〜竜と女の子の物語A〜


 友達になった女の子を背中に乗せ、
 竜は山を散歩します。

 見慣れた景色でしたが、
 どこか新鮮に感じられました。

「これ、宝物と一緒に置いていい?」

 どこから拾って来たか。
 女の子の手には、青い綺麗な石。

 珍しいですが、
 竜の好きな宝石ではありません。

「好きにしろ」

 宝石ではない石を見た竜は、
 ぶっきらぼうに言いました。

 ですが、石を大事そうにする女の子。

 竜にも青い石が、
 どこか特別な物に思われました、

 女の子は竜の住み家に戻ると。
 端の方に、控えめに青い石を置きます。

 そして女の子が町に帰ってしまうと。
 竜は他の宝石には目もくれず。
 女の子の青い石をずっと眺めていました。


 しかし、ある日の事。

 竜が散歩から帰ると、
 住処が荒らされていました。

 宝石が盗まれただけではありません。
 あの青い石まで無くなっています。

 怒り狂った竜は翼を広げ、
 山を飛び立ちました。

 盗まれた宝物が零れ落ちて、
 道に点々と落ちている。
 その後を追って飛んでいきます。

 見ると、さっき別れた女の子は、
 まだ山を降りる途中。
 巻き込む事も無いでしょう。

 盗人達の逃げた先は大きな町でした。

 竜が家々に炎を放つと、
 町の人々が中から逃げ出して来ます。

 竜はその中に、
 宝物を抱えた一団を見つけました。

「盗んだのは、お前達か!」

「た、助けてくれ!
 盗んだ物は返すから!」

 竜に睨まれ、盗人たちは宝物を見せます。

 ですが、その中に、
 あの青い石は見当たりません。

 竜は青い石を探して、
 町を徹底的に破壊しました。

 それから山へ帰る途中。

 竜は道端に、
 青い石が落ちているのを見つけました。

 盗人たちは宝石でないと見て、
 途中で捨てたのでしょう。

 竜は青い石を大事そうに抱えて、
 山へ帰りました。


 しかし次の日、
 あの女の子は現れませんでした。

 竜は気長に待ちます。
 ですが次の日も、その次の日も、
 女の子は現れません。


「私の壊した街を見て、怖くなっただろうか」

「もう来ないのかも知れない」

「人の中に返すのが、あの子の為だ」

「でも……もし、また会えたら?」


 竜は考えました。一緒には居られない。
 でも思い出に、彼女に何か贈りたい。
 竜は青い石を磨き、指輪を作る事にします。

 大きくて、しかし不器用な竜。
 指輪を作るのに、
 十年も掛かってしまいました。

 ですが、竜はとても長生きなので、
 気付きません。


 指輪が完成して、ある日の事。

 兵隊を連れた女騎士が、
 竜の住み家に現れました。

 女騎士には、面影がありました。
 あの女の子です。

「お前、人間の仲間ができたのか」
「黙れ! 父さんと母さんのカタキ!」

 女の子は剣で、竜に斬りつけました。

 痛みよりも悲しさに、
 竜は山を逃げ出します。

 後には綺麗な青い石をつけた、
 小さな指輪だけが残りました。




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