Burn Away!
第3焦 第2話
〜Burn the PastA〜


 何を聞きたい?と、ブラックの漠然とした問い。
 しかしリリーの返答は、思いの外、纏まっていた。

「どうして、そんな組織に入ったの?
 人殺しの組織なんでしょう?
 その組織は、どうして人を殺すの?
“コクレン”って何? こっそり組織の支援をしてるって。
 あと具体的に、どういう事をして、どういう人に恨まれて」

 と、リリーは問う。

 これは盛り沢山だな。一度には無理だ。
 ブラックも困り顔。

「では……順を追って話そう。
 まず、どうして組織に入ったか」

 と、私は考えた。
 これにはブラックも同意の様子。

「理由、か。色々あるけど……
 自分から組織に入った。それは確か、だな」

 同意。私も頷く。
 多少の誘導はあるにせよ、自発的な参加に間違いは無い。

 すると、重ねて問うリリー。

「どうして?」

 問われて、私達は顔を見合わせる。
 私とブラック、事情が全く同じと言うワケではない。

 先にブラックが話す。

「私は、まず1つ。仕事に困っていた。
 父は早くに他界。母も心労で倒れて、入院していた。
 私はその治療費とか生活費を、稼がなければならなかった。
 中学生の時から、年齢を偽ってアルバイトをした」

 でも、上手く行かなかったと聞いた。

 落ち度が無いつもりでも、簡単にクビになる。
 理由は……顧客の圧力、客と企業の在り方だ。

 行き過ぎた顧客至上主義。
 その皺寄せが、働き手の方に押し付けられていた。

 酷い客。理不尽な圧力を掛けて来る。
 簡単に負けろだとか言う。原価という物を知らんのか。
 営業時間の延長? 給料は誰が出す。お前か。
 それで終電を逃すとか、ザラだぞ?

 客にはへつらいながら、しかし数字を出せと経営者。
 努力を従業員に丸投げするマネージャー。
 黙っていれば説明しろ、口を開けば言い訳するな、だ。 

 誰に助けを求めても、今は忙しい忙しい、と。
 売り上げさえ出れば、従業員など幾ら潰れてもいいのか。
 残業代なんて、ビタ一文出しやしない。

 増長した、ルールを守らない客。
 客に、お金にへつらう上司達。
 その皺寄せが皆、下の者に押し付けられていた。
 私達の世界は、そんな世界だった。

 おまけに就職難。
 失業率は世界平均にさえ、10%を超えていた。

 そんな中、良い仕事に就くには……
 いや、どんな仕事でも資格が要る。
 資格を取るには、どうしても金が要る。
 でも、そんな余分なお金は、無い。
 彼は高校だって行けていない。

 と、ここまでで、リリーから質問が上がる。

 就職。入院。法律の話。
 分からない言葉の説明だな。
 私が説明する。

 それは、まあ、省こう。

「でも、お兄ちゃん、頭はいいよね?
 組織で教わったの?」

「それもあるけど……独学で。
 あと、バイトの先輩が教えてくれた。
 その人もタチの悪い客に虐められて。
 最後は首吊って死んだけど」

「そう……そんなに酷いんだ。
 私も、酷いお客さんに会う事はあるけど」

 と、リリーとブラック。揃って暗い顔。
 同じ様な顔をする2人は、いかにも兄妹。
 まるで本当の兄妹みたいに見えるのだが。

 しかし、感傷に浸っていても話が進まぬな。
 私が説明を継ごう。

「格差社会と言って、な。
 一握りの金持ちと大多数の貧しい人々、という構図だ。
 金持ちどもは、貧困層に対して横暴に振舞う。
 金を持っているから偉いんだ、と」

 と説明を始めたのだが。
 果たして、偉い……のだろうか。

 馬鹿馬鹿しい。何が金持ちだ。
 定価以下でしか買わんくせに。

 ああ、忌々しい!
 土地を転がして、株を転がして?
 人材派遣で人を転がして!
 そんな楽してる奴にばかり金が集まって!

 日々、心を痛めて働いている労働者達。
 彼らには、ロクな報奨も無い。
 なんと不健全な社会。貧富の差。国家の怠慢。

 っと、ああ、いかんいかん。
 話していて、私までイライラしてきた。
 世間は皆、イライラの塊だ。
 しかし、当てられても、イライラが増えるだけだ」

 まぁ実際、誰も彼も、イライラの塊だったな。
 不満をぶつけられて、それをまた、誰かにぶつける。
 弱者同士で潰し合おうとする、蒙昧で愚鈍で惰弱な奴ら。

 何故、強者にこそ牙を剥かぬ!
 だから奴らこそ、最低最悪の弱者だと言うのだ!
 品格を持ったれば、止める事も叶わず、踏み躙られ。

「うがああー!! 許さん!
 許さんぞ、クソ豚ども!!
 私の学生生活を、青春を返せぇーッ!!」

 っと、一度は冷静になったつもりだった私。
 結局また、暴走してしまった。

 見るとリリー、酷く面食らった顔。
 恐る恐る、私に聞いて来る。

「だ、大丈夫? クライオさん……」

「ああ、すまん。
 ビックリした?」

「ちょっとだけ。
 でも、お金持ちの人は、そのお金をどうするの?
 そんなにお金があるなら、使うんじゃないの?
 困ってるみんなに、ご飯とか食べさせたらいいのに」

 と、リリーの発言に、私とブラックは呆然。

 助け合いの精神。社会奉仕というか、そういう発想。
 それを実行する気概。

 それが、もう少しでもあったなら。
 私達の世界も、もう少しマシに……

 私とブラックが固まってしまう。
 リリーは、おずおずと聞く。

「……ごめん。私、何か、変な事、言ったね」

「いや、そんな事は無いよ。
 素晴らしいアイディアだと思う」

「うむ、そうだとも。リリーは凄い。
 リリーが王様になったらいいのに」

「え、そんな……向いてないよ。
 それより、クライオさんも、お金に困ってたの?」

「いや、私は……確かに仕事には困っていたが、な。
 大学に行く資金だとか、多少は余裕がある家庭だった」

「お金はあって……でも仕事に困ってたの?
 お金があって頑張れば、シカク?とか?
 クライオさんだって、頑張り屋さんだし。
 頭も良さそうなのに……どうして?」

 リリーの問いに、私は言葉に詰まる。

 ううむ、言い難い。言い難いが……
 ブラックに話させた手前。
 私もまた、言わねばならぬのか。

 ならば言おう。
 えぇい、言うぞッ!

「私は……実は、人が苦手で。
 何と言うか、内気な性格で、な?
 極度の上がり症、だったんだ」


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