〜魔王と姫の物語A〜


 結局、村には住めなくなったので、
 男は旅を始めます。


 ある時、男が町を通りかかった時。
 1人の老婆が召し使いを、
 棒で叩いているのを見つけました。

「どうしてそんな事をするんだ?
 酷いとは思わないのか」

「こいつが悪いのさ。
 器量も悪いし、ウスノロで、ねぇ。
 叱っても、殴っても、
 ちっとも良くなりゃしない。
 こいつの事で、
 イライラしないで済むのなら。
 それなら私ゃ何だってするよ」

「だからって、殴って殺すのか?」

「そんな簡単に死ぬもんかい。
 こいつは大事な働き手なんだ。
 簡単に死んでもらっちゃ困るんだよ」

 大切なら、どうして、
 大切に扱おうとしないのか。

 男はとても不思議に思いました。
 しかし、どうあれ、
 老婆は困っている様子。

 老婆の態度を気に入らないとは思いつつ。
 男は分け隔てなく手を貸す事にします。
 困っている人を助けるのは、
 魔法使いの仕事なのです。

「そいつが死なないで、
 イライラが無くなればいいんだな」

 男は杖を振りました。

 男の魔法は雨雲を呼び、雷を落とします。
 老婆は雷に打たれ、死んでしまいました。

 これでもう老婆は、
 イライラする事がありません。


 またある時、
 男が城壁の傍を通りかかった折り。
 1人の兵隊が落ち込んでいました。

「どうした、仕事をしないのか」

「ああ、聞いておくれよ、旅の方。
 取り締まっても、捕まえても、
 町には悪い奴がいっぱいだ。
 偉い人には怒られるし、
 悪い奴には殴られる。
 私はもう、嫌になってしまったよ」

 兵隊はとても困っているみたいでした。

 正義の為に悩む兵隊に、
 男は同情しました。
 快く手を貸します。

「町から悪い奴が、
 いなくなれば良いのだな」

 男は魔法の杖を取り出します。

 男の魔法は大風を呼びました。
 町を丸ごと吹き飛ばします。

 これでもう町には、
 悪い人も、良い人もいません。



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