Burn Away!
第3焦 第3話
〜Burn the ChainB〜


 屋敷を出た私は、ペイル・フローズンを探す。

 ついでに町の状況を見たが……
 とても見られた物ではなかった。

 通りという通りが、死体で溢れかえっていた。
 町は一面、赤と黒だ。

 ブレイズの放った炎で、既に燃えカスになった死体。
 まだ燃えている物もある。

 相手が女子供や老人、身体の不自由な者だろうと。
 そこに一切の手加減は見られない。

 加えて、享楽的に殺した様が、死体からも見て取れる。

 逃げる者は足を潰されて這い回り。
 守る者は守るべき対象を奪われ。
 挑む者は武器を、心を折られ。

 死体が語っている、この不必要な苦痛。
 この無残な光景こそが、彼ら殺戮者の所業である。

 殺戮に“興じろ”という歪んだ情操教育。

 私も組織の中で、無慈悲で知られた方なのだが。
 同じ人間を、こうも痛めつけて殺したものではない。
 いや、そもそも殺したものではないだろうが。

 ともあれ私は、ペイルを探す。

 半時ほど歩き回って、特に大きな通りの1つ。
 海に向いた下り坂の途中に、彼女は居た。

 ペイル・フローズン。氷結使い。
 女……というか、女の子だ。
 10代前半。まだ小学生程度。
 彼女は組織の中で生まれ、そのまま育てられた。

 片親がロシア人だとか。肌は白く、髪は銀髪。
 その全身の白っぽさがまた、氷使いだと強く印象付ける。

 そのペイルだが。
 道の傍らに屈み込んで、何かを見ていた。

 私は彼女に近づいて……

 と、ペイルは反射的に振り返り、能力で氷の槍を形成。
 それを手に身構えた。

「……何」
「あ、ああ、いや」

 ペイルの剣呑な顔に少し怯みつつ。
 私は彼女の足元に目をやる。

 と、猫? いや、犬か?
 よく分からん。
 この世界特有の生き物だろうか。

 とにかく、動物だ。
 動物の死体。
 先の戦闘の巻き添えか。

 私の視線に気がついて、ペイルが説明する。

「綺麗に殺せなかった。
 苦しめてしまった」

 だから気になっていた、といった所か。

「人間は苦しめてこそ、殺しているのだろうに」

「動物は好き。
 私を虐めないから」

 ペイルは両親が能力者。
 先天的に能力を持って生まれた存在だった。

 これがとても珍しい部類で、な。
 組織では実験動物扱いだった。
 実験や訓練と称して、手荒な扱いをされたと聞く。

 故に、人間全般を嫌う思考。
 それ自体は理解出来なくも無い。が、

「虐められたくないからと、先に虐めるのは本末転倒だ。
 虐められたら、仕返しに虐めてやろうという輩も出る」

「何が来ても、殺すだけ」

「お前は退けようと思えば、退けられるかも知れんが。
 友好的な関係を築いていく、という場合。
 ならばその中に、先手必勝などはあり得ない」

「でも、クライオは、私を虐める」

「心外な。幼女をいたぶる趣味は無い。
 そんな覚えも無いぞ?」

「でも、反対する。
 私のやり方」

「単に、やり方が気に入らんのである。
 お前個人を嫌っているワケではない」

「そういう、もの?
 誰も教えてくれなかった。
 私は……ひとりぼっち」

「ブレイズやグレイはどうした。
 あんなのでも、一応、仲間なのだろう?」

 と、私が聞くと、ペイルは首を横に振った。

「今まで、言葉が通じてなかった。
 彼らは英語。私はロシア語。
 私の殺し方を見て、貴女達が怒って、彼らは喜んだ。
 怒られない方に、ただ、ついていただけ。
 親しいのと違う」

「私もロシア語が流暢でなくてな。
 いつ覚えたんだ、日本語」

「日本語? 覚えてない。
 私はロシア語を喋ってる」

 はて、どういう事だ?

 ああ、そういえば。
 ブレイズ達も日本語を喋っていた。

 ……様に聞こえていた?

 この世界に働く力か何か。
 言語を統一させている、とか?
 よく分からん。

 分からんが、意思の疎通には便利であるか。
 深く考えるのは止そう。
 魔法的な事情など、考えたって分からんのであるし。

 と、思考する私を、ペイルは遮って言う。

「この間になって初めて、彼らの話が理解出来た。
 彼らと友達には、とても成れそうにない」

「では、ペイル。
 奴らと袂を分かち、私の側へ来られないか?」

「今更。私のした事は消えない。
 誰も私を許さない」

「それは私も変わらんが……
 それでも何か、償おうという気持ちはある」

「償う……償える?」

「分からん。
 しかし、罪から逃れて死のうというのは“逃げ”だ。
 天下のクライオ・ディープホワイト。
 逃げの思考など、一切、持ち合わせておらん」

「ボロ雑巾になって死ぬ?
 前向きな自己犠牲?」

「確かに、そういう表現にも成り得るだろうな……
 前途を考えると、怖いと思う事もある。

「……止めれば」

「訳も分からず振り回され、ようやく覚めた目だ。
 今更、閉ざしても居られない」

「償う……私も、考えてみる。
 ただ、ブレイズを怒らせると、ちょっと怖い。
 彼は裏切り者を許さない」

「ああ、確かにアレは怖いな。
 懐柔は難しいか。
 まぁ、この場は引き下がろう」

 私が肩をすくめると、ペイルは少しだけ笑った。

「話せて、良かった。
 ありがとう」

 私を見送りながら、ペイルは小さく手を振った。

 良かった、か。
 私はむしろ、戦い難くなった感が強い。

 この後、領主軍と結託して、彼女らを追い立てる。
 そういう事になるワケであるからして。

 果たして私は、あの少女に剣を向けられるのか?
 胸が痛むような気が、しないでも無い様な……

 いや、説得の余地が見えたと、喜ぶべきなのだろうか。
 先にブレイズを倒して……とか。

 しかし、仮に改心したと言い張った所で。
 これだけの殺戮に関与したのだ。

 故に、ブレイズらと別れた所で。
 こちらの世界から受け入れられるのも、難しい話だろうが。

 っと、忘れちゃいかん。

「ペイル! ブラックを見てないか?
 ブラック・インフェルノ」

「見てない」

 ペイルは首を横に振る。
 結局あの男は、どこへ行ったのだ?

 別の事情に巻き込まれた?
 それはそれで心配だが……

 ともあれ、一度リリー達と合流しようか。


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