〜暴君と侍女の物語N〜


 停戦条約など仮初めの物。
 暴君は折を見て、
 また攻め込む気でした。
 早々に条約を取り結びます。

 それよりも彼の興味は、
 竜を従えた女領主にありました。

 条約締結を済ませ、
 女領主を見つけると。
 暴君は彼女に尋ねます。

「良い家来を連れているな。
 どうやって従えたのだ?」

 すると女領主は答えました。

「彼らは家来ではありません。
 私の友人たちです」

「友だと? 友情だと?
 損得抜きで助けるというのか。
 他人など、信じられるものか。
 何か裏があるのではないか。
 例えば、あの大きな竜。
 竜は財宝を好むとか。
 お前の宝が狙いではないのか」

「彼は高価な宝石よりも。
 私の拾った石を、
 大切だと言ってくれます」

「あの魔女は、きっと、
 お前の地位や権力が狙いなのだ。
 そうに違いない」

「彼女は魔女のしきたりなのか、
 質素な身なりをしています。
 でも、ああ見えて、隣国のお妃様。
 私などより地位がある方です」

「あの魔王は、
 いずれ美しいお前を奪い去り。
 例えば妻にでもしたいのではないか」

「ご冗談を。彼には私よりも
 素敵なガールフレンドが居りますよ」

 暴君の言葉を、
 自信たっぷりに否定する女領主。

 腹も立ちましたが、
 それでも得られる物は無いか。
 暴君は冷静に考えてみます。

 信頼関係を築くという事。
 強制したのではなく、
 自発的に助けてくれる仲間の存在。

 そういった意識の違いが、
 先の苦戦の元かも知れない。

 しかし、彼は他人を信じられません。
 どうすれば信じられるのか。

「お前はどうして、そうやって。
 他人の事を信じられるのだ。
 裏切られるとは思わないのか」

「応えてくれるかは分かりません。
 他人の心は分らない物。
 ですが、信じたいという私の気持ち。
 それは私にとって確かな物ですから」

「信じたいから信じるというのか」
「はい」

「奪われる前に与えてしまうというのか」
「そうです」

「どうして、そんな風に考えられる」


「昔の私は、貧しくて、非力で。
 そして、何も持たない存在でした。

 いえ、今だってそうです。
 日々、口に運ぶ食べ物があるのは。
 それを育て、運び、料理した人のお蔭。

 着る物があるのは、住む家があるのは。
 それを作った人たちのお蔭です。

 多くの人に支えられ、与えられて。
 そのお蔭で、今の私がある。
 返せる恩義は返さなければ」


「恩義を返す。恩に報いる。理屈は分る。
 親しい者には、それもいいだろう。
 だが、俺に友らしい友など居ない。
 赤の他人に、どこまで出来る物か」


「そうですね。
 本当に赤の他人ばかりなら。
 難しかったかも知れません。

 ただ、身近な大切の人を助ける。
 その人の助けになる様に、
 その人の周りの人も、助ける。
 そうやって、私達の輪は
 広がって行ったのです。

 貴方には居ませんか?
 助けてあげたい人は。
 奪うより与えてしまいたい人は。
 自分よりも大切に思える人は、
 ただの1人も居ないのですか?」



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