〜魔王と姫の物語E〜


「この方が居なければ、
 私は死んでいたかも知れません。
 風評を聞いてはおります。悪行の数々を。
 それでも私にとっては、
 大切な恩人なのです。
 どうか、命だけでもお助け下さい!」

「もう、良いのだ。
 私はこの力で、
 正しい事をしたかった。
 だが、もう何が正しいのか、
 分からなくなってしまった」

 召し使いを引き下がらせ、
 剣の前に立つ魔王。

 ですが話を聞いていた女の子は、
 剣を収めました。

「どうした。賞金が要らないのか」

「少し、話してみませんか?」

「話して、どうなる。
 今更、やり直せるものか」

「それは分かりませんが……
 もし貴方の話を聞く事で、
 私の何かが変わったなら。
 それなら、少なくとも私にとって。
 貴方が生きてきた事は、
 決して無駄ではなかったのだと」

「……そうか」

 それから魔王と女の子は、
 互いに語り合いました。

 皆の為に師を殺め、
 村を追われた魔王。

 貧しさを理由に町で虐められ、
 野山で育った女の子。

 2人はそれぞれ、
 生き方に悩んでいました。
 不器用で、そして孤独でした。

「自分が正しいつもりでも、
 時に誰かを傷つけてしまう。
 独り善がりではなく、
 本当に正しい事をしなければ」

「ならば娘よ、真に正しい者とは誰だ?
 本当の正義とは何なのだ?」

「分かりません。私にも分からない。
 ただ……正義とは、正しさとは。
 1人で決められる物では
 ないのではないか、と」

「しかし、数が多ければ正しいのか?
 お前を傷つけた多数が正義と言えるのか。
 たった1人で私に立ち向かうお前。
 その姿は、何故こうも正しく見えるのか」

「……こうして2人で話していても、
 答えは見つかりませんね。
 どうでしょう。
 答えを探しに行きませんか。
 答えを、誰か答えが分かる人を探しに」

「だが、お前は
 私を殺さなければならないのだろう」

「私にも、もう……
 貴方を殺すべきなのか、
 分からなくなってしまいました。
 だから答えが出るまでは、
 その命、預けておきます」



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