〜暴君と侍女の物語K〜
他人を信じられない若き王。
彼は、信用ならない周辺諸国を滅ぼす為。
軍備を整える事にします。
まずは、お金が必要です。
市民に重い税を課しました。
そんな彼を、
誇り高い騎士団長がいさめます。
「なりません、陛下。
そのような重い税では、
民が生きて行けません」
「何だと、俺に逆らうのか。
ならばお前を死刑にしてやる」
王は言葉通り、
騎士団長を死刑にしてしまいました。
次に彼は、集めた税を使います。
市民を集めて兵隊にし、
武器や鎧を買いました。
そんな彼に、
頭の回る弟が進言します。
「なりません、兄上。
軍備ばかり整えたのでは、
国が立ち行かなくなります」
「何だと、俺に逆らうのか。
ならばお前も、死刑にしてやる」
その調子で彼は、
弟も死刑にしてしまいました。
邪魔する者を全て死刑にしてしまうと、
若き王は、戦争を始めます。
彼は、どんな犠牲も顧みず。
兵隊たちを進ませます。
他国の市民を捕まえては兵隊にします。
足りない食料は、その町々から奪います。
奪い、壊し、殺す。
血も涙も無い王の所業。
やがて王は暴君と呼ばれ、
恐れられるようになりました。
そんな彼の風評を耳にして。
侍女は心を痛めます。
このままでは市民の心が、
彼から離れて行ってしまう。
侍女は意を決して、
彼に進言しました。
「陛下、戦争をお止め下さい、
お優しい陛下に戻って下さい。
民は陛下を恐れています。
国を離れる者が後を絶ちません。
重い税、多くの武器、
流れた血、奪い取った領地。
それは陛下のお心を
満たしてくれましたか?
私の様な者にさえ
手を差し伸べる、あの頃の。
お優しい陛下に戻って下さい」
「何だと、お前まで逆らうとは。
誰も俺の気持ちなど分からぬか」
「陛下のお気持ちは、
理解しているつもりです。
陛下にとってのお父上。
それは私にとっての陛下です。
褒めて欲しかった相手に、
不要な物のように扱われたら。
それなら私はきっと、
心が張り裂けていたでしょう。
しかし、この所業。
陛下の御為になりません。
どうか、お考え直し下さい」
「俺は公平な王として、
逆らったお前を処罰せねばならぬ。
俺に逆らう者は死刑だ。
しかし、お前には多大な功績がある。
今までよく助けてくれた。
その功績に免じて、
処分は国外追放とする」
「助けて頂いたのは、私も同じです。
あの日、陛下に助けて頂いた。
だから今の私があるのです。
私の命など構いません。
死刑で構いません。
私の命と引き換えにでも。
どうか、お考え直し下さい」
「俺の決定は覆らぬ。
城を出て行くがいい。
……頼む。出て行ってくれ。
俺に、お前まで殺させてくれるな」
侍女を追放する王。
城を出て行く彼女を見送って。
彼の心には、少しばかりの冷静さ。
そして悲しみの感情が沸き起こりました。
「分かっているのだ。
このような事をしても、
俺の気持ちは満たされない。
だが、戦争を止めたとして。
人を信じられないのも変わらない。
俺が信じられたのは、
あの侍女、ただ1人なのだ。
俺は戦争を止めらない。
世界を力で統一する。
統一して、平和にする。
逆らう者が居なくなったら。
世界が平和になったなら。
その時は、あいつを呼び戻そう。
そして平和に暮らすのだ」
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