〜暴君と侍女の物語L〜


 それから。

 暴君は相変わらず暴君でした。
 しかし侍女と言葉を交わした事で、
 少し考え方を変えました。


「あの侍女だけは、
 いつも俺に尽くしてくれた。
 だから、俺だけではない。
 あいつも安心して暮らせる、
 そのような世界にするべきだ。

 では、あいつは何を望むだろうか。

 俺の名が傷ついても、
 あいつは悲しむのだ。
 戦争は止められぬが、
 やり方は変えねばなるまい」


 暴君は、好き放題に戦争するのではなく。
 まず謀略で大義名分を作った上で。
 戦争をするようになりました。

 死ぬほど重い税を課すのではなく。
 どうにか暮らせる程度の、
 重い税を課すようになりました。

 戦争も、逃げる者まで皆殺しではなく。
 逃げなかった者だけ、
 皆殺しにするようになりました。


 市民たちにとっても、
 暴君は相変わらず暴君でした。
 ですが、その評価は変わって行きます。

「最近、何か変ったよな?
 少しは俺たちの事も、
 考えてくれてるんだろうか」

「税は相変わらず重いのだが。
 不作の時は援助してくれたり、
 病人も助けて回ってるとか」

「元々、頭はいい人だったんだよな。
 あとは、せめて、
 戦争さえ止めてくれたら……」

 幾らか良くなった暮らし。
 人々は少しばかり期待するのですが。
 暴君は戦争を止めません。


「他国の者など信用できぬ。
 我が国の平和の為に、
 全ての国を攻め取ってしまおう」

 そして、本当に平和になったならば。
 あの侍女を呼び戻すとしよう」

 それまで、あいつが望むであろう物。
 全て手に入れておいてやるのだ」


 自分の為ではなく、大切な人の為。
 しかし暴君は、暴君でした。



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