〜悪魔と老人の物語C〜


 悪魔は老人の看護を始めます。
 まずは食べる物を用意しなければ。

「どーせだから、変な味にしよう。
 爺さん、ビックリするだろう」

 悪魔はレシピも見ないで、
 デタラメな料理を始めます。

 栄養があればいいのだろうと、
 味付けはメチャクチャに。
 適当に材料を入れた、
 不気味なシチューが出来上がりました。

「ほらよ、爺さん。
 メシが出来たぜ」

「ああ、ありがとう。
 おいしいねぇ」

 悪魔がシチューを差し出すと。
 お爺さんは平気な顔で、
 何杯も食べてしまいました。

 そんな馬鹿な。

 悪魔は大急ぎで台所に戻ります。
 そしてナベに残っていたシチューを、
 少し舐めてみました。

 ……マズイ。とてもマズイ。
 食べられた物ではない。
 あまりのマズさに、
 悪魔は涙を流して転げ回りました。

 それから冷静になって、
 悪魔は老人の事を考えます。

「爺さんの奴、
 俺なんかに気を使ったのかな。
 それとも味が分からないぐらい、
 ヤバイ病気じゃなかろうか」

 悪魔はまた涙が出て来ます。
 シチューがマズイのとは違う理由でした。

「ちくしょう。
 悪魔の俺を騙すなんて、
 とんでもないジジィだ。
 今度は腰が抜けるぐらい、
 美味いシチュー作ってやる。
 逆にビックリさせてやるぜ」

 悪魔は老人の看護をする傍ら、
 料理の勉強を始めました。


 やがて、悪魔の看護の甲斐もあってか。
 老人は顔色も良くなり、
 ベッドで身体を起こします。

「おい、爺さん。
 まだ寝てなきゃダメだろ」

「ああ、お陰様で、
 今日は気分がいいんだよ。
 そうだ、1つだけ、
 願い事を言ってもいいかな」

 悪魔自身、半ば忘れていました。
 願い事。願いを言えと言ったのは、
 この悪魔自身です。

 しかし3つの願いを叶えてしまったならば。
 悪魔は悪魔として、約束通り。
 魂を奪わなければならない決まりです。

 優しいお爺さん。
 殺したくない気がしてきました。
 悪魔はちょっと、
 シドロモドロに言いました。

「1個。ああ、1個だけな。
 まず1個だよな、うん。
 爺さん、何が欲しい?
 金銀財宝か?
 何なら城でも建てるかい?」

「そういうのはいいんだ。
 ただ、目を治してくれたら……
 親切な妖精さんの姿を、ね。
 一目だけでも見てみたいと思って、ねぇ」




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