Burn Away!
第3焦 第2話
〜Burn the PastE〜
既に夜半過ぎ。
広い宿も、もう、起きている者は我々だけだ。
床に就いた。
しかし、それから暫く後。
妙な騒がしさと殺気立った空気に、私は跳ね起きた。
窓の外は、まだ日も明けていない。
開けていないのだが。
何かで町が赤く染まって……
聞こえるのは、家屋が燃え落ちる音。
火災……ではないな。
熱と明りに加えて、金属が打ち合う音。
肉が切れる音。
「ぎゃああああっ!!」
誰かの断末魔?
尋常ではない。
私は身を隠しつつ、窓の下を見る。
……と、戦闘服?
自警団と思しき甲冑姿。
その斬り結ぶ相手は、我々の組織の下層戦闘員に見えた。
どうなっている。
こちらへ飛ばされて来たのは、ブルーだけではないのか?
そういえば……と、私はブルーの話を思い出す。
奴め、仲間を助ける為に。
時空を越える技だかに巻き込まれた、とか言っていた。
巻き込まれた。仲間を守る為に、敵ごとか?
つまり、その敵が一緒に飛ばされて?
無くは無い話だが……
思案している場合では無いな。
戦闘員側の規模は不明だが、どうやら自警団が劣勢。
火が宿に回るかも知れん。
リリーを連れて、一先ず非難すべきだろう。
私は寝床を振り返り……
はて、ブラックはどこへ行った?
部屋に居たのはリリーだけだ。
大方、自警団の連中に、借り出されたのだろうが……
あの、お人好しめ。
そう考えて、ふと思う。
ブラックも重ね重ね、丸くなった物だ。
組織に入るまで、そして入ってから。
自我の塊だった私達。
誰に何を言われようと、信念を曲げる気は無かった。
その様に見えたし、そう振舞っていた。
だが……人は、変われる物なのか。
誰かの為になら。
簡単に、やり直しなどと、口に出来た身ではない。
が、それでも、悪い兆候では無いと思いたい。
償おうと思う事も、誰かに優しくする事も……
と、誰かがドアを叩く音。
ブラックが戻って来たか?
私は出ようとして、ドアノブに手を伸ばし。
途端、ドアを貫いて、血塗れの剣が突き出て来た。
咄嗟に引き下がり、身構える。氷で剣を作る私。
すぐに蹴倒されるドア。
「何やってる!!
避難勧告が出て……!?」
そこには、ドアに串刺しにされた戦闘員。
そしてブルーの姿があった。
「お前、クライオ=ディープホワイト!?
何で普通に、宿なんか泊まっ……」
向こうも、私が居たのが意外だったらしい。
が、直ぐに目を反らす。
寝起きで着崩れた私の寝巻き姿。
ちょっとドキドキしたのか?
ふふん。純情青少年め。
まぁ、ここであったが何とやら。
私は挨拶代わりに2本ばかり、氷のナイフを放ってやる。
ナイフはブルーの両肩を掠めた。
後方より迫っていた戦闘員2人の、喉の辺りを貫通。
揃って絶命させた。
「議論は後だ。状況は切迫している。
私は、この少女を避難させたい」
「お前と、協力なんて……」
「手を貸せなんて言ってない。
邪魔さえしなければ」
と、後方より殺気。窓からか。
私は氷の長剣を作り、逆手で脇の下へ回す。
剣はナイフを振りかぶった戦闘員の、腹の辺りを貫いた。
「どの道、お前1人。
私とこいつら、同時に相手するのは一苦労だろう。
ブラックとの決闘なら、いずれ、お膳立てしてやる。
だから……今は見逃せ」
「……分かった。
敵は南西、丘の方から来てる。
東の通りは手薄のハズだ」
「ふむ、貴重な情報、感謝する。
情報料が必要か?
もっと見たいかぁ? ほれほれ」
と、私は冗談半分。
乱れた服を更に引っ張って、セクシーポーズをやってみた。
ブルーは、そっぽを向いて、耳まで赤くなった。
「ば、バカやってんじゃないッ!
どこ行っても相変らずなんだな、お前」
相変らず、か。
それはお互い様だ。
奴の仲間、なんたらレッドやイエローと比べても。
ブルーは特に純情だ。からかい易い。
っと、いかん。
ふざけている場合ではない。
更に敵増援。
戦闘員が階下から上って来た。
対するブルーは丸腰か。
剣はドアごと、戦闘員に刺さったままだ。
私は氷で剣を作り、奴にくれてやる。
こっちが本当の情報料。
ブルーは剣を手に取り……
冷たいせいか、少し嫌そうな顔をした。
が、直ぐにそれで、敵の増援と斬り結ぶ。
「……死ぬんじゃないぞ、青いの」
「よく言う。
俺が死んだ方が、好都合なんじゃないのか?」
それを言われると、そんな気がしないでも無いが。
しかし、道を教えられた借り。
その分ぐらいは、恩義に感じてやらんでもない。
私は、一応ブルーの無事も祈りつつ。
まだ眠気眼なリリーの手を引き、宿の裏口から抜け出した。
「……お兄ちゃんは?」
宿の外、月明かりと、方々の火災による嫌な熱気。
町の異変に気付き、リリーが不安げに問う。
ブラックの安否、確かに私も気になるが……
一応、宿には書置きを残した。
まずはリリーの安全確保だ。
守るべき者が枷にならねば、ブラック=インフェルノ。
戦闘員如きに殺られるものか。
「大丈夫だ。問題無い。
後から来る」
そう、今は、後で合流出来ると信じよう。
私とリリーは、町の東へ向かって走り出し……
しまった。逆か。
行く手から、大勢の気配。
町の自警団ではなく、殺気立った戦闘員の方だ。
私とリリーは物陰へ。
停めてあった荷台の陰に隠れて、連中をやり過ごす。
「こんな町1つ、何を手こずっている」
忌々しげに聞こえた声。
戦闘員を率いて歩く、統率者らしき声だ。
「仕方ない。
この世界の人間、ちょっと面倒」
「フン、確かにな。
身体強靭。加えて、超能力もある」
「それがどうした。所詮は雑兵だ。
人も町も、俺の炎で焼き尽くしてやる」
私はその顔を、チラと垣間見た。
あれは……先頭にブレイズ・ヴァーミリオン。
小柄なのはペイル・フローズン。
長身はグレイ・サンダークラウド。
いずれも組織側の人間。
それも幹部クラスだ。
しかし、幹部クラスが3人。
普段、我々の組織では、幹部はそれぞれ独立して動く。
作戦も、それぞれが立案、実行。
口は出しても手を貸すなどと……
情勢に変化があった?
私がこちらへ来る前と比べて。
後でブルーにも、向こう側の情勢を聞いておくか。
まぁ、生きて居れば。
戦闘員と幹部連中が通り過ぎ、私達は道に出る。
奴らとは違う通りを選んで、逃避行。
元来た方向、更にその向こうを目指す。
その途中、リリーが聞いた。
「知ってる人、だった?
黒い服の人達とか、その前に居た、偉そうな人達」
「どうして、そう思う?」
「お兄ちゃんの鎧だとか、クライオさんの服。
ちょっと似てるな、って」
大した洞察力、観察眼だ、リリー。
あの合成繊維の色合い。
鋼鉄の剣を弾くチタニウム装甲。
それらは確かに、私達の世界の産物。
こちらの世界には無い代物だ。
なるほど行商などしていれば、観察眼も育つか?
「あー、まぁ……そうだ。
連中は、組織の」
「説得できないのかな。
クライオさんや、ネコさん達みたいに」
「言っただろう。今居た、あいつらこそ。
殺すの大好きー!な連中だ」
「……強いんだ、よね?」
「そりゃあ、強いな。
幹部の連中は、一際、力を付加されている。
それに、連中は“後期型”だ」
「コーキガタ?
クライオさんとは違うの?」
「基本的には違わない。
が、私達、初期型の超能力者と比べ、力が一回り強い。
超能力者を生み出す技術は、弛まず進歩を続けた。
つまり後から作られた者ほど、能力が強く……」
と、言っていて、マズったと思った。
不安になったリリー。
ブラックの身を案じ、その足を止める。
「だ、大丈夫だから!
超能力はともかく、身体能力は、大して変わらない!
逃げれば逃げれるものだからっ!」
「でも、お兄ちゃん……」
「て、敵の規模は甚大だ。諦めるだろう。
町よりリリーが心配のハズだ。
今頃は宿に戻って、書き置きを見て、さ。
脱出に向かって居るだろうさ」
……とは言うものの。
罪悪感に苛まれるブラックの事だ。
リリーさえ無事と分かれば、無茶をしないとも限らない。
が、どちらにせよ。
リリーの無事は、私が確保しなければ。
私達2人、後ろ髪を引かれる思いで、町を脱出する。
ほどなくして、フォルツェの町、陥落。
日が昇る頃、私とリリーは丘の上。
そこには一本だけ、大樹がポツンと生えていた。
ここがブラックとの、合流予定地点だった。
私達はブラックを待つ。
夜明けを過ぎ、日が昇って……
また沈んで行く。
……誰も来ない。
ブラックも、ブルーも。
まさか場所が分からんのか?
ブラックが戻るより先に、書き置きが燃えてしまったか。
それで、リリーを探して無茶を?
幹部3人を相手にすれば、幾ら、奴だとて……
ああ、ダメだ。
悪い考えばかりが浮かぶ。
リリーの負傷に続き、ブラックの行方不明。
こうも立て続けに、この私が、不安に駆られるとは。
「……行こう」
再び星が見え始めた頃、リリーがポツンと言った。
「行くって、どこへ」
「新しい領主様とか、サウザントさん達に知らせないと。
町を取り戻して、お兄ちゃんを助けるんだ」
こりゃ参った。
リリーの方が、私よりも現実的だとは。
そうだ、今は、信じるしか出来ない。
ブラック・インフェルノ……
いや、もはや町を襲った奴らとは別。
しがらみを断ち、黒騎士フェルノと呼ぶべきだろうか。
いずれにせよ……どうか、無事でいてくれ。
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