Burn Away!
第3焦 第1話
〜Burn the FateA〜
「さて、と……浮いたお金でどうする?
おいしい物でも食べるか?
高い宿に泊まってみるか?」
「ダメよ、無駄遣いしちゃ。
将来の為に、キチンと取っておかなくちゃ」
私の誘惑をアッサリと断るリリー。
彼女は実にシッカリ者だ。
これでは、どちらがお姉さんか分からん。
リリーには交渉力もある。
ある程度だが口も回る。
商才も仕入れのルート確保も、ほぼ彼女に頼り切り。
護身、戦闘能力的な事を除けば、だが。
彼女1人でやっていけそうでもある。
……が、しかし、懸念もある。
ここは中世封建的な制度を持った社会。
王侯貴族など一部の都合で、民草が苦しめられ得る国。
王侯貴族の目を盗み、悪徳領主が幅を利かせる世界だ。
力をつければ解決、とも限らない。
後から誰に利用されるやら。
リリーが戦争に使われるなど、あって欲しくない。
そもそも魔術に関して、彼女は才能に乏しい様だが。
どうあれ、対策が必要だ。
彼女が安心して、平穏に暮らせるだけの対策が。
……また何か、演技でもしようか。
世間に、彼女が戦いたくないと。
戦わせてはならないと知らしめるだけの、演技・演出。
しかし、力を見せ付けたのでは利用される。
力が無いと示した所で、搾取・抑圧しようと集って来る。
それが大衆であり、国家であろう。
連中をコントロールするのは、一個人では難しい。
いっそ王侯貴族を滅ぼして、我らで統治を管理するか?
だが、よしんば頭を挿げ替えたとして。
その下に付く者が無能では……
そして、統治者1人では何も出来ん。
それは良く知っている。
私が組織に入った理由の一端。
お飾りの統治者、暴利を貪る国家官僚。
行き届かない治世を憂いて、といった一面もある。
あんな物に、再び頼るのは気が進まない。
あの仕組みが正しいのか、私には分からん。
それに、この世界。就学率も低い。
政治を任せられる人材が、そもそも乏しいのである。
となれば、政治から解決を図るのも、難しそうだ。
まぁ、考えてばかりでも仕方が無い。
まずは今日の生活だ。
食事と寝床の用意なのだ。
私とリリーは、馬車を停めてある所へ。
待たせていたブラックと合流する。
「お兄ちゃん、ただいま!
いっぱい買ったよ!」
ブラックの姿を見つけて、嬉しそうに駆け寄るリリー。
に対して、ブラックはテンションが低い。
「ああ、お帰り……」
「聞け、ブラック! 凄いぞ!
この希少なハーブが半額以下に……」
……ふん? 言いかけて、私は止めた。
ブラックの、どこか浮かない顔。
元気が無いとか、疲れたのとは違う様な?
「何か問題が?」
「ああ、少し。さっき旅の人に聞いたんだが……
他所の世界から来たっていう人物が、騒ぎを起こしたって。
ここより南、港の町の方で……」
「他所の世界とな? 我らの仲間なのか」
「分からない。
ただ、負傷者が大勢出ている。
放置も出来ないな、って」
「ふむ……確かに気になる話ではあるが」
言いながら、私はリリーに振り返る。
戯れの様な約束だが、それでも私は彼女に忠誠を誓った。
故に、決めるのは彼女だ。
「えっと……行ってもいいよ?
港町なら、ついでがあるし」
と、リリー。
彼女はブラックが、目の届かない所に行くのを恐れている。
目の届かない所に行って、死んでしまうのを恐れている。
故に、許可だ。
まったく、不器用なものだな。
目の前で死んだからって、諦めがつくワケでも無かろうに。
まぁ、そんな少女の不器用さが、愛おしくもある。
ブラックが死なん様に、私もせいぜい見守らせて貰おう。
我々は宿を取る。
港町に向かうのは、明日の話だ。
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