライオさんは、お姉さんって言うか……
お母さんみたいな」
「なッ!? 何と!?
慕われるのは良いとして!
私はそんな、大きな子供が居る年齢ではッ!!」
「あ、ご、ごめんなさい。
失礼だった?」
「ああ、いや、慕われるのは良いのだ。良いのだが……
待てよ? リリーの母なら、リリーの兄の母であろう。
よーしよし、ブラックちゃん。
貴様も私を母上と呼んで、畏れ敬うがいい。
クックックッ……」
「ちょ、何でそうなる! 誰が誰の母だ!
母なら母で、黒い笑いをするなッ!」
怒るお兄ちゃん。
また口ゲンカ。
でも、怒ってるのに、何だか暖かい。
お兄ちゃんやクライオさん達と、お兄ちゃんが昔居た組織。
これくらいの事で、関係を断てたのかは分かりません。
でも……それでも。
“当面は”一緒です。
後は、お嫁にさえ行かなければ。
私はずっと、お兄ちゃんと一緒に……
……あれ?
私、何か、変なこと言ってる?
と、とにかく!
お兄ちゃん達と一緒です。
今はそれで、十分。
私はとても満足でした。
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