〜悪魔と老人の物語A〜


 目の見えない気の毒な老人。
 彼を騙すなんて酷い事をすれば。
 悪魔としての格も上がるハズ。
 そう考えた悪魔は、老人に付き纏います。

 老人は悪魔に言いました。

「お礼なんていいから、
 仲間の所へお帰り。
 心配しているんじゃないかね?」

「仲間なんか居ねぇ!
 それより願いは何だ?
 何かあるだろう?」

「急に言われても、ねぇ」

「じゃあ思いつくまで、
 近くで見張っててやるよ」

 それから暫くの間、
 悪魔は老人と暮らします。

 しかし、彼はあまり欲が無い様子。
 願い事を言ってくれません。

 願いさえ3つ叶えたら、取引成立。
 魂を奪ってしまえるのに。


 さて、目の見えない老人の生活ですが、
 彼は木こりでした。

 彼は朝になると、
 斧を持って森へ出かけます。

「その目で、よく木なんか切れんね?」
「慣れてるから、ねぇ」

 老人が木を切っていると、
 商人が通り掛かります。
 彼は老人の切った木を、
 買い付けに来た様子。

「爺さん、相場が変わってね。
 前の半値でしか買い取れないんだ」

 ですが、人を騙す事に慣れている悪魔。
 商人の嘘を見破ります。

「この嘘つき商人め!
 急に半値とか、あり得ねぇだろ!
 大体、顔がニヤけてんだよ!
 俺より先に爺さんを騙そうなんて、
 百年早ぇ! 出直して来な!」

「うわッ! 悪――」
「言うんじゃねぇし!」

 悪魔は慌てて商人の口を塞ぎます。

 危ない、危ない。
 老人に悪魔だとバレてしまっては、
 計画が台無しです。

「と、とにかく爺さん、
 この取り引きは無しだ。
 町まで持って行って売ろうぜ」

「そうしたいのは山々じゃが、
 どうにも腰が悪くて、ねぇ」

「いーから!
 手伝ってやっから!」

「おやおや、親切な妖精さんだ。
 ありがたや、ありがたや」



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