Burn Away!
第3焦 第3話
〜Burn the ChainF〜
グレイ・サンダークラウドは高みの見物。
迫り来るのは配下の戦闘員。
左翼から敵が突出。
敵2人の時間差攻撃。
左からの横方向の薙ぎ払い。
右からは袈裟懸けの一撃。
ブラックが応対。
滑り込む一歩で薙ぎを避けるや、回転。
剣を背負い込み、背面で袈裟斬りをいなす。
地に刺さる剣。右の敵に隙。
レッドが掌底で顎を打つ。
これをノックアウト。
同時に、ブラックは左方へ。
敵の振り切った剣を、脚甲で蹴飛ばした。
更に2ステップ。回し蹴り。
敵の顔を打って倒す。
それを確認し終えるより早く、逆方。
こちらは3人。
各自、剣を掲げるも、リリーの魔法障壁に感電。
次いで私の氷槍。これを薙ぐ。
が、少し浅いか。
槍に打たれ尚、食い下がる敵。
すぐ体勢を立て直し、向かって来る。
……敵、か。
かつての部下、仲間達。
手に掛けるのも忍びない話だ。
しかし、こちらも引けぬ理由がある。
リリーを右手に庇いつつ、左旋体。
私はブラックと背を合わせた。
槍を上方で回しながら、彼に聞く。
「何故、リリーを置いて行った!」
言う間に2人に飛び掛る、次の敵。
私は槍を回し、左へ90度ターン。
ブラックは下方から、同様。
2人の位置は入れ替わる。
ブラックを狙う敵を、私が上から地に叩き伏せる。
私を狙う敵は、ブラックが逆袈裟に斬り裂いた。
一歩半後退。
剣を上段に構え直して、ブラックは私の問いに答える。
「機会を、逃したくなかった」
「元の世界に戻る機会か」
「そうだ!」
かつて、我々をこの世界に送り込んだ、アレ。
時空を越えるナントヤラ。
彼はあの、行方不明になった夜。
降り注いだ光に向かった。
元の世界に戻る為に。
元の世界で繋ぎを作り、再び、こちらへ戻る為に。
「ならば、レッドが居るのも道理か!」
ブラックと逆方に駆けながら。
槍を振るって私は叫ぶ。
答えるのはレッド。
迫る剣を左の手の甲で払う。
相手の腹に拳をブチ込みながら、
「ブルーが死んでないって。
ブラックが生きて帰って来た。
証拠としては十分だろ」
時空を超える技術は、彼らナンタラレンジャーの専売。
ブラックは彼らに協力を要請した。
彼らはこちらへ送られた、ブルーを助けたかったのだ。
利害が一致し、共に、ここに現れたと。
大体の状況は分かった。
推測で補っている部分もあるが、概ね間違っては居まい。
「ブルーとグレイらは、同時に送られて……
しかし、少しずれて現れたな」
「時空の穴にグレイを押し込んだ後。
ピンクが引き込まれそうになった。
それを助けようとブルーがもがいて……」
「で、結局、ブルーだけ飲み込まれた?
不器用な奴だ」
「ははっ、それは俺も思ったけど……
あちらでは数秒の差だった。
こちらに送られる間に、数日間のズレになった?
時間の流れ達がうとか?」
と、レッドなりの解釈。
時空を超える技術。
まだ未解明な部分があるのだろうな。
「事態は把握したが……ブラック。
リリーに寂しい思いをさせおって」
「仕方ないだろう。急な事だった。
それに、大丈夫だと思った。
お前が居るから」
「ふっ……よく言う」
「随分と余裕だな。
戦闘中に、お喋りとは」
言いながら、落雷。
飽きて来たのか、グレイめ。
高台から飛び降りて来る。
ここからが正念場。
奴の戦闘能力は、戦闘員などの比では無い。
そして、瞬く間に距離を詰めて来る。
電磁力で加速しているのか。
先んじた狙いは私。
まず一撃。雷を纏った拳。
アッパーカット。
氷の盾で防ぐも、盾が崩壊。
私の身体は宙に舞う。
同時に、ブラックとレッドの挟撃。
グレイはこれを軽々と受け止める。
それぞれ逆方に投げ飛ばす。
筋力だけではない。
雷の、電磁力を利用した怪力。
雷撃を放たずとも、グレイは強い。
1つ、我々能力者に共通した弱点。
意識しない所に力は使えぬ。
そこを突くしかない。
が、グレイ・サンダークラウド。
能力を除いた所で、その戦闘技術は高いのだ。
私は宙を舞いながら、氷刃を投擲。
同時に、体勢を立て直してブラックが迫る。
グレイは倒れた戦闘員から剣を拾う。
それでブラックと斬り結びつつ、私に雷の塊を投射。
氷刃ごと打ち払いに掛かる。
私は咄嗟に氷で壁を作るも、防ぎ切れずに感電。
姿勢制御もままならず、地に叩きつけられた。
次いでレッド、再度挟撃を試みる。
が、グレイは攻めの手を交換。
ブラックに雷撃。
剣を持つ手に落雷し、感電。
レッドには斬撃。
彼は格闘技使いだ。
リーチの差で不利になる。
ブラックを感電したのを確認。
グレイはブラックを蹴り飛ばした。
レッドにも雷撃、斬撃、次いで蹴り。
かろうじて致命傷を避けるレッド。
それでも感電し、動きが鈍る。
蹴りまで避けられず、ふッ飛ばされる。
一瞬にして3人がいなされ、残るは……
マズイ。リリーが無防備。
「可哀想だが、などと言っても白々しいか。
子供だろうと容赦はせぬ」
「あ、あ……」
恐怖に顔を強張らせ、後ずさるリリー。
グレイは無感情な顔で、稲妻を剣に変える。
大きく振り上げ、リリーの上に……
「やめろ、グレイ!
……リリーッ!!」
慌てて私が氷刃を投げ掛ける。
が、電磁場の斥力に弾かれる。
知覚すれば、2箇所同時に能力を発露出来るのか。
やはり後期型能力者。性能が高い。
グレイの防備は鉄壁だ。
斥力は酸素分子の移動すら遮断。
ブラックらの炎も届かない。
リリーは建物の壁際へと追い詰められる。
レッドやブラックも救助に向かうが、強力な力場。
近づく事さえ出来ない。
万事休す。
しかし、その時だ。
リリーの顔のすぐ脇、建物から。
巨大な氷の槍が、壁を貫いて現れた。
グレイの腹部を串刺しにする。
「な……んだ、と?」
崩れる壁の中から姿を見せたのは……
私に似て白く、リリーに似て小さな人影。
ペイル・フローズン。
氷槍に貫かれたグレイ。
出血に抗いながらも、脱出を試みる。
が、ペイルの放つ冷気は強大。
彼の身体を早々と凍らせて行った。
身体に通した氷の槍。
冷気は地に根ざし、氷柱を形作る。
とうとう観念したグレイ。
それでも、戦士としての誇りか。
勝者たるペイルに賛辞を送る。
「一撃必殺、か。まずは見事。
この私が気付かぬとは。
しかし、お前は、どうする。
我らを裏切った所で、お前は、
世界から、組織からも、追われる」
「それでも、いい。
私は……クライオと、行きたい」
「そうか……だが、それならば。
機会はもっと、早くにも」
「ブレイズが、怖くて」
「怖い、か。そんな感情、長らく失念していた。
お前は、我々よりも人間らしいのだな」
苦笑いを浮かべるグレイ。
彼は口から滴る血を凍らせながら、ペイルの頭を撫でた。
彼なりに、戦馬鹿の彼なりにも。
仲間と言う存在を認識していた。
それを大切に思っていた、のだろうか。
もっと違う結末は選べなかったのか。
ペイルの顔に、悔恨の色が浮かぶ。
「……ごめんなさい」
「構わん。口下手などと、私も言えた事ではない。
裏切りの手に、掛かる。
無念だが、これも戦場。
せめて戦場で死ねる……本望……だ」
彼はそこまで言うと、意識を失った。
育ち行く氷柱の中に閉ざされ、その時間を止める。
グレイ・サンダークラウド、轟沈。
思う所は多々あるが、足を止めては居られない。
我々は踵を返し、もう1つの戦場へ。
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