〜魔王と姫の物語F〜


 それから魔王と女の子は、
 また旅を始めました。

 魔王は城を明け渡して。
 女の子は魔王を殺した事にして。

「一緒には行けないのですか?」

「魔王と勇者が一緒に居ては、
 殺してないのが知れるだろう。
 別々に行く方が良い」

「そうですか……」

「すまないな。無駄な時間を取らせた。
 お前に変化を与えるほど、
 大した話を出来なかったと思う」

「いいえ。少なくとも。
 悩んでいるのが私だけでないと知れた。
 それは私にとって、とても有意義でした」


 魔王と女の子は別々の道を行きます。
 召し使いは魔王について来ました。

「お前も私の命を救ったのだ。
 恩は十分に返せたと思うのだが」

「私の方が先に助けて頂きました。
 もう少し、お供させてください」


 それから旅に出た、魔王と召し使い。
 彼らは旅先で、意見を求めて回ります。


 ある町人は言いました。

「何が正義かって?
 そりゃあ、みんな仲良く平等に、
 って事じゃないか?
 自分だけ幸せになろうなんて、
 バチが当たると思うよ」


 しかし、ある富豪は言います。

「私が正当に稼いだ金だ。
 稼ぐ努力をしない貧乏人に、
 使ってやる義理など無い。
 沢山稼ぐ奴が偉いのだ。
 それだけ努力をしているのだから」


 ところが、ある医者は言います。

「金持ちだろうが何だろうが、
 命に優劣なんてないだろう。
 だから、どうしても数を考える事になる。
 犠牲を少なくし、より多くを救うこと。
 それが私なりの正義かな」


 ですが、ある船長は言います。

「あれは、とても激しい、
 嵐の夜の事だった。
 海に投げ出されたのは7人。
 救命ボートは5人乗りだ。
 全員で死ぬよりは、と、
 私は2人を見殺しにした。
 皆は私を悪くないと言うが……
 ならば何故、私の心から、
 後悔の念が消えないのか」


 人々は魔王の問いに、
 それぞれ答えを返してくれます。
 しかし、どれも決定的ではありません。

「えぇい、分からぬ……!
 答えが出ぬのでは、
 あの娘に合わせる顔がない」

「まぁまぁ。
 まだ旅を始めたばかりです。
 気長に行きましょう」

 召し使いは魔王を励ましながら、
 旅を続けさせます。



前へトップに戻る次へ