Burn Away!
第3焦 第3話
〜Burn the ChainG〜


 グレイを倒した我々は、草原へと駆けつける。

 死闘を繰り広げるのは、ブルーや騎士団、魔法使い。
 ブレイズ・ヴァーミリオンの足を止めていた。

 足止め、というか。

「ぜぇ、ぜぇ……く、くそ……」

 右の下腹に小剣を刺され、膝をついたブレイズ。

 周囲に纏う炎も、下火。
 あと一押しという所まで、追い込まれた物と見える。

 それを取り囲む様に、騎士団・魔法使いの連合軍。
 こちらの被害はブレイズ以上か。
 誰もが刀傷や炎症を負い、息も絶え絶えだった。

 町内では、サウザント老らに出会えなかった。
 ならば、こちらに来ているかも知れない。
 身動きの取れないブレイズは、ひとまず放置。
 我々は、それぞれに、知った顔を探す。

「シャドウ! ベノム!」

「サウザント先生!
 ご無事ですか!?」

「おぉい、ブルー! リヴェット、どこだ!
 カウリー、生きてたら返事しろ!」

「…………こ、ここです」

 私は、煤だらけになったカウリー。
 リリーの兄弟子を発見した。

「よく生きていた!」
「耐火の魔術が役に立ちました」

「他の者は?」
「満身創痍ですが、半数は生存しているかと」

「しかし、グレイと当たる予定だったのでは?」

「所定の進入路から、赤い彼が現れまして。
 侵入するどころではなくなりました。
 追い立てられ、こちらに合流して……すみません」

「いや、よく健闘した」

 半数。手痛い被害だが、先に戦闘員との交戦もあった。
 よく損失を抑えたものだ。

 頑強な者は概ね生存。
 ブルーやシャドウ、ベノム。

 騎士団や魔法使いは半数。

 サウザント老は気を失っていた。
 高位の魔術が命を繋いだと見える。

 負傷者を後方に。我々が前に。
 陣容を整えていると、ブレイズと私の目が合った、

「くっ……くっくくくく!
 ハメやがったな、クライオ。
 そいつらと今更、仲間ごっこか。
 お前らの、俺達の居場所なんか。
 どこ探したって、あるものか」

 馬鹿でかい声で、こちらの内部分裂を狙うブレイズ。
 それだけ余力が無いのだろう。

「分かってるのか、こっちの世界の住人ども!
 こいつらは人殺しだ! 俺と同じ虐殺者だ!
 殺せ! 殺し合え! 最後の1人になるまで!
 クク、ハハハハ!!」

 事情を知らぬならば……隠していたならば。
 少なからず動揺が広がったであろう。

 しかし、その試みは無駄だ。
 リリーが皆の前に立って言う。

「全部知ってます! 沢山殺した事も知ってます!
 でも、お兄ちゃんは、クライオさん達は仲間です!」

 そう、全部知っている。

 彼女だけじゃない。
 騎士団も魔法使い達も。

 交戦前に事実をぶちまけた。
 ブレイス達を片付けたら、その後は。
 好きにしてくれて構わんと言った。
 処刑も、覚悟の上だと。

 罪と罰を受け入れる覚悟を決めた。
 そんな我らに動揺は無い。

 そして、その言葉を受けた彼ら。
 リリーの言葉に添えて、カウリーも言う。

「毒を以て毒を制す。
 力はただ、力でしょう。要は使い方ですよ。
 使いこなす自信はあります。
 彼らに受け入れる意思がある以上」

「恩義のある人達が、罪を償おうというのです。
 我らも、死を与える他に、出来る事はあるハズ」

 と、こちらは女騎士リヴェット。
 彼女も生きていたか。

 彼ら、彼女らの意思は、そうだ。
 主にサウザント老の提案による物だが。

 他所の世界での出来事は、あずかり知らぬという事。

 そして、助力を欲している。
 我らを必要としてくれている。

 全てを知った上で、それでも受け入れようというのだ。
 我らに内紛など無い。

「ケッ。揃いも揃って、おめでたい奴らだ。
 ……気に入らねぇ。
 そんなに仲良しが好きなら!
 みんな仲良く燃えちまいなぁ!!」

 仲間、居場所……
 自分に無い物を目の当たりにし、憤懣遣る方無いか。

 どこを探したって、あるものか。
 それは自分自身を晒した言葉。
 諦めと怨嗟、憤懣と羨望の言葉。

 出血も顧みず、ブレイズは立ち上がる。
 勢いよく、腹の剣を抜く。
 焼け焦げる草原の中に、臓腑の臭いが広がる。

 かなりの重傷だろう。
 あの出血で力を使い果たしたら、幾ら能力者と言えども。

 しかし、怒り心頭のブレイズ。
 両手を掲げ、その能力を解放する。

 熱の……炎の能力。
 奴を取り巻いて炎が走る。

 炎は森を焦がし、大地を熔かし出す。
 まるで火山だった。
 力の奔流がマグマとなって、周囲に広がり始める。

「あはははは!!
 燃えろ! 燃え尽きろ!」

「馬鹿、ブレイズ!
 お前まで燃えるぞ!」

 私は自制を促すが、奴はまるで聞き入れない。

 出血か、消耗のせいか。
 コントロールが効かないのか?

 炎の能力だけが、暴走。
 ブレイズという殻を突き破ろうとしていた。

「は、はは、はははは。
 燃える。全部、燃える。
 俺も、燃える……
 ……今、行くよ。母さん……」

 どこか、ほっとした様な横顔。
 ブレイズの姿は、マグマに飲まれて消えた。

 馬鹿者め。
 力に溺れなければ、我らと共に歩む道だって。
 決して、無くは無かっただろうに……

 だが、いずれにせよ。
 ブレイズが死んだ。
 ならば、炎もいずれ収まる……

 と、思ったのだが。

「炎が……止まりません!」

 リヴェットが叫んだ。

 事実、そうであった。
 ブレイズの居た辺りから、マグマが吹き出し続ける。

 倒すべき者はもう居ない。
 なのに、炎の奔流が止まらない?
 ならば、止める手立ては、どこにある。

 このままでは我々のみならず、周囲の町にも被害が及ぶ。

 ああ、どうするのだ。
 どうすればいい。


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