〜悪魔と老人の物語D〜


 さあ、困った。どうしよう。

 魔法を使って老人の目を治す事。
 それ自体は簡単でした。

 しかし、老人の目を治してしまう。
 悪魔が悪魔だとバレてしまいます。

 今更、騙してどうこうする気もありません。
 しかし、ガッカリされるのは悲しいです。

 そして自分が変身するような魔法。
 それは残念ながら、使えませんでした。

「目か。目かぁー。
 そっかー。うーん?
 じゃあ、アレだな。準備が必要だな。
 爺さん、ちょ〜っと待ってろよ?」

 悪魔は老人の家を出ると、
 南へ向かって飛び発ちました。

 目的は、魔女。
 自分より強い魔法が使えるハズの魔女。
 今は南の山に住むという、
 年取った魔女に会う為に。


 魔女の山に辿り着いて直ぐ。
 三角の帽子を被った、
 黒い服装の人影が見えます。

 恐らく、あれが魔女でしょう。
 悪魔は人影に呼び掛けました。

「よう、ババァ! 久しぶりだな。
 ……ん? 何か縮んでねぇか?」

「あ、あ……悪魔ッ!?」

 見ると、魔女は老婆ではなく、
 年若い女の子でした。

「あ? 何だ、別人か?
 まぁ、いいや。お前だって魔女だよな。
 変身の魔法は使えるか?
 俺に、ちょっくら掛けて欲しいんだがよ」

 自分だって、魔女。

 魔女の女の子は、まだまだ修行中。
 一人前扱いされたのが嬉しくて。
 悪魔に協力する事にします。

「変身の魔法……分かりました。
 えっと、どんな感じに?」

「そうだなぁ。
 爺さんだって男だもんな。
 汚いオッサンよりは、
 キレイな姉ちゃんがいいか」

「綺麗な、お姉さん……えいっ!」

 魔女の女の子が杖を振ると。
 悪魔は美しい女性に変身しました。

 それを鏡を見て、確認して。
 悪魔は満足顔で言います。

「ほっほー、なかなかやるな。
 これなら爺さんも喜ぶだろ」

「お爺さんって?」

「目の悪い爺さんが、
 俺の姿を見たいっつーんだ。
 悪魔の姿なんか見ても、
 ガッカリするだろ?
 じゃあ、急ぐんでなー」

「え、あっ、ちょっ、
 ちょっと待って!」

 悪魔の後姿を見た途端。
 魔女の子は慌てた様子で、
 悪魔を呼び止めます。

「ああ? あー、代金か。また今度な。
 財布持ってなくってよー。
 今度ちゃんと払うから。な? な?」

 早く老人を喜ばせてやりたくて、
 悪魔は気が逸ります。
 女の子を適当にあしらうと、
 老人の家へ急ぎました。

 その背中には、
 悪魔の黒い翼をつけたまま……




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