〜魔王と姫の物語D〜
領土を荒らされた国々の王様たち。
彼らは魔王を退治しようと、
魔王の首に賞金を懸けます。
やがて腕自慢の勇者たちが、
王様の元に集まります。
彼らは富と名声を求め、
魔王に挑みました。
そして、誰も帰っては来ませんでした。
「これはいかん。
各国の総力を挙げて、
魔王を倒しに行くべきだ」
「しかし、兵隊を全て送り出してしまったら。
誰が国を守れば良いのだ」
王様たちは、魔王への対応に悩みます。
ところが一方で。
魔王もまた、頭を悩ませていました。
「私は一体、何をやっているのだ」
暴れるだけ暴れ回り、
ようやく冷静になった魔王。
彼は自分の行いを恥じていました。
「力は正しく使うべきだったのだ。
それなのに私は、人々を困らせた。
ああ、もう、死んでしまおうか」
しかし、ただ死んだのでは、
誰も得をしません。
そしてウワサに聞く所。彼の首には、
莫大な賞金がかかっているとの事。
これまでにも何人もの強者が、
彼に倒されています。
もし、次に殺しに来たのが
悪人でなければ……
その時は、彼は大人しく
殺されてやる事にしました。
そんなある日。
魔王の城に、1人の女の子が現れました。
剣を携えた、背の低い女の子。
今までの勇者の誰よりも、
みすぼらしい姿の女の子でした。
「ごめんなさい、魔王さん。
貴方に恨みはないのですが」
口を開くなり、人の好さそうな娘。
賞金を悪用したりもしないでしょう。
「皆まで言うな、貧しい娘。
その剣で私を殺し、
富と名誉を得るが良い」
覚悟を決めた魔王は、
魔法の杖を投げ捨てます。
「何のつもりですか。何かの罠とか」
「お前は、どこかの国の依頼で来たのだろう。
仮に罠だとして。
今更、退くに退けまい」
「……そうですね。いざ!」
「待って下さい!
どうか、その方を殺さないで!」
女の子が剣を振り上げた時。
その切っ先に、1人の召し使いが
飛び込んできました。
よく見れば、魔王には見覚えのある顔。
老婆に棒で叩かれていた、
あの可哀想な召し使いでした。
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