〜暴君と侍女の物語J〜


 お城の中に入った侍女は、
 大臣を探しました。

 大臣は襲撃に備え、
 王様と、大勢の手下と城の奥。
 部屋に閉じこもって居ました。

 侍女は剣を手に、
 手下たちを斬り伏せます。
 殺されるかと思った大臣は、
 命乞いを始めました。

「全ては陛下がお決めになった事だ!
 私は関係無い!」

「な、何を言うか!
 わしはただ、大臣の言う通りに……!」

 罪を擦り付け合う、
 情けない姿の王様と大臣。

 その様子に侍女が呆れていると。
 不意に後ろから声がしました。

「ああ、なんと見苦しい。
 貴方には人並みの愛情どころか、
 プライドも無いのか?」

 見ると、侍女の後ろに兄王子。
 息を切らせて立っていました。

「王子様! どうしてここに!」


「悪いが手紙を読ませて貰った。
 事情は全て理解した。
 私を殺そうとしていたのは、
 父上だったのだな。

 俺に気を使って、
 隠そうとしていたか。
 しかし知ったからには……

 民の不安を煽った策、
 逆に利用させて貰う。

 不甲斐無い王をこの手で倒す。
 そして民を救った功績をもって、
 この私が王座に就こう」


「いけません、王子!
 子が父親を殺すなど!」

「その父が子を殺そうというのだ。
 これは因果応報だ」

 侍女が止めようとするのも聞きません。
 王子は王様に剣を向けます。

「父上、残念ですが、お別れの時間です」

「ま、待て! 早まるな!
 わしが悪かった!
 許してくれ! この通りだ!」

「いくら貴方が頭を下げた所で。
 貴方たちが煽った民は、
 もはや止められますまい。
 犠牲が必要なのです」

「王座をやる!
 城も兵も、お前の物だ!
 だから、命だけは!」

「……残念だ。
 貴方には一度でいいから、
 褒められてみたかった」

 王子はそれだけ言い放つと。
 王様の胸に剣を突き立て、
 殺してしまいました。

「さて、大臣よ。
 俺を殺そうとした罪は、
 死んでも償い切れんぞ?
 この俺を王座に即ける為に、
 せいぜい働いて貰おう。
 楽に死ねると思うなよ?」

「ひっ、ひいい!
 仰せのままに……!」


 王子は大臣に命令すると、
 すぐ王座に就きました。

 目的の王座に就いた。
 それは良いのですが……

 新しい王となった王子。
 その心は晴れません。

 父親に命を狙われた。
 それは彼の心に深い傷を残しました。
 彼を疑心暗鬼にさせました。


「信じられる者など居ない。

 和平だと? 友好関係だと?
 そんな言葉で欺いて、
 また俺から奪おうというのだろう。

 騙し取られるぐらいなら。
 こちらから奪い尽くしてやる。

 武力をもって世界を平定せよ
 我が安息の地を築くのだ」



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