〜魔女と王子の物語F〜


 竜に乗せられて、山に戻る王子たち。

 見ると山には、
 大勢の騎士たち、町の人たちの姿。
 彼らは大蛇になった、
 お婆さんと戦っていました。

 双方の間に降り立つ竜。
 すると、町の人たちは歓声を上げます。

「竜の上を見ろ!
 あの時の勇者様だ!」

「どうか魔女を退治してください!」

 ですが女騎士は、
 剣を町の人たちの方に向けました。

「町長さん! 町長さんはどこですか!
 これは一体どういう事です!?
 山に人を入れるなと、
 念を押しておきましたものを!」

 女騎士が言い立てると、
 小柄な老人が押し出されます。
 どうやら彼が町長でした。

「あ、いや、すみません。
 魔女が復活したと聞いて、
 居ても立っても居られず……
 魔女は、ほら、怖いじゃないですか。
 とにかく得体が知れなくて」

「その得体の知れない物に、
 何故やたらと手を出すのです!
 面倒を見切れませんよ!?」

「す、すみません!
 どうか、もう一度、
 魔女を退治してください!」

「私は今、隣の国の住人です。
 内政干渉は出来ません。
 どうしてもという事であれば、
 王様の許可が必要です。
 陛下は今、どちらに?」

「異国の騎士よ、わしはここに居るぞ」

 王様は騎士たちの中に居ました。
 彼は王子を心配し、
 騎士達と共に探しに来ていました。

 王様は女騎士に言いました。

「是非とも力を貸してくれ。
 魔女に連れ去られた王子を、
 大事な息子を助けたいのだ」

「王子が連れ去られたとおっしゃる。
 ならば、こちらの方は、
 どちら様でしょう?」

 女騎士は王子を指して言います。
 王様は、ようやく彼に気がついて、

「王子!? お前、今までどこに……
 無事なのか? 怪我は無いか?」

「あ、あの、父上。
 話せば長くなるのですが」

 王子は事情を説明しようとします。

 魔女の子に助けられた事。
 口は悪いけれど、
 優しい魔女のお婆さんの事。

 ですが、殺気立った町の人たち。
 またも恐ろしい形相で、
 王子に石を投げて来ます。

「魔女がいい人だって?」
「そんなワケがあるもんか!」
「王様、騙されちゃいけません!」
「きっと魔女の仲間が化けてるんだ!」

 見るに見かねた王様は、
 彼らを制して言いました。

「静まれ! 静まらんか!
 確かに王子だという証拠は無い。
 しかし、王子でないという証拠も無い!
 ……少年よ。聞いての通りだ。
 そなたが我が息子であると、
 証明する事が出来るか?」

「証明というと……
 どうしたらいいのですか?」

「もし、そなたが、
 王子しか知り得ない事を知っていれば。
 それは、そなたが王子という証拠になる。
 何でも良い。話してみるのだ」

「僕しか、知らない事……」

 王子は自分の行いを振り返りました。

 お城では悪戯を繰り返しました。
 度々、何かを壊したり、
 家来達にも迷惑を掛け……

 思い出すと恥ずかしいです。
 人前で話すのは気が引けます。

 ですが王子は、気がつきました。

 怯えた魔女の女の子。
 彼女の震える手が、
 彼の手を握り締めています。
 殺気立った町の人たちから、
 助けを求めています。

 お婆さんとの約束です。
 自分がこの子を守らなければ。

 王子は勇気を振り絞り、言いました。

「ごめんなさい、父上!
 母上の大事な花瓶を割ったのは、
 実は、僕なんです!」

「騎士団長の馬を勝手に借りました。
 門番にも嘘をついて、
 お城を抜け出したりして……」

「勉強も、サボってばかり。
 先生に口止めしているから、
 父上はご存じないかも。
 でも、本当なんです」

「もう悪戯しません!
 ちゃんと勉強します!
 嘘ついたりしません!
 だから、どうか、この人たちは、
 助けてあげてください!」



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