Burn Away!
第3焦 第3話
〜Burn the Chain@〜
「えぇい、話にならぬ!」
領主の城、中庭。
声を荒げたのはサウザント老。
彼らと合流した私とリリー。
我々は領主に対し、フォルツェ奪還の要請をした。
その結果、フォルツェ奪還の作戦会議……
その準備段階にすら、至る事も出来なかった。
一先ず領主の城を出て行く所である。
領主軍は現在、兵を動かせる状態ではないらしい。
二度に渡る領主交代と、それに纏わる数々のゴタゴタ。
その戦力は疲弊している。
ナンタラ騎士団の残りが主力。
後は、敗残兵に毛が生えた程度の物だ。
また国軍の援軍は見込めない様子。
国王や国家首脳陣は、領主による二度の要請を蹴った。
この地方、やたらゴタゴタが続くものだ。
手を加えるのも嫌になってきたか?
まぁ、公平な治世なのかも知れん。
単一地方にのみ、資金や人員を裂く訳には行かない。
他の地方がオザナリになる。
だが、事の軽重を見誤っている感も否めない。
ブレイズら、後期型能力者の襲撃。
その被害は今でこそ、町1つで済んでいる。
しかし放置も過ぎれば、国を丸ごと取られるかも知れん。
老魔法使いは懸念する。
「黒騎士殿と同等以上の者が、3人も居るのだぞ?
しかも過激な連中と聞く。
早期に叩いておかねば、後に響くであろうに」
「まぁまぁ。領主に怒っても仕方ないですよ。
過激な強敵だからこそ、迂闊に手を出せない、
という事もあるでしょう」
と、宥めるのはカウリーという弟子。
バートラム=カウリー。
名を聞いたのこそ最近だが、見知った顔だ。
先の騎士団の事件では共闘した、あの若い魔法使い。
そのカウリー曰く。
「新領主ソーンダース。若くて経験も浅い人物です。
特に戦上手だとも聞きません。
少ない兵力を活かすなんて、無理じゃないですかね?」
「兵が足りぬのは分かるが。
民を守らんとする姿勢ぐらいは、示して貰いたい物じゃ」
「国軍を派遣する側、元老院とかに怠慢があるとすれば。
彼もまた被害者なのかも」
「というと?」
「誰か、もっと偉い人の、トカゲの尻尾ですよ。
現実問題として、対応出来ずにいる国軍の不備。
民の不満や責任を、領主1人に押し付けて……とか」
カウリーの分析に寄ると、戦力不足。
経験浅い領主が出兵した所で、余計な被害を出すだけだ。
それは領主も自覚がある様子。
動くとすれば、兵力を整えてから、か。
だが、民は安定した暮らしを求めている。
徴兵もままならない。
大層な時間が掛かるだろうな。
とは言え、さっさと兵を出して貰わねば。
ブラックが、黒騎士フェルノが危機に瀕しているのだ。
私は、並んで歩いていたリリーを見る。
と、案の定、膨れっ面だった。
「そんな顔をなさらずに。
お兄さんは、きっと無事です」
リリーの顔を見かねて、軽鎧を着た女が言う。
アデリーヌ=リヴェット。
リヴェットは騎士だ。
こちらも顔見知り。
以前、さらわれたリリーを監視していた。
リリーとブラックを見ていて、感じ入る所があったらしい。
何か、ちょっと前に言っていてな。
“悪しき権威を打ち破る絆の力。
神が地上に与えたもうた、人の心の光を見た”
宗教家? 聖騎士とやらか?
神に仕えるナンタラカンタラ?
その辺りはよく分からないが……
今はサウザント老と行動を共にしている。
友軍に違いはない。
「民の生活を脅かしている、非道の殺戮集団。
そんな者達を、いつまでも放置しておく筈がありません。
領主殿による再三の要請。
国王陛下はきっと、援軍を送ってくださいます」
「だといいんですがねぇ……」
どこか気楽なリヴェットの言に、カウリーは肩をすくめた。
「カウリー殿。
リリーさんが心配する様な事を、言わないで下さい」
「そう怒らないで下さいよぉ。
そりゃあ僕だって、黒騎士殿には恩があります。
可愛い妹弟子に、心配掛けたくありません」
「だったら!」
「でも、だからこそ。早く助けに行きたいでしょう?
黒騎士殿が負傷していたら、救助が手遅れになっても困る。
領主殿の手勢は、当てにならないのが現状です。
黒騎士殿の救出だけでも、僕らだけで何とかするしか……」
と、カウリーは、やはりどこか楽しそうに言う。
腕試しでもしたいのだろうか。
あるいは手柄を立てたいか。
かなりの自信家らしいからな。
そのカウリーの心情はさておき。
確かに対応を急ぐなら、最初から領主軍を当てにしない、
そういう考え方も、無くは無い。
そう、ブラックの救出のみならず。
奴らの討伐に至るまで、だ。
だが、戦力が足りないのは事実。
領主軍とは別に集めるにしても、時間は掛かる。
また、少ない手勢で有利に戦うには、下準備が必要だ。
町の地形、敵の戦力配置など、仔細な情報を入手せねば。
……誰かが斥候をするべきか。
「サウザント老。
少しの間、リリーを頼めるか?」
「構わぬが、どうした?」
「少し、町の様子を見て来る」
「町って、フォルツェの!?
1人じゃ危ないよ!」
と、私を制止するリリー。
心配してくれるのは有り難いが、
「私1人だからこそ、安全なのだと思うぞ?
連中もまだ、私の裏切りを知る由も無い。
時間はある……いや、既に無いのかも知れないが。
こちらの体勢にしても、すぐには整うまい。
私が内部に潜入し、町の状況とブラックの安否を探る」
「承知した。
リリーちゃんの身柄は、わしらが責任持って預かろう。
貴殿が戻る頃には、こちらも戦力を整えておこうぞ」
「では、その様に。それから、合流視点だが……
シルヴァの町で良いか? 少し遠くなるが」
「なるほど。フォルツェの近隣では、危険もあろう。
気付かれるやも知れぬし……」
「連中が早くに動き出した場合、だな。
体制が整う前に、陥落させられてしまうかも知れぬ」
と、方針が決まった所で、各々、支度をする。
フォルツェの町までは、領主の城から徒歩で4日。
シルヴァの町は、馬車で3日掛かる。
車が無い世界……
私も慣れては来たが、不便ではあるな。
道中の食料など、必要な物資。
その辺は城の者が提供してくれた。
どうやら新領主。
救援要請に応えられぬのが、多少は後ろめたいらしい。
少々無力だが、悪い領主ではない、か。
「気をつけてね。
勿論、お兄ちゃんも心配だけど。
クライオさんの事だって心配だよ?」
リリーにそう言って貰えるだけで、力が湧く。
彼女の為ならば、命も張れるという物だ。
しかし死んでしまっては、ブラックを探すどころではない。
交戦等は極力自重せねばならぬ。
ともあれ。私は単身、フォルツェの町へ向かう。
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