Burn Away!
第3焦 第2話
〜Burn the PastD〜
「順を追って話そう。
紙に話を纏めるぞ」
と、私は筆と紙を取り出す。
話しながら、その内容を書き出していく。
その脇に、リリーが自分の言葉で書く。
私達の世界とここでは、文字が違うのでな。
私の言葉を聞いて、自分の言葉に直していく。
で、内容だが……
まず、我々の組織。
食糧問題を解決する為、人口抑制を目的とした殺戮組織。
全人類を相手にするのだ。
大勢の人手が要る。
幾ら強化手術を施しても、1人で出来る事には限度がある。
そして、あまり厳選する余裕は無い。
人々が飢え、刻一刻と死んで行っているのだから。
組織は基準を要約して、広く勧誘を行った。
思想は洗脳すれば良いだろうと言って、な。
とにかく人を殺す事に、抵抗が少ない人間を集めた。
「その中にはブラックの様に。
社会の窮状を打破すべく、立ち上がった奴も居れば……」
と、私が言いかけた所で、ブラックが口を挟む。
「クライオ、私は半分半分だ。
社会云々もあったかも知れないが……
自分を否定する奴らを殺した。
それで全く満たされなかったワケじゃない」
それを言ってしまうと……私は7割、いや、8割方?
悪党の部類になってしまいそうだが。
「まぁ、その、半々な奴も居れば、完全に悪党な奴も居た。
とにかく純粋に殺すのが大好きー!という連中だ。
同じ殺す集団の中に、まず世界を活かすために人を殺す者。
それと、ただ喜んで人を殺す輩が混在していた」
「……それ、仲良くできるの?」
と、リリーは首を傾げる。
その仕草があまり可愛いので、私は少し笑ってしまった。
真面目に話せと、リリーは膨れる。
まぁ、実際の所。
すぐに笑っていられる様な話題でも、なくなるのだが。
「同じ殺す仕事に変わりは無い。
が、確かに衝突もあった。
組織の目的は、人類滅亡ではなくて、だ」
故に、最低限度の人口は、生き残らせなければならない。
資産や食料が限られているとは言え。
幼い子供にまで手をかけるなど……
しかし、その殺し大好き連中は、見境無く殺し始めた。
そして組織運営陣は、それを支持した。
そういう作戦が採用される。
まずは、とにかく皆殺しにしよう、と。
実際、どんどん人が飢えていく状況だったからな。
さっさと殺さねばならない。
連中の方こそ正解だったとも言える。
だが、それで狂ってしまった者も、少なくなかった。
世界の飢える子供達を救う為にと、組織に入った女。
彼女は突然、高らかに笑い出した。
子供の頭を踏み砕いて爆笑し始めた。
妻と2人の子供達……
家族を養う為に、組織に入った男。
彼は親子連れを見つけると、狂喜乱舞。
決まって惨い殺し方をする様になった。
逃げられない様に、まず子供の足を潰す。
助けに戻る親の手足を潰す。
親の見ている前で子供を潰す。
子供を殺す作戦を繰り返す中で。
子供が大好きだった連中が。
子供を殺すのが大好きな連中になってしまった。
組織の理念……少なくとも現場からは。
一番初めの作戦から、僅か3日で霞んで消えた。
「我々、実行部隊に残ったのは、狂った人殺し。
そして、元々狂っていた人殺しだけだ」
「お兄ちゃんもクライオさんも、狂ってなんか……」
「狂ってるさ。君を助ける為にさえ、300人殺した。
逃げ回ってもいいだろうに、正面から突っ込んだんだ。
どこか頭のネジが、飛んでしまっているんだと思う」
と、ブラック。
「じゃあ……そいつらが居なければ。
最初に見境無く殺した人達が」
「それは違うぞ、リリー。
連中が居なくとも、いずれ組織は子供達を殺させた。
赤の他人は抵抗無く殺せると思っていた。
そんな我々自身も甘かった」
「人殺しの組織に入った。
きっと、その時点で、大きな間違いだったのさ」
「誰が悪いの? どうして、そんな風に。
可哀想。お兄ちゃんも、クライオさんも。
酷い事をさせられて、心が深く傷ついて……」
ぼろぼろと泣き出すリリー。
別に自分の話をしたつもりは、無いのだが……
まぁ、似た様な物か。
「大丈夫だ、リリー。
今はもう大丈夫だから」
ブラックがリリーを抱き寄せる。
背中をさすって落ち着かせる。
私もリリーの頭を撫でる。
「そうとも。泣くのはお止め、可愛いリリー。
確かに昔傷ついたが、今はリリーが居てくれる。
君が笑ったり喜んだりしていると、私達も癒されるのだ」
「うん……ごめんね」
何がゴメンな物か。
私が口下手であるが故に、リリーを泣かせてしまった。
もっとソフトに言い換えて居れば……
いや、そもそもは。
リリーと別れる事に、説得力を持たせる為の問答だ。
だが……ううむ……
あまり悲しませるのも、不本意であるな。
贖罪だ何だと言った所で、私から未練は消えない。らしい。
これではリリーの為にならん。
……いや?
真実を語って向き合せろという彼女。
嘘を吐いたりしたのでは、かえって為にならんか?
「リリー、どうする。
今日はもう止めるか?」
「……まだ、聞く」
強情だなぁ……
まぁ、いい。彼女も覚悟の上だ。
聞きたいというのなら、話そう。
「さて、殺戮を進めるにつれて。
おかしくなったのは、我々だけじゃない」
進む殺戮作業。減少する人類。
食糧問題が解決に向かうに連れて。
組織の運営側にも、意識の変化が現れる。
それまで無作為に殺させていた組織運営部。
それが例えば、より良い民族を残そう、とかな。
本当に優れているかは疑問だが。
あとは、金持ちは出資を条件に見逃してやろう、とか。
我々は、そんな理由で人を殺して来たのではない。
人命に貴賎は無い。あってたまるか。
実行部隊は反発した。
生かしたい者は、より生かす為に。
殺したい者は、より殺す為に。
しかし、資金が無くては成り立たぬ。
今更、社会に戻れる身でもない。
ならば、どうするか。
我々は服従を装いつつ。
しばしば意図的に、作戦を失敗する様になった。
やがて組織に反感を持った科学者達を、脱走させた。
思惑通りに対抗組織が作られた。
先の、なんたらブルーの様の同類。
我々と同じく強化された人間。
それが我々の殺戮を阻んで回る。
……まぁ、資本のバックアップ等。
こちらが優勢な事に、そう変わりは無かったが。
ともあれ、適当な職務態度。
あと10億殺すという話だが、今や状況は緩慢だ。
窮状打破を目的に殺してきた者にとって。
これはこれで、苦痛である。
民は未だに、飢えて苦しんでいる。
かといって、残り10億。
殺した後の問題も残る。
社会は我々を許さないだろう。
理由が何であれ、大量殺戮者の戻る場所など無い。
恐らくだが、組織の上の人間。
用が済んだ我々構成員を、始末するのではなかろうか。
そうなった時、我々はどうするのか。
どうすべきなのか。
罪を受け入れるにしても。
運営側の尻尾切りにされたくない。
死ぬならば、諸共だ。
しかし、一般人に我々を裁くのは難しかろう。
国家はどこも、組織と裏で繋がっている。
……では、どうしたものか。
抵抗するのか。
あるいは逃げるのか。
逃げるなら、どこへ行くのか。
「幹部クラスにせよ、下層の戦闘員にせよ。
結論を出している者は少ない。
どうするのが、最善なのだろうな……」
「じゃあ……ここに居てよ。
ずっと、ここに居て。
私とずっと、一緒に……」
と、リリー。
って、あれ?
やっぱりそうなっちゃう?
慕われているのは嬉しい。
ここで穏やかに暮らしたいのも山々だ。
しかし罪の意識は、我々の中に存在する。
それから逃れると言った所で。
なんたらブルーは納得せんだろうし……
「どうするね、ブラック」
「それはこっちも聞きたいが……リリーは離れたくない、か。
私も出来るならば、当面は一緒に居たい。
それには、まずはブルーと話をつけないと。
また街を壊したり、リリーが巻き添えになったんじゃ困る」
なるほど。
しかし、どう言ったら、ブルーを説得出来るやら。
奴もブラックを庇うリリーを見て、動揺していた。
狙いだって外そうとした。
リリーを傷付けるのは、本意ではあるまい。
が、奴はブラックを憎んでいる。
家族の敵を。
顔を突き合わせば戦いになる。
ブラックが危なくなるとリリーが庇う。
どうするんだ、これ。
元の世界に戻るまで、とか言って、休戦すれば良いのか?
となると、元の世界の戻る方法。
いよいよ必要になるのかも知れない。
ブルーを向こうへ突っ返すにせよ。
我々が過去を清算するにせよ、だ。
まぁ、夜も遅い。
具体的な事を考えるのは、明日になってからにしようか。
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