〜魔女と王子の物語C〜


 王子の怪我を手当てをする間。
 お婆さんは、昔の事を話しました。

「あたしも昔は、
 ちょいと力のある魔女でね。
 随分と悪さをしたモンだ。
 炎を出して畑を焼いたり、
 雷で家を壊したり。
 怪物に化けて家畜を食べたり、ね」

 得意げに語るお婆さん。
 王子は彼女に尋ねます。

「そんなに力があるのなら。
 どうして町の人たちを、
 やっつけようとしないんだ?」

「やっつける?
 馬鹿だね、この子は。
 どんなに嫌な奴だって、
 誰かの大切な人なんだよ」

「大切な人?」

「そうだよ。親の仇、子供の仇ってね。
 毎日の様にやって来られたら、
 嫌でも分かるってモンさ。
 大切な子供。大切な親。
 人間は木の股からは、
 生まれて来やしないんだ」

「でも石を投げるの間違ってる気がする。
 上手く説明できないけれど」

「連中に比べたら、
 坊やの方が良い子だろうさ。
 だがね。だからって、
 やたらと戦ったモンじゃない。
 正義の味方ってのは、
 誰かをやっつける奴じゃないんだ。
 誰も悲しまない様にって、
 収まる所に収めてやる奴さ」

「でも、お城の人たちは、
 悪い奴を牢屋に入れる。
 彼らは正義の味方じゃないのか?」

「どうして泥棒を牢屋に入れるか……
 坊やは考えた事があるかい?
 勿論、お仕置きの為ってのもある。
 だがねぇ、あたしは思うんだよ。
 誰かがそいつをブチ殺さない様にってね。
 囲んでるんじゃないかってね」

「悪人を守る為?
 それって、変じゃないか?」

「悪党は牢屋で反省する。
 そうでない奴は、
 悪党が牢屋に居れば諦める。
 こうすれば誰も、
 人殺しにならなくて済むだろ?」

「でも、悪党が全然反省しなかったら?」

「その時は、遠慮は要らないね。
 キツイお仕置きをしてやろうじゃないか」

「でも、反省してるかって、
 どうやって確かめる?
 分かる前に、
 次の犠牲者が出てしまったら?」

「お城の連中だって馬鹿じゃない。
 嘘を見抜く方法ぐらい、
 考えて居るだろうさ。
 でなきゃあ、牢屋から出したって。
 見張りをつけておくとか、だ」

「でも、何か……納得行かない。
 よく分からないよ」

「いっひひひひひ!
 お馬鹿の坊やには難しかったかい?
 世の中、絶対なんて物は無いからね。
 疑問を持つのも1つの正解だろうさ」

「じゃあ……どうしたらいいんだ」

「坊やの答えは、
 坊や自身が考えて出すしかないね。
 だが、そう、よぉ〜く考える事さ。
 坊やは誰の為に、
 何と戦おうっていうんだ?
 誰をブチ殺したって、
 平和な明日は来やしないんだ。
 よぉ〜く考えるといい」

「よく、考える……」

「さて、小難しい質問はここまでだ。
 今度はあたしの話をさせとくれ。
 5年ぐらい前の事。
 あたしが悪党の引退を考えてた頃だ。
 剣を持った小娘がやって来て、ねぇ」

 お婆さんは話して聞かせます。
 剣を持った女の子の事。

 魔女は山に封印された事にして。
 お婆さんを山に住ませ、
 町の人を山から遠ざけた女の子。
 それは、今は竜と暮らす、
 隣国の女騎士の話でした。

「最初、行き倒れの所を見つけて、
 メシを食わせてやった。
 それを随分と恩義に感じたようでね。
 人生やり直したいと言ったら、
 何とかしようと言い出した」

「だが、まぁ、何もしないままじゃ、
 町の連中は納得しない。
 あたしたちは戦って見せた。
 3日3晩の死闘」

「なかなか小賢しい相手でね。
 池も干上がる炎に巻かれりゃ、
 泥を被って消す。
 雷を投げ掛けりゃあ、
 剣を地面に突き立てた。
 それより姿勢を低くした」

「繰り出す術を片っ端から防ぎやがって。
 まぁー、小憎らしいガキだったよ。
 あたしゃ、とうとう根負けしてね。
 だが、あいつはあたしを殺さなかった」

「今じゃ、この山があたしの牢屋。
 ババアのあたしにゃ広過ぎる牢屋だが、
 弟子にはちょいと狭いかね」

 戦いに負けた話をするお婆さん。
 ですが、その顔は終始、
 とても楽しそうでした。



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