〜魔王と姫の物語L〜


「本当に、城には食料が無いのか?」

 魔王が聞くと、王様は力無く答えます。

「そうなのだ。もう、城にも食料が無い。
 どうしてこうも簡単に、
 革命が成功したか分かるか?
 食料が無いから、だ。
 養えない兵たちには、
 ほとんど暇を出した。
 守りが手薄だったのだ。
 残った兵も食べられる物が無く、
 戦った所で力が出ない。
 姫にだけは苦労を掛けまいと。
 わしも節約に努めていたが……」

 魔王は、縛られたままの王様の、
 服の袖をまくってみます。

 一見すると豪華な服も、
 よくよく見れば埃まみれ。
 その中の腕は、ほとんど骨と皮でした。

 これでは本当に、
 お城に蓄えは無さそうです。

「無いなら無いで、こいつらは殺す!
 そうしないと、腹の虫が収まらない!」

 やり場の無い怒りと落胆に、
 リーダーは剣を振り上げます。

「そうだ! 殺してしまえ!」
「民を救えない無能な王め!」

 市民たちも声を張り上げます。
 しかし、魔王はリーダーに尋ねました。

「では、パンでもあれば、
 皆の腹の虫は収まるのか?」

「パンだって?
 だが、パンは無かった!」

「お前たちが欲しいのは、
 こいつらの首か?
 それとも、一切れのパンか」

「首だ!」
「そうだ、首だ!」

 頭に血が上った市民たちは、
 口々に言います。

「お前たちの後ろで飢えている子供たち。
 今、必要なのは、
 彼らを救うパンではないのか。
 あくまでも、こいつらの首か」

 魔王がそう聞くと、市民たちは、
 今度は黙ってしまいました。

 やがて、リーダーが言います。

「………………パン、だ」

「では、こいつらの首。
 パンと交換ではどうか。
 お前たちが腹いっぱいになる。
 それだけのパンを出そう」

「そんな事を言われたって、
 もうそんなに待てないぞ?」

「今すぐに、だ」

「俺たち全員分だぞ?」

「分かっている」

「冬を越せるだけ、パンが、食料が。
 大量に必要なんだぞ?」

「いいだろう。そら」

 魔王が杖を一振りした途端。
 リーダーの剣がパンになりました。

 剣だけではありません。

 処刑台も、家々も、道も。
 遠くに見える大きなお城までもが。
 全てパンになってしまいました。



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