〜悪魔と老人の物語E〜


「おい、爺さん、帰ったぜ!
 すぐに俺の姿を見せてやるから、
 驚いて腰抜かしやがれ!」

 老人の家に帰った悪魔は、
 魔法で老人の目を治します。

 その時、ふと、悪魔の目に入りました。
 窓に映った自分の姿。
 背中には、黒い悪魔の翼。

 魔法が不完全だった?
 注文の仕方が悪かった?

 しかし、老人の目を治す魔法。
 急に途中で止められません。
 老人の目は治り、悪魔はうろたえます。

 ですが、老人は微笑むと、
 悪魔に言いました。

「ああ、妖精さんと思ったら、
 天使様だったのか。
 ああ、ああ、美しい……ねぇ」

 そう言うと、老人は、
 力無く後ろへ倒れます。
 そしてそのまま、
 動かなくなってしまいました。

「お、おい、爺さん?
 嘘だろ! おいっ、爺さん!
 爺さんっ!?

 爺さぁああああああん!!

 悪魔が幾ら呼び掛けても、
 彼の返事はありません。
 老人は既に息を引き取っていました。


 悪魔は老人の家を飛び出して。
 町へ向かって駆け出しました。

「ちくしょう!
 どうして爺さんは死んだ!
 誰のせいだ!」

 悪魔は、まず病院へ。
 老人を診た医者を問い詰めます。

「おい、爺さんが死んだぞ!」

「ええっ!? お爺さんというと、
 あの木こりのお爺さんですか?
 そんな、まさか……」

「薬が間違ってたんじゃねーのか!
 でなきゃ、何か変な薬だったとか……」

「あれは昔から使っている、
 普通の風邪薬ですよ。
 あれで具合が悪くなっただなんて、
 聞いた事が無い」

 どうやら医者の、
 薬のせいではないらしい。

 悪魔は次に、死神を探します。
 死神は、ぶらぶら町を歩いていました。

「おい、てめぇか!
 爺さんを殺したのは!」

「んん? 何だ、お前、あの時の悪魔か?
 何でそんな格好になってる」

「うるっせぇ!
 質問に答えろ!」

「ふむ。確かに、
 ここらの管轄は私であるが。
 あの木こりの爺さんなら、
 もう狙ってないんだが。
 とすると……アレか?」

「お前、何か心当たりがあるのか?」

「天使だよ、天使。神様の仕業さ。
 聞いた事が無いか?
 いい人間は早く死ぬって。
 気に入った人間がいると、な?
 神様が天使を寄越して、
 天国へ連れて行ってしまうのさ」



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