〜暴君と侍女の物語C〜
そして“その日”が来ました。
大人になった王子。
彼は会うのを避けていた継母、
新しい王妃に呼ばれます。
夕食を共にする事になりました。
王子は侍女伴って、その会場へ。
会場には王妃の姿。
そして大勢の、
王妃の家来が待ち構えていました。
物々しい雰囲気に不安を感じる侍女。
ですが、王子は構わずに踏み入ります。
王子の銀のグラスに酒が注がれると。
その色が、みるみる変わっていきました。
王子は気付きましたが、
構わずそれを口に運び……
「いけません、王子!」
とっさに侍女が王子の手から、
銀のグラスを払い落とします。
「何をする、無礼者」
「ご無礼をお許しください。
銀の色が変わりましたもので。
お酒に何か、
毒でも入っているのではないかと」
「知っている。
それでも飲もうというのだ」
「なぜ、そのような事を!」
「不審に思って調べていたのだ。
この女、母が生きていた頃、
母の侍女だった女だ。
母に毒を盛って殺して、
妃の座を手に入れたのだろう?
草を枯らすのだと言って、
毒を買って行った。
町の薬屋は白状したぞ。
そうして妃の座を手に入れた後。
自分の息子を王の後継者にしようと、
俺の命を狙って来る。
予想通りだったな。
妃が王子を殺したとあっては、
世間体も悪かろう。
俺がこの女の毒を呑めば、
この女は破滅する。
これは復讐だ。
邪魔をしてくれるなよ?」
「事情は分かりました。
しかし、どうして
死ぬ必要があるのですか?
王子様を殺そうとしたと知れたなら。
王陛下も、黙っているハズが……」
「“殺そうとした”では温いのだ。
父は、この女を愛している。
亡き母よりも愛している。
だから、俺を殺そうとしたとして。
実際に死なねば、温情も掛けるだろう。
俺が実際に死んで、真相が知れて。
それでようやく、この女は破滅する。
お前は、その為の証人だ。
お前1人なら、
どうにか逃げおおせるだろう。
父に真相を伝えろ。
それから、どこか平和な所で、
幸せに暮らすがいい。
さあ、グラスを取れ。
その女が用意した酒を注ぐのだ。
俺に、思いを遂げさせてくれ」
「ふざけないでください!!」
侍女はグラスではなく剣を手に。
一息に、妃の胸を貫きました。
そして剣を抜き払い。
今度は周りの家来たちに突き付けます。
「貴方たちの従う相手は死にました!
死人に従っても旨みはありませんよ!
さあ、決めなさい!
私と戦って死ぬか!
それとも降参して、
我が君の前に膝をつくか!」
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