〜暴君と侍女の物語H〜


 お城へ急ぐ侍女。
 それとは入れ違いに、
 王子の元へ手紙が届きました。

 1通は、王様から王子へ。

 あまり急がなくて良い。
 どこの山の景色が良い。
 どこの町の土産が欲しいとか……

 まるで、王子に帰って来て欲しくない。
 真っ直ぐ帰って来ては、
 困るかの様な文面です。

「……考え過ぎだろう。
 城を出た事の無かった俺だ。
 気付かってくれているに違いない」

 不安を振り払おうとする王子。

 ですが、手紙はもう1通。
 騎士団長から侍女への手紙。

 勝手に見ては悪いと思い……
 しかし、受け取るべき侍女は
 見当たりません。

「先に、騎士団長に手紙を出していた時。
 あの侍女は少し不安げだったな。
 何か、気掛かりな事でもあったのか?
 急ぎの用ではいけないだろう。
 代わりに確認して、知らせに行くか」

 王子は騎士団長の手紙を開けます。

 そこに書かれていた内容に、
 王子は愕然としました。
 お城は危険なので、
 王子を連れて来ない様にとの事。

 どうやら王子の弟が、
 次の王様に決まりそうな事。

 そして何よりも。
 王様と大臣が一緒になって、
 王子を殺そうとしている事。
 それが、事細かに書かれていました。


「侍女が俺に隠そうとしていたのは、
 この事だったのか?
 いや、そんなハズは無い。
 父上が俺を殺そうなどと……

 だが、あの侍女が俺を騙すなどとは。
 とても考えられない。

 騎士団長が嘘をついているのか?
 俺を城から遠ざけておいて、
 弟に取り入るつもりか。

 だが、もっと信用ならないのは大臣だ。
 父上に一体、何を吹き込んだ」


 多くの疑問と疑いが、
 王子の心に浮かびました。
 しかし、考えても答えは出ません。

 真実をその目で確かめる為。
 王子もまた、お城へ急ぎます。



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