〜魔女と王子の物語D〜


 やがて、日が暮れて来ました。
 夜の山道は危険な物。
 王子はお婆さんの家に
 泊めて貰う事になりました。

 お婆さんの薬草スープは、
 色こそ、とても怪しげです。
 しかし、味はとても満足な物でした。


 やがて、王子と女の子が寝静まった後。
 何やら言い争う声がします。

 王子が起き上がり、様子を窺うと、
 戸口にお婆さん。
 外には町の人々が詰め掛けて来ています。

「ここが王子様を惑わせた魔女の家だな!」
「さては婆さん、あんたも魔女か!?」
「他に、小さい魔女が居るハズだ!」

 女の子を探そうと、
 中に踏み入ろうとする町の人たち。
 お婆さんは彼らに杖を向け、
 行く手を阻みますます。

「魔女に決まった姿なんて無いよ。
 ありゃあ、あたしが化けてたんだ。
 泣いたフリしてる内に、
 引き下がっときゃあ良い物を……
 掛かっておいで、脳無しの単細胞ども!
 明日のシチューの具にしちまうよ!」

 お婆さんは杖の先から雷を放ちます。
 外の人々が怯えて逃げ散ると、
 お婆さんは大急ぎ。
 王子と魔女の女の子を
 逃がす支度に掛かりました。

「ほら、お起き。逃げるんだ。
 町の連中が、大勢の兵隊を連れて、
 押し寄せて来てる。
 いったん逃げ散ったが、
 きっと、すぐ戻って来るね」

「そんな。でも、どうしてここまで?
 昼間は追って来なかったのに」

「どうやら連中、うちの子が
 坊やを騙したと思ってるね。
 頭に血が上っちまってる。
 何を言っても聞かないだろう。
 あんたたちは裏口から逃げるんだ」

「でも、じゃあ、お婆さんは?」
「お師匠様はどうなさるんです!?」

 王子と女の子が口々に聞きます。

 するとお婆さん、
 2人の肩に手を置き、
 首を横に振りました。

「昔、悪さをした、
 その報いを受ける時が来たのさ。
 ちょいと遅かったが、ねぇ」

「そんな! 私が術を使ったから……」

「これはあたしの身から出たサビだ。
 あんたが気に病む事じゃあない。
 あたしゃ老い先短いババアの身だ。
 惜しい命じゃないさ。
 間違っても仇討ちなんて、
 考えるんじゃないよ」

「僕さえ来なければ、こんな事には」

「ここらの魔女の悪評は、
 そもそも、あたしが原因だ。
 それでも何か責任と思うなら、
 坊や、その子を頼んだね。
 どうにか逃がしてやってくれ。
 出来は悪いが可愛い弟子さ。
 さあ、お行き!
 振り返るんじゃないよ!」

 お婆さんは家の前に出ると、
 巨大な蛇に姿を変えます。
 兵隊たちを相手に牙をむき、
 激しい戦いを始めます。

 王子は魔女の子の手を引いて、
 裏口から逃げ出しました。

「どこへ行くの!?
 お師匠様を助けなければ!」

「戦うだけじゃダメだ!
 収める所へ収めないと!」

 王子は魔女の子を後ろに乗せて、
 馬を飛ばします。

 2人の向かう先は、西。
 遥か国境を越え、
 竜と暮らす女騎士の所へ。




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