〜暴君と侍女の物語Q〜


「ここに出て来たって事は、
 あの悪魔の仕業だな?
 あんた、私に何か用事かね」

「俺は、この女を助けたい。
 どうか助けてやってくれないか」

 死神に頼む暴君ですが、
 死神はそっけなく言います。

「無茶な事を言うモンだ。
 生憎と、人の寿命は決まっている。
 回収しちまった物は戻せないよ」

「そこを何とか!
 代償は払う! 何だってする!
 俺の命をやってもいい!」

「あんたの命を、その女に?
 ただ入れ替えたって、ね。
 私には、何の旨みも無いじゃないか」

「なら……半分と少しではどうか。
 俺の寿命を、半分と少し。
 半分はその女にやって、
 残りはあんたに」

 暴君がそう言うと、
 死神はニヤリと笑います。

「ほほう、面白い取引だ。
 だが、こっちも規則を破る事になる。
 危ない橋を渡るんだから、
 ほんの少しじゃ足りないよ?」

「なら、3等分にしよう。
 もっとやってもいい」

「そこまで言うなら、乗ってやろう。
 だが、そうまでして助けたいのかね?
 そんなに大切な人なのか?」

「俺が彼女を傷付けてしまったのだ。
 本当なら、俺より幸せにしたかったのに」

「あんたの寿命が減って、
 悲しんだりはしないかね。
 そっとしといてやれば?」

「反発はあると思う。
 だが、話し合う。
 このままでは、話し合う機会すら無い」

「相手の為に、傷つく事を恐れないか。
 愛情ってのは、そんなモンかね。
 ま、死神の私ゃ、
 よく知らないんだが」

 死神は鎌を振ると、
 暴君の魂を無数に割ります。
 そして、その幾つかを侍女に与えました。

「ちょいとオマケしといてやったよ。
 せいぜい仲良くケンカでもしてな」

 そして死神が手をかざすと。
 暴君は意識が遠退いて行きました。

 やがて気が付くと、
 彼は元の町に居ました。

 変わらない町並み。
 変わらない世界。

 ただ1つ違ったのは、侍女。
 彼女は息を吹き返していました。

「陛下? 私は、どうして……
 何か、ご無理をなさったのですか!?
 陛下の身に、何が」


「もういい。もういいのだ。
 俺はもう王ではない。

 奪うばかりでは、幸せは来ない
 俺に本当に必要だった物。
 強い国でも、広い領地でもない。

 俺の幸せに必要なのは、お前だった。
 助け合える、支え合える、
 愛し合える相手だったのだ。

 もしお前さえ良ければ。
 2人どこかで、静かに暮らそう」



 暴君と侍女は、国を離れます。

 もう暴君でも侍女でもなくなった2人。
 どこか遠い国で、
 穏やかな暮らしを始めます。

 2人にはもう、
 武器も戦いも必要ありませんでした。



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