〜魔王と姫の物語M〜
「これだけあれば、
春まで持ちこたえられそうだ!」
「家なんて、また建てればいい!
今は食料だ! ありがたい!」
大量のパンを手に入れて、ようやく。
市民は王様と姫を解放しました。
魔王と召し使いは、
王様と姫を町から連れ出します。
召し使いは魔王に言いました。
「どうやら上手く行きましたね。
お見事でした」
「いや、私も、まだまだだ。
後々考えれば、
あの大男は投げなくても良かった。
要らぬ怪我をさせてしまった」
「まぁ、考える事は多いですね。
もちろん、感情は、
気持ちは大切な物です。
しかし感情だけでは、
適切な手段に行きつかない。
冷静に相手の言葉にも耳を傾ける。
そして、よくよく話し合うという事」
「そうだ。しかし、
即断即決が必要な場合もある。
言葉を待っていたのでは、
振り降ろされる斧は止められぬ。
相手毎に最適な加減があろう。
触れてみない事には、それも分からぬ」
「相手と関わって、
それぞれの正義を見出す、ですか。
しかし関わっても、
聞く耳を持たなければ同じ事。
聞いた上でも、
流されてばかりでも正義を見失う」
「そして、相手に正義を問う側。
こちらもまた、
絶対的に正しいとも限らない。
……難しいな」
「それでも、まぁ、
誰も死なずに済んだのです。
今回は、まずまずでしょう」
「まずまず、か。
そうだな……」
魔王は、喜ぶ人々の顔を思い浮かべました。
誰かを幸せにする事が出来た。
独り善がりだった頃とは違って。
今は、確かな手ごたえがありました。
一方で、王様は浮かない顔。
姫は王様に尋ねます。
「命が助かっただけでも、
良かったではありませんか。
王座など必要ありません。
民と同じように、
慎ましく暮らしていきましょう」
「ああ、姫よ。そなたの言う通りだ。
そなたの為なら、
どれほどの努力も苦ではない。
しかし家来が一人もいない。
どうやって暮らしていいのか、
わしには分からぬ。
わしは王家に生まれついた。
庶民の暮らし方について、
知る所が少ないのだ」
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