Burn Away!
第3焦 第1話
〜Burn the TownB〜
「しかし……本当に浮かない顔だな。
何を悩んでいる? リリーが心配するぞ」
翌朝、宿を後にした我々。
港町を目指す馬車の上。
街道の途上、私はブラックに言った。
「ああ、すまない」
と、ブラックからは、何とも気の無い返事。
奴はずっと下を向いたまま、剣の手入れをしている。
リリーは馬車の御者を務めている。、
努めて、ブラックを気にしない様にしている。
が、それでも彼女は度々、振り返って来る。
私と視線が合い、愛想笑いをして、また前を向き直す。
一生懸命、気にしていないフリしている。
そんなやり取りが、もう20回も続いていた。
いい加減、見ても居れん。
私はブラックを問い詰める。
「一体、何を気にしている。
不安か? リリーを危険に晒すと?」
「港町に居たのが、我々の仲間だとして。
説得は、叶うだろうか」
ふん、気にしているのはそれか。
確かに、私達とは事情が違う。
ブラックは記憶を失っていた。
成り行きとは言え、人助けをした。
信用を、信じてくれる人達を得た。
私とその部下達は、“殺戮行為を少なからず後悔”して。
かつ“先人・ブラック・インフェルノと交流があり”だ。
挙句“リリーや騎士団との出来事があった”。
その末に、組織を離れる決意をしたのだ。
組織の内部には、組織の理念に肯定的な者も居た。
世界の人口を調整する、を正しい事として。
嬉々として殺戮する者も居た。
今回、港町で暴れていたという者が、そういった者ならば。
恐らくだが、戦闘は避けられない。
かつての同胞を、手に掛ける……か。
「それでも、選べるのは1つだ。
世界を守る側に立つか、滅ぼす側に立つか。
説得してダメなら……その時は」
と、私は決断を促すのだが、ブラックは論点を変える。
「私自信が組織に入った経緯を、少し思い出していた。
世間に見放され、誰も信じられなくなっていた。
孤独を抱えて彷徨っていたんだ」
「そうだな。私にも、そういう時期があった」
「そんな時、拾ってくれたのが、あの組織だった。
他に行き場なんて無かった。
初めて自分を、受け入れてくれた様な気がしたんだ」
「ああ、私も似た様なものだ。
……それが?」
「我々は、まだいい。守るべき対象もある。
共通の考えもある」
「港町に現れた、彼だか彼女だか。
それは違うと?」
「そうだ。無理に説得して、拠り所を奪って。
また孤独に放り出して……
そいつは見知らぬこの地で、生きていけるだろうか」
新たな来訪者を、過去の自分と重ねているワケか。
社会に上手く適応出来なかった。
結果、組織に取り込まれた。
それを無理に説得しては、最悪、自ら命を立つかも知れん。
まぁ、嫌な気分だ。
あるいは自分も、そうなっていたと思うと、な。
かといって、野放しも出来ない。
こちらの世界の住民が迷惑を被る。
更に、そいつがまた暴れただのと、情報が入って来る。
その度に、ブラックが思い悩む事になる。
その度に、そんなブラックを見て、リリーが思い悩む。
その度に、そんなリリーを見て、私が思い悩んで……
……ああ、もう。
面倒な話だが、とっとと直接会ってしまおう。
戦うなり話し合うなりして、さっさと解決する。
そうするしかあるまい。
私はブラックの肩を叩く。
「相手がどうあれ、殺さないという選択肢はある。
思い悩んでも仕方あるまい。
行くだけでも、行こう」
「……そうだな」
ようやく顔を上げるブラック。
港町はもう、直ぐそこだった。
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