Burn Away!
第3焦 第3話
〜Burn the ChainC〜


 私はフォルツェの町を後にして、合流地点シルヴァの町へ。
 徒歩で2日の道のりだ。

 シルヴァの町は奴らの襲来に備え、防備を固めていた。
 しかし、その見張り役に見覚えがあった。

「久しいな、シャドウにベノム」
「姐さん、ご無事で!」

 かつて私の配下だった、獣人……という表現で良いか。
 黒豹のシャドウリッパーと、毒蛇のベノムハンター。

 どこぞの町、自警団で働いて居ると聞いていた。
 魔法使いサウザントの招集に応じたか。

 そのまま彼らに案内され、集合場所の宿へ。
 私が中に入るなり、リリーが駆け寄って来た。

「お兄ちゃんは!?」
「すまないが、見つけられなかっ……!!」

 私が言い終わらない内に、外へ走り出そうとするリリー。
 私は彼女の腕を掴んで止める。

「どこへ行く気だ!
 よもや、1人でフォルツェに!?」

「クライオさんが見つけられなくても。
 私が探したら、見つかるかもしれないじゃない!」

「私の場合とは違うのだぞ!
 奴らに見つかったら、どんな目に遭う事か……!」

「だって、お兄ちゃん、早く助けてあげなきゃ!」

「奴が戦った痕跡は無かった。
 連中も見ていないと言うし……」

「悪い人たちなんでしょう?
 嘘を吐いてるかも、分からないじゃない!
 私が行って、直接確かめるんだから!」

 リリーはこれまで、毅然とした態度を貫いていた。
 それも最早、限界なのだろう。

 本当は、不安で堪らなかったのだ。
 家族同然の彼が居ない。

 決して彼女は孤独ではない。
 私が孤立させないし、周囲の皆もそうだろう。

 しかし、彼が居ない。

 父親を目の前で殺され、今また、彼が居ない。
 家族同然だった彼が居ない。
 忌むべき事態である。

 早期解決が望まれる。
 が、早期解決出来るかどうかは、また別の問題。

「冷静になるんだ、リリー。
 町を奪還しない事には、捜索どころでは無い。
 連中の警備の配置と、町の構造は理解して来た。
 とっとと奪還してしまおう。
 奴を捜すのはそれからだ」

「でも、もう、何日も経ってるし……戦ってないって。
 脱出したなら、どうして連絡ぐらいくれないの?
 やっぱり、何かあったんじゃ。
 動けなくなって、ないかな?
 誰か助けてくれるのを、待ってるんじゃないかな、って」

「我々は改造人間である。
 仮に閉じ込められていたとしても。
 仮死状態になる事で、半月は生き延びる事が可能だ」

「でも、火に巻かれたりしたら?」

「外部装甲がある。
 黒騎士の鎧は、奴自身の炎に耐える。
 火災ぐらいで焼け死ぬものか」

「でも……」

「まだ猶予はある。思考を放棄するな。
 確実に助ける為に、確実な方法を探すのだ。
 自暴自棄になってはならん」

「……分かった。私、クライオさんを信じる。
 お兄ちゃんの無事を信じる。信じるから」

「分かっている。
 助けて見せよう」

 ……正直な所、若干の誇張もある。
 鎧の性能も、奴の性能も。

 果たして本当に、リリーの兄、黒騎士フェルノは。
 我が同胞ブラック・インフェルノは、無事だろうか?

 しかし今は、信じるしかあるまい。

 少々気は重いが、まずは出来る事をしよう。
 私もサウザント老らに協力し、作戦を立てる事にする。

 丸テーブルに地図を広げられた。
 私が調べてきた情報を書き込む。

 本来、貿易で賑わっていた町だ。
 公道は数多く敷かれていた。

 だが、今や通りは瓦礫で埋まった。
 多くの橋は焼け落ちている。

 町に進入可能なルートは3つ。

 奴らは、残された進入経路を防衛する。
 その守りは堅い。

 戦力は、戦闘員100名前後。
 後期型の上位能力者3名。

 厄介なのは、後者。
 能力者の3名だ。

 後期方能力者は、戦車や戦闘機などを軽く相手にする。
 近代兵器で武装した2個大体を、数時間で壊滅させる。

 それが、3人。

 戦闘員の方も、侮ってはならない。
 10人も束になれば、獣人、改造人間を凌ぐ。

 対する、こちらの手勢。
 サウザント一派の魔法使いが、20人余り。

 女騎士リヴェットが集めた援軍。
 方々の騎士団から、有志が30人ほど。

 そこに我々を含めて、総勢60余名。

 仮に、奴らの戦闘員と、騎士・魔法使いを同等と見て。
 それでも倍近い戦力差である。

 となれば、決め手は戦術か。

「やはり戦力差が気になる所。
 一点突破して、3人の首領を倒すのが」

「しかし、倒し切れるかどうか。
 周囲から力を削いで、弱らせた方がいいのでは?」

「物資がままならないのだから、篭城を狙っては」

「だが、黒騎士殿の安否が気がかりだ。
 あまり時間を掛けたくない」

 方針、なかなか決まらん。
 戦力差を考えると、慎重になるのも無理は無いが。

「魔女殿。敵は、いかほどの使い手か?
 頭目は3人。氷と炎、雷の術を使うとか」

 そう問うサウザント老。
 私は答える。

「私と黒騎士2人で組んだとして。
 ようやく1人相手に出来る」

「難敵じゃな。
 各個撃破が妥当であろうが」

「氷使いは任せてくれないか。
 先日、話してみて、説得の余地が見えた。
 そのまま味方に、というのも難しいとは思うが…
 戦線離脱を狙えるかも知れない」

「ふむ。では、残り2人を誘き出して……」

「いや、分断して1人ずつ狙い討った方がいい。
 貴殿とカウリー、リヴェット。
 シャドウとベルムも付けよう。5人がかりだ」

「しかし、1人ずつとして、もう一方はどうする。
 誰か使い手を回して、時間稼ぎをした方が良いじゃろう。
 騎士や弟子達とて、その戦闘員とやらに、数で劣る。
 援護する者が必要では」

「そういう規模、そういった次元の話ではないのだ。
 今でこそ町が黒焦げだが……
 それは異界の戦士達と戦い、疲弊していたからに過ぎない。
 万全の奴らが本気を出したとしたら。
 町は燃え残るどころか、今頃は消滅して海の中だな」

「なんと! それ程までにか!
 ああ、しかし、足止めは欲しい。
 押し切る前に合流されては、こちらが全滅する」

 サウザント老の懸念も、もっともではあるが……ふむ。

 絶対的に戦力が足りない。
 せめて領主軍や、国軍の到着を待つか?

 しかし、ブラックが心配なリリー。
 彼女がまた心配だ。

 時間を掛け過ぎれば、またどんな無茶をするか。

「ブレイズの足止めは、俺がやる」

 とは……ブルー?

 戸口の所に、いつの間に。
 例の、なんたらブルーが立っていた。
 何とか生き延びていたか。

「生きていたのは幸いだが。
 貴様でも、倒すのは無理だと思うが」

「分かっている。
 そっちの5人がかりで、さっさとグレイを倒せ。
 それから援護に来てくれればいい」

 ……ふむ。

 将の割り振りは、これで良いか。
 後は兵の運用だが、

「規格外な敵さえ何とかなるのでしたら。
 僕にも出来る事がありますよ」

 カウリーにも策があるらしい。
 兵同士の戦い、指示は任せよう。

 役者は揃いつつある。
 一番重要な奴を残して。

 とっとと、その1人を探し出そう。
 それで大団円と行きたい所である。


 ……出陣だ。

 夜明けを待たずに、我々は町を後にした。
 フォルツェの町奪還に向かう。


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