〜Burn Away!
第3焦 第2話
〜Burn the Past@〜


「お兄ちゃんッ!!」

 不意にリリーが、ベッドから飛び起きた。
 さしずめ、悪い夢でも見たか。
 ブラックに置いて行かれたとか。

 だが、ブラックは健在。
 彼はベッドの脇、椅子の上で、寝息を立てていた。

 看護のうち、リリーの手を握ったまま。

 ここは港町の、宿屋の一室。
 負傷したリリーを担ぎ込んだ先だ。

「お兄ちゃん……う、ううッ!」

 リリーは脇腹を押さえ、ベッドの上で蹲る。
 ブラックの姿を見て安心した反動か。
 他の感覚が戻って来たのだろうな。

「……リリー? だ、大丈夫か!
 どうした、痛むのか!?」

 リリーの呻き声に、目を覚ましたブラック。
 慌てずとも、治療は済んだと聞いただろうに。

 リリーの傷は塞がっている。
 が、完全に復元した訳ではない。
 安静にしないと。

 私はリリーを落ち着かせる。

「大丈夫だ、リリー。
 誰も居なくなったりしないから」

「そうだ、私、怪我をして……」

 リリーはブラックを見つめる。
 思わず目を反らすブラック。

 自分の蒔いた種が、リリーを傷つけたのだからな。
 気まずいのも無理は無い。

 しかしリリーの視線は、ブラックを捉えて離さない。
 彼女は彼を見据えたまま、言う。

「お兄ちゃん、詳しく話して欲しいの。
 昔居た、組織の事」

「それを聞いて、どうしようって言うんだ」

「ちゃんと受け止める。お兄ちゃんの罪も。
 それでお兄ちゃんが今、何を考えてるのか、も」

「……前にも言っただろう。
 人殺しの集団だ。沢山恨まれている。
 だからもうリリーは、私の傍に居ない方がいい」

「お兄ちゃん!」

 部屋を出ようとするブラック。
 呼び止めるリリー。

 私はドアの所に足をつかえた。
 ブラックの行く手を阻む。

「どいてくれ、クライオ……頼む」

「逃げるな、ブラック。
 言いたい事だけ言って、逃げるな。
 全て話そう。言いたくない事も、知られたくない事も。
 リリーがどうするかは、リリーが決める事だろう?」

「リリーが、決める……」

 ……そうだ。それがいい。

 きちんと軽蔑されて、見放される。それでいい。

 ブラック自身、リリーに未練がある。
 分かるとも。私自身もそうだ。

 そしてリリーにも、私達に未練がある。

 しかし、下手に未練を残したとして。
 今、リリーを置き去りにしても、彼女は私達を追って来る。

 そして私達は、その彼女を拒めるのか?
 大きな未練を抱えたままで。

 数多くの命を殺めた我ら。
 身に余る幸福の日々と、決別するべくして決別するのだ。

 誰の為? 決まっている。
 この、リリーの為に。

「……分かった」

 察したか、ブラック・インフェルノ。

 彼は部屋に戻る。
 ベッド脇、リリーの傍らに座り直す。

「リリーは、何が聞きたい?
 何から、話そうか」

 ブラックは言う。
 努めて穏やかに。
 しかし、覚悟を決めて。

 拒絶の後の決別、その別れの覚悟。

 あるいは……もしリリーの決断が。
 全てを知って尚、私達を受け入れるなら。

 その時は私もブラックも、違う覚悟を決めるだろう。
 そんな事が、本当にあれば、の話だが。

 どうあれ私達は、私達の全てを話そう。


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